隠すつもりはなかったけど
「それで学校はどうするの?」パビュ゠ヘリャヅは小さい女の子特有の高くて甘い声を出した。
「まだ決めてない。けど、多分無理じゃないかな。キリュ゠チャが先生になるってことだから」
この娘は学校が好きである。勉強が好きなのかは分からないが子供達の中でガキ大将をやるのが楽しくてしょうがない感じ。子供の頃の私に似てる。私の身の回りに子供はいなかったから大人としか遊んでないけど。
「えー……」娘は絶句したまま私の顔をじっと見ていた。返事を迷っている感じだったが、嫌ではないようだ。
私の方も娘の顔を見て、「まったく無しではないみたいね」と言った。
「……行くとは言ってないよ」娘は言った。子供なのに慎重な言い回しだった。いつの間にか大人っぽくなっていた。
「ん、分かった。彼女への返事は保留にしておくわ」私もじっと娘と目を合わせた。「けど、たぶん、彼女の卵が孵る頃には返事が必要だと思う。それまでに考えておいて」
「それってどれくらい?」
これは本人から聞いたわけではないが沢山の記録がある。「んー、30日から60日くらいでバラバラだけど、最低でもあと20日以上はかかるんじゃないかな」今のキリュ゠チャは栄養状態も巣の状態もおそらく完璧なので孵化は早いはず。だけど記録にあるドラゴンの卵のサイズより大きいからその分は伸びるだろう。普通はオレンジとかメロンくらいらしいけどキリュ゠チャの卵はスイカより大きい。「30日で考えていいよ。それより早くても急かすことはないから」
急に顔が明るくなった。「分かった!」
7歳児にとって30日は遥か未来だった。この話はすぐに蒸し返されることはなく、結果としてしばらくネゾネズユターダ君の耳に入ることはなかった。一緒に聞いていた5歳の息子も父親に何も言わなかった。
それから私はメイドと助手にちょっと謝罪した。子供を亡くした直後になんでお前の子供じゃなくて私の子供なんだよと言ってしまったからだ。皆が私の謝罪を受け入れてくれた。本心かは分からない。
一ヶ月のドラゴン不在の間に世話係として雇った研究員と学生はやめなかった。不在になったら帰ってくるかも分からないのに大学には戻らなかった。そのまま城の他の飼育係のヒアリングを始め、更にブユ族全体に聞き込みの範囲を広げて“草と風のドラゴン”の情報を集めるという活動に切り替えていた。ドラゴン好きの研究者の情熱は侮れないものがある。
もちろんキリュ゠チャが帰ってきたときの喜びようもすごく、黄色い声で「ぎゃー、おかえりなさいいい!」と涙を流して絶叫するほどだった。その上キリュ゠チャが産卵したものだから興奮しすぎて2人で抱き合って踊り出す始末だった。というかこの2人は嬉しいと踊る性格らしい。
ドラゴンが好きなのはいいけど好きすぎてトラブルを起こさないかと不安になる。
私は聞かなかったのにこの2人は父親は誰ですかと普通に質問し、答えまでもらっていた。大陸北西にいるドラゴンと南の諸島にいる別のドラゴンとで、6つの卵は3つずつパートナーが違うそうだ。父親ではなくどっちのドラゴンも雌で『女同士で子供を作る魔法』で作ったという。つまり卵の中は全部雌である。といってもドラゴンは成長途中で自由に性別を変えられるんだけど。
そんなこんなでさらに数日が経過した。子供の方が順応性が高く、兄弟の死を忘れつつあった。子供の死に一番ショックを受けたのが私で、次が長女のパビュ゠ヘリャヅだ。他の人は慣れていた。そして私も娘も慣れている人が近くにいるおかげでその死を忘れていった。
それからさらにしばらくが経過し、20日間を過ぎた頃、ネゾネズユターダ君が寝室で養子の件を切り出した。娘と遊んでいるときに不意に彼女がそのことを喋り、そこで初めて彼は知ったのだった。




