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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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自立の前哨戦

 お別れはドラマチックではなかったのだけど、なぜかあとになって絵画にされて残された。

 キャンバスの中では右上にキリュ゠チャと5匹の子竜が飛び去っていく背中が描かれ、キリュ゠チャの背中には7歳の娘が乗っている。反対の左下は城の丘が描かれ、こちらには私と5人の子供と子竜ボラキュクケがいて、ちょっと斜めを向いて空の竜を見送っている。

 絵の中ではボラキュクケも子供たちも寂しそうで、私も心配そうな、いかにも母親っぽい表情で我が子を案じていた。この手の記録ではネゾネズユターダ君はいつも省略される。

 実際にはどうだったかというと、あまり考えたり感じたりする暇がなかった。頑張ってね。気をつけてね。何かあったらすぐに駆け付けるからね。といった形式的なやりとりがあってあとは竜たちが飛び立ち、こっちは手を振るので精一杯だった。泣くとか笑うとかそういう感じではなかった。

 寂しくなるのは翌日以降で、不在に慣れていくのはもっと時間がかかることだ。その日はぶわっと飛んでいってしまってそれきりだった。キリュ゠チャは旋回も宙返りもしなかった。

 日常についての細かい変化はそれからもあった。書いていってもキリがないので省略する。

 4年が経過した。

 私が34歳になり、ネゾネズユターダ君は24歳になった。

 一番上の息子ピュゴダ゠グスが9歳になり、次の娘が7歳、男の子が5歳、次の女の子が4歳。

 それ以降も三つ子を毎年出産し、偶然だけど、男、女、男、女と交互に続いた。新しいメイドとの間にも子供を作ったり、助手と次の子供を作ったりした。また死亡率は4割をちょっと切るといったところだった。いまのところ三つ子が全滅した世代というのは出てきてないが、そういう覚悟も必要だなと感じていた。子供を死なせない魔法も研究していたし、この死亡率は世間よりはぐっと低いというのは分かっていたが、まだ満足いくものではなかった。

 ちなみに生まれたての子供に不老不死の魔法をかけることは可能である。もっとも魔導書の中でも推奨はされていない。理由は想像の通りだ。私も試そうとは思わない。成長しない人間というのは私の趣味ではない。

 ちょっと先の話をしてしまうと、翌年も男の子、次が女の子と、この男女交互出産の記録は私が36歳のときまで続く。

 父親は全部ネゾネズユターダ君である。

 別にこだわりがあるわけではない。別の男との子供がどんな感じなのかなと思うときもよくあった。しかし、ほかの男とセックスしてみると、この男の子供よりはネゾネズユターダ君の子供の方がいいなあといつも思ってしまうのである。積極的なのか消極的なのか自分でもよく分からないが、ネゾネズユターダ君よりいい男は見つけられなかった。というわけでいつも彼との子供を生んでしまう私であった。ネゾネズユターダ君本人にはそんなことは言わず、なんか別の男との子供も作ってみたいわあなどと言ってしまっているのだけど。

 一応言っておくと、24歳の彼はまだまだ元気だし、34歳の私もまだまだ元気だった。なんのことかは言わないけど。

 “草と風のドラゴン”キリュ゠チャ゠リヘツイブン゠テゾツ゠ノーニューヒャーが城を去ったあと、周囲の土地は豊かになり、作物が育つようになった。近くの湿地帯では赤潮あかしおも発生した。『肥料生成』の魔法を彼女が唱えていったと私は推測しているが確証はなかった。11歳になった娘の『マーカー』は消えていなかった。しかし私たちの前に顔を出すことはなく、大陸中央より西側、人里離れたところで暮らしている——たまにダリスー地方を離れてもっと遠くに消えてしまうときもあった——のが分かるのみだった。

 兆候はすでにあったが、その年のラブパレードは最初から不穏だった。転送ゲートで直接ダトベと接続するようになってからも4年が経過し、元の領主ホセデレズバの遺伝子をはえの遺伝子と融合させてから8年が経過していた。ギュキヒスの役人とダトベの役人だけでなく、レシレカシからの役人も配置した混成統治による力の綱引きがあったが、徐々にギュキヒスの勢力が排除されつつあった。

 つい先月には内乱と暗殺未遂があり、危機感を覚えたギュキヒスがいよいよ軍隊をダトベに派遣するのではないかという噂が立っていいた。

 私が自立する36歳の出来事の前に、2年前のこの前哨戦の話をしよう。


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