乳白色の髪の女神のお気に入り
30日が経過した。私は城に顔を出した。
ドラゴンは孵化までずっと卵を温める習性があるわけではない。巣から離れて狩りをしたりする。しかしこのときの彼女はずっと城にいて卵から離れなかった。食事を与えられるので自分で狩りをする必要がなかった。
彼女とは養女の提案をされてからも頻繁に会っていた。本人に伝えたことも教えていた。ほかにも細かい質問をいくつもして、子供の交換における懸念点などはほとんどなくなっていた。話を聞きつけたドラゴン研究者の2人も会話に加わろうとするのには閉口したけど、結局、彼女たちにも質問させることにした。私から出ない質問も多かったからだ。彼女たちの質問が交換したドラゴンの育て方に偏るのでまるで交換が既定路線になってしまったが、私は何度も決定じゃないからねと釘を刺した。
パビュ゠ヘリャヅ本人も城には顔を出し、キリュ゠チャと会話をしていた。“草と風のドラゴン”が空気の振動を制御するので会話の内容は誰にも分からず、私も2人が話をしていたということしか報告で聞けなかった。喧嘩や言い争いは起こらなかったようだ。かといって娘が自分であなたの子供になりますと言ったという話も聞かなかった。表情のみの報告では、2人の会話は時に真剣で、時に笑いが起こっていた。
この日はキリュ゠チャと孵化はそろそろといった会話をしたあとで無言になった。
なんとなく心が決まっていたのだ。
私はこれまでに確認してきたことをまた口にした。「娘に『マーカー』を付けるのはいいんだよね?」
「もちろんだ。あの娘が自分で外さない限りは」
すぐ外すだろうな。私は思った。私だったらすぐに外す。7歳の今はその技術が無いけど外せるようになったら娘は躊躇しないだろう。
心が決まっているというのは、つまり、なぜか私は娘に優しくするより厳しくする方を選んでしまうということだ。彼女をドラゴンに預ける必要などない。父親と引き離す必要もない。絶対に傷つくし絶対に性格が変わってしまう。それでも心のどこかに『いい気味だ』という気持ちがあった。娘を恨んでいるわけでも、何か嫌なことをされたわけでもない。しかし、こういう風に選択肢を与えられたら残酷な方を選んでしまう。『かわいい子には旅をさせよう』と後付けの理由を探してしまう。これが彼女のためだと思う。
1つには自分も親の愛情など受けなかったから、幸せそうなパビュ゠ヘリャヅを見てると腹が立ってくるという理由。
1つには子供を失ったばかりなので、積極的に子供を失うことで何かのバランスを取ろうとしていたという理由。
言葉にするとそういうことになるかもしれない。けど、それも後付けのような気がする。ただなんか、親の庇護を失って泣き叫ぶ娘が見たいだけかもしれない。
そんな気持ちが人間の親の中にあるっていうこと、あなたも分かるのではないだろうか?
「あなたの子供が病気になったりしたらどうするの?」私は言った。「怪我をしたり、何か変なものを食べたり」
「ちゃんと育ててくれたらいい」キリュ゠チャは首を傾けて1つの目を私に向けた。「成人したら迎えに行く」
竜が成獣になる年月も人間とほぼ同じ20年と聞いていた。そのときには互いの子供が親の庇護を離れるという約束だ。そのあとで実の親に会いに行くかどうかはそれぞれの子供の気持ち次第だ。
「質問の答えになってないと思うけど」
「事情次第だ。殺されたと分かったらこちらにも考えがある。『加護』を付けるから死んだら私にも伝わる」
「分かったわ」
「いいのか? 普通は子供を手放すのは嫌なものだろう?」
「そのかわりあなたはこの城を守ることを約束してくれるんでしょう? 悪くない取り引きだわ」
「そうか」彼女は言った。「その決断はアミュヘゾパウユも気に入るだろうな」
私はカチンと来た。「そんな理由じゃないよ。それだけは本当にない」




