魔法学校とブユ族
族長は相変わらずエネルギッシュで生命力に溢れていた。白髪は混じっているが顔の皺も含めて加齢がきっちり魅力になっている。私が応接室に入ると先に入っていた彼が私にハグをした。強い香水の匂いがした。それからネゾネズユターダ君とハグをし、最後に私が雇っているヂゲリュツ城責任者の男とハグをした。族長はその男に笑いかけ、元気にやってるかと聞いた。彼ははい、やってますと答えた。この雇った男と族長のやりとりは気になってしまう。
族長はそれから私を見た。「“草と風のドラゴン”の巣立ちが近いそうで」
「ええ。そろそろだと思います」
「俺は会ってもいいのかな?」
「どうぞ。問題ありません」きりがないので見学は規制していた。「竜の子供はかわいいですよ」
「それで魔法学校の件だがよく分からないので聞かせてくれないか?」
「その前に報告があると聞いたのですがどちらの話を先にしますか?」
族長は躊躇なく答えた。「学校の話だ」
「私はギュキヒスの人間ですが、勘当されて今は魔法大学の教授という立場です。ギュキヒスも魔法学校に支援はしてますが、私に直接は関わりません」私はそこでニヤっと笑った。「実家では問題児だったもので」
族長も私に合わせてニヤリとする。「噂では聞いている」
「なのでまあ、私がギュキヒスのために何かをするということはないんですが、レシレカシのためには色々としなくてはいけません。この城の運営もそうです」
「“草と風のドラゴン”もか?」
「魔法大学に興味はあるみたいですね」私は言った。キリュ゠チャから直接言われたことはない。しかし関心があるのはなんとなく伝わってくる。「まあ、つまり、族長にも魔法学校とは友好的にしていただきたいということです」
「……」族長は他に3人の部下を連れてきていた。彼らに目配せしたあとで部屋の中央を示した。「そろそろ座ろうか」
「そうですね」
私たちは応接室中央の椅子に座った。大きいテーブルが中央にあって左右に向き合って座ったので会議室みたいだ。南西蛮族は部屋に名前をつけてそれに沿った装飾をする文化がある。この部屋は『草と風の間』である。キリュ゠チャだけでなく湿地帯もイメージした緑と揺れる草、そして太陽の光を反射する水面が周囲の壁に描かれていた。ドラゴンは南の壁に小さく描かれ、そのほかにでかい置物になって配置されていた。たった10年ちょっと居座った邪魔者なのに、ブユ族の崇拝を受けつつあった。
「うちからも魔法学校には毎年何人か入学させている。寄付もしている。友好的だと思っている」族長は言った。「だが最近は魔法学校のよくない噂も聞く。国を名乗り、周囲に領土を広げているとか。大陸の統一を狙っているなんて話も聞く。この城が飛び地にならない保証はあるか?」
「私は教授で研究者なので答えられませんが、この城にもレシレカシの代表者を置いて、この男と共同でこの城を運営していただこうかと思っています」私はこちら側に座っているブユ族のヂゲリュツ城責任者を手で示した。「レシレカシとギュキヒスはあまりうまくいっていません。ここだけの話、そのうち衝突するでしょう。ブユ族にも悪い話ではないと思います」
「狙いはなんだ?」
「うーん」私は顎に手を当ててわざとらしく考えるフリをした。「これを信じていただけるか分かりませんが……」
族長は相槌を打つ。
「魔法学校の学者たちは大陸の中で人が争いをしているのを非効率だと考えているみたいなんですよね。うちの先生たちは非効率なことが嫌いなので。まとまって助け合った方が強くなれると」私はそこで言葉を切った。
族長と1人の部下は椅子に座り、残り2人の部下は立ったままだった。全員が何も言わなかった。族長は表情を変えていなかった。しかし今回の私とのやりとりで予想していなかった情報があるとすればこの回答だったはずだ。この間にそれが現れていた。「なるほど。よく分かった」




