自分勝手に寂しくなる話
卵の孵化を目撃した人間はいなかった。明け方にゲッゲッゲッという雛鳥のような鳴き声を聞いた研究員のビイネズ・ビュペモムドジリスーが第一発見者だった。彼女は報告をせずにただ観察を続け、報告はメイドの方から私たちに伝えられた。学生で休学中のマキャイヴ・サビプグシャセもすぐに駆け付けた。
私が城に顔を出した頃には6匹とも孵っていて、キリュ゠チャが舐めて綺麗にした後だったので生まれたてですらなかった。鱗は窓から入ってくる朝日を受けてつやつやと光っていた。光沢があり、蝶の羽のように構造色を持って虹色になっていた。ベースとなる鱗の色は3匹が雪のような白で、残り3匹は鈍い金色だった。雪山のドラゴンは白という話だったし、南の島にいるドラゴンは黄銅の色という目撃情報があったので、不思議ではなかった。キリュ゠チャの緑がいないのは変な気分だったけど。白と黄銅といってもどちらも光を受けて青や紫のグラデーションを作っていた。すでに4本足で立ち、翼を広げてばさばさと歩き回っていた。
研究者2人は目を丸くして何も見逃すまいとじっと見ていた。
鳴き声は雛鳥に似ている。私は鳥の種類は分からないけど、小鳥の囀り声ではなく、もっと野太いゴツい声だった。カラスの雛のようなおっさん声である。体がでかいからな。スイカから出てきたけど体を伸ばすともうその辺の犬より大きい感じだ。口にはギザギザの歯が生え揃っていた。私が着いたときには出された鶏をキリュ゠チャが捌いて普通に生肉を子ドラゴンに与えていた。そんでもって無花果とマンゴーも食べていた。ドラゴンの食事は記録にもあまりないので貴重な記録である。いくときは人間でも馬でもいくらしいけど。
翼はちょっと小さいし、頭の後ろに生えた2本の角も短いし、胴体も短い。しかし他は成獣のドラゴンと相違ない。足は最初から太いし爪も生えている。4つの目も揃っていた。この辺はトカゲっぽい。人間とか鳥のように生まれたてが親と全然違うということはない。
短いので翼が肩甲骨から生えたもう1組の腕のように見える。
「生まれちゃったなあ」私は呟いた。
数時間後には子供たちが『魔力探知』を使い始めた。あまりにうざいので私は城から退散した。しかし6匹の子供たちが私の魔力に興味を持ったのは分かった。私に向かって6匹が交互に『魔力探知』を使うからだ。無詠唱で。こっちは心の準備もなしに食らってしまうのでたまったものではない。
子供たちに教えると学校に行く前に見たがったので、ネゾネズユターダ君に付き添いを任せた。私は『魔力探知』のハーモニーに参ってしまったので付き合わなかった。
久し振りにレシレカシの自分の家に私1人だった。
板発条塔の面会のあとはいつものように図書館に行くつもりだった。その前に娘と話す必要があるかと考えたけど、娘がどう言っても私は決めてしまったので、話す必要を感じなかった。
キリュ゠チャが卵を生んでから40日が経過していた。
私の子供たちの突然死からもそれだけの日数が経過していたし、すでに私は次の三つ子を妊娠していた。
3人目のメイドも三つ子を生んでいた。初期3人のメイドたちは自分の子供を持てたことになる。
また、1人目と2人目のメイドはなんと結婚相手が現れた。どちらもブユ族の20代の若い男で年の差が20近かった。城と家を行き来しているうちにいい雰囲気になったらしい。元が美人な上に『肌をすべすべにしてシミとシワを取る魔法』をかけていたし、南西蛮族と違ってロングスカートで肌を隠す清楚な感じはブユ族の若い男のツボに入ったようだった。運命の人がどこに転がっているかは分からないものである。どちらのメイドも子持ちだけど南西蛮族では問題にならなかった。
家を出るわけではないが私の側仕えというわけにはいかないのでヂゲリュツ城の住み込み夫婦という雇用形態になった。
新人のメイドは山の下の宮殿で主に働いている。レシレカシにいるのは乳母や保育士といった子供相手の大人たちである。
今も2階や3階からは子供の泣き声が聞こえる。
急な孤独感に襲われて、私は胸のあたりがきゅーっとなった。
ドラゴンを見に行った子供たちが帰ってくるのを待ってられない。
「もう面会塔に行くわ。準備してちょうだい」
「分かりました」
私が告げると新人のメイドが丁寧に返事をした。




