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魔法使いザラッラ  作者: 浅賀ソルト
“評価不定”の2つの自立
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つい残酷

 聞き直したが意味はその通りだった。キリュ゠チャは子供の交換をしたいということだった。

「それは何の意味で? あなたに人間が育てられるの?」少なくとも私の知識にドラゴンのこんな申し出の記録はない。ただ人に育てられたドラゴンやドラゴンに育てられた人間の話はいくつかある。その中にはこんな交渉があったりしたのだろうか? 私はちょっと笑みを浮かべた。相手がドラゴンなのだけど、冗談として聞き流す感じに愛想笑いをした。「いや、詳しい話を聞いても無駄だな。どんな条件を出されてもノーだよ。ははは」

「本人に聞いてみてくれないか?」

 私は口に手を当ててキリュ゠チャの顔をじっと見た。目とか表情筋から感情を読み取るのは無理なんだけどついやってしまう。まったく分からないかというとそういうわけでもない。

 キリュ゠チャのこの申し出は非常識なものではあったけど、口で言うほど絶対的なノーかというと、そういうわけでもなかった。それどころか頭の奥深く、本能的な感覚の根っこで、自分はこの申し出に逆らえないという気さえしていた。変な話なのだ。ありえないことなのだ。だけど魅力的な提案であることは否定できない。

 いや、しかし!

 本人に聞いてみるって? ねえ、キリュ゠チャがあなたを養子に欲しいって言ってるのであっちの子にならない?って聞くってことか?

 いやいやいや。ネゾネズユターダ君と7歳のパビュ゠ヘリャヅの親子の仲の良さは見ている。あの2人を引き裂くのは残酷すぎる。

 私は口に手を当てたまま、「残酷とはいえ、そういうものなのかもしれないな……」とつぶやいた。

 キリュ゠チャは返事をしなかった。


 それからしばらくは考え事で何も手につかなかった。家族は死んだ子供達のことで呆然としているのに、私だけほかのことでぼーっとしていた。

 ネゾネズユターダ君は7歳長女のパビュ゠ヘリャヅとよく一緒にいた。お姉ちゃんたる彼女は妹や弟たちに君主のように君臨し、その面倒を見て、叱り、時に命令したりと好き放題やっていたので、その死を自分の責任のように感じていた。

 考えれば考えるほどドラゴンに子供をあげちゃうというのもありかもしれないという思考になってしまうので、後日、キリュ゠チャに理由を聞いてみた。どうして私の娘を欲しがるのかと。

 彼女は相変わらず城の広間で卵を温めていた。

「あの娘は頭がいい。魔力もある。実に魅力的だ」

「それはあなたが自分の子供を差し出してでも欲しいものなの?」

「そうだ」

 私はまた沈黙して考えてしまうのだった。こんなことをドラゴンに相談している時点で、子供の交換をありだと考えていることはバレバレなわけだけど。

 我が家の雰囲気は7歳のパビュ゠ヘリャヅが決定していると言っていい。学校から帰ってきたらひたすらメイドとお喋りし、ネゾネズユターダ君が研究室から帰ってきたら彼とお喋りし、私が帰ってきてもネゾネズユターダ君とお喋りを続けている。その間に兄弟と遊び、おしめを取り替えたりご飯を食べさせたりといった世話までする。そして最後まで騒いでいていきなり疲れて寝る。エネルギーの塊のような生き方をしている。

 私は家の中の頂点ではあるんだけど、図書館で本を読んでいるか寝室でセックスしてるかのどちらかで、家の運営には関与していない。家の中の存在感で言えば圧倒的にパビュ゠ヘリャヅが上だ。

 生まれたての妹と弟が死んで彼女は口数が少なくなり、それに引き摺られて家の中の雰囲気も暗くなってしまった。メイドたちでさえ、子供が死んだことよりもパビュ゠ヘリャヅが暗くなったことに影響されて沈んでいる。

 さらに数日が経過した。学校に通うことで娘は徐々に気持ちを切り替えつつあった。私もまた、セックスを再開して、なるべく今とこれからを意識するようになった。

 私はある日、まあいいかという軽い気分になっていて、徐々に雰囲気が戻りつつある家で、朝、私が板発条いたばね塔の面会に行く前に娘に声をかけて話してしまった。「城のキリュ゠チャがあなたを養女にしたいって言ってるんだけど、あなたはどう思う?」

「え? どういうこと?」

「なんかねー、あなたは見所があるので自分で育てたいんだって」

 娘は体を固くした。顔にははっきりとショックを浮かべていた。

 これを話したのは山の下の宮殿ではなくレシレカシの家で、リビングには私と娘のほかにメイドや5歳の息子、2歳の娘もいた。ネゾネズユターダ君はたまたま宮殿の方にいた。それは自分でも無意識に彼がいないタイミングを狙って話したのかもしれない。

 彼女は目を丸くして私を見ていた。どうしてとかなんでとか、私を非難する感情が伝わってきた。彼女が傷ついたのは理解できたが、特になんとも思わなかった。


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