第22話:閃光の間で交わる刃
光が弾けた。
次の瞬間、裂けるような轟音が胸を貫き、突風が耳を裂くように吹き荒れた。
砂と石の匂いが鼻腔を刺し、耳鳴りが残像のように耳の奥で震え続ける。
反射的に地を蹴った。
ひび割れた石畳が足裏に痛みを伝え、転がるようにしてその場を離れた。
直後、私のいた場所に雷鳴のような閃光が落ち、白い大理石が粉々に砕け散った。
破片が空気を切り、冷たい金属のような匂いが一瞬立ち上る。
もし一瞬でも遅れていたら、今ごろ私は──。
「っ!」
考える暇はなかった。
轟音が神殿に響き渡り、石柱の破片が雨のように降ってくる。
振動が足元から伝わり、心臓が跳ねる。
「おかあさん!?」
その声に反応して見上げると、グリフォンが爪を煌めかせて急降下してきた。
羽の一振りごとに空気が裂け、耳をつんざく風切り音が耳膜を叩く。
地面に身を投げ出し、転がるようにしてその攻撃をかわした。
グリフォンは再び上昇する。
鷲の頭部は鋭い黄金の眼を持ち、まるでこの世を見通すかのように私を見下ろしていた。
翼を広げると、稲妻が落ち、嵐が渦を巻いた。
風圧が壁を叩き、雷光が床を走る。
だが、狙いは私ではない。
一人の猫人族の女性だ。
ピンク色の毛並みが稲光に反射して淡く光る。
猫の耳が空気を読むようにわずかに動いている。
足元には倒れた仲間らしき人影が二つ。
放たれた閃光を前に、長い槍を構えていた。
「バリア!!」
メグーちゃんの声が鋭く響くと、彼女の目の前に透明な壁が現れ、グリフォンの閃光を弾き返した。
壁が震え、光が乱反射して目が眩む。
銀髪をなびかせる彼女の姿が、まるで神殿の女神のように見えた。
猫人族の女性が振り返る。
翡翠色の瞳が、私たちを捉えた。
「……助力に感謝する。だが、ここは危険だ。下がれ」
声は低く、知的だった。
消耗しているはずなのに、乱れがない。
「下がれません。一緒に戦います」
グリフォンが翼を広げ、雷鳴のような咆哮を上げた。
衝撃が石畳を揺らし、柱から砂が落ちる。
砂煙が舞い上がった。
粉砕された石柱の欠片が宙を舞い、視界を白く染める。
気配が消えた。
先ほどまでそこにいたはずのグリフォンが、煙の向こうへと姿を消していた。
石柱の陰だ。
翼を畳み、巨躯を隠している。
静寂が降りた。
石畳に散らばる砂が、かすかな音を立ててこぼれ落ちていくだけだった。
「……妙だな。なぜ、このような姑息な真似を」
猫人族の女性が呟く。
しかし、私には確信があった。
(あの時の……地龍を前に退いたグリフォンだ)
地龍とやり合って生き延びた人間がいる。
だから、本能が警告を発しているのだ。
胸の奥が冷たくなる。
恐怖が爪の先まで広がる。
「私が引きつける。好きに動け」
猫人族の女性が地を蹴った。
柱の陰から、グリフォンが翼を畳んで飛び出した。
槍が風を切った。
爪と穂先が激突した。
甲高い金属音が神殿に響き渡り、衝撃が床を揺らした。
直後、猫人族の女性の体が横へ弾き飛ばされた。
受け身を取る間もなく、背を石畳に打ちつける。
グリフォンが追い打ちをかけようと翼を広げた。
「夜空に浮かぶ深紅よ、世界を染め上げよ。紅の夜に誇れ、赤月花!」
血のように赤い花が空に咲いた。
花弁は風を切る音もなく、しかし空気の温度を変えた。
匂いは甘く、どこか鉄を思わせる。
グリフォンが、倒れた猫人族の女性へ爪を振り下ろす寸前で──後退した。
この花が何をするか、本能で知っているのだ。
花は地に落ち、マナを吸うことなく散っていった。
鋭い金色の眼が、私を捉えた。
次の獲物を定めるように。
だが、その視線が私へ向いた瞬間、猫人族の女性の体が静かに起き上がった。
「今よ!」
メグーちゃんの声と同時に、猫人族の女性の槍がグリフォンの翼へ深く突き刺さった。
金属が肉を裂く音がした。
グリフォンが高く啼き、体勢を崩す。
震える足を叱りつけながら、足を動かし、手を伸ばす。
灼けるような体毛に触れた瞬間──
「深淵なるもの嘆きに震えよ!這い出ろ奈落草の種!!」
黒紫の種子が、空気を裂くような音とともに放たれた。
種子はグリフォンの体内へと吸い込まれた。
次の瞬間、グリフォンは苦悶の声を上げ、空をもがくように飛び回った。
羽ばたきが狂い、雷鳴が断続的に鳴る。
やがて力尽きて地に落ちた。
静寂が戻る。
耳鳴りだけが残り、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
誰かの声を期待したが、ここにはオーグさんもミリアリアさんもいない。
ただ、石畳に広がる静けさだけがあった。
猫人族の女性が槍を下ろし、息をついた。
胸の上下が荒く、指先に力が残っている。
翡翠色の瞳が、改めてこちらを見る。
「……礼を言う。助かった」
その声に、私の体の中で何かがほどけるように緊張が抜けた。




