表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/192

4-2話 世界を隔てる境界線

第四章:ヘイネス マーダートリック:


 大翔(ヒロト)達の行く手を(さえぎ)るように、酒癖の悪い荒くれ共が集まってくる。それは大人数による、たちの悪い嫌がらせだった。


 これは嫌がらせに屈して移動を留まるか、有力クランの集まる場での抗争か、を迫る、脅迫にも近いゲームなのだ。悪魔騎士(デビルスナイト)異名(いみょう)を持つ幸太郎(コウタロウ)を正面にして、互いに対峙したまま、徐々に距離を詰めていく…。


(クライ レブナントの腰巾着(こしぎんちゃく)のくせに生意気だよねぇ。C級レアボスの大規模戦(レイド)闘で集まったもんだから、強く出ちゃってもう…)


 猫耳娘が小さくハミングをしながらインカムを飛ばしてくる。愛らしい表情のまま、結構なご立腹らしい。


 すでに彼女は3種の強化(バァフ)を重ねていて、少年も視線をそらしたまま、上位魔力身体強(ハイバァファー)化と魔力身体強化までは撒き終えていた。身体がウォームアップしたように熱を持ち、足先が小さくリズムを刻んでいた。既に戦闘準備は万全である。


 そこで地味に嫌な気配を感じて、大翔(ヒロト)がその方向に振り返った。たむろする数十人の、完全武装のハンター達は、男女入り乱れての混成チームだ。その一番外側に、此方を睨みつける、片目に大傷のある男と視線が合う。


 こいつは、少しは骨がありそうだな?


(なぁ、あの壁沿いで煙草吸ってる、顔に傷のある銀髪は有名人なのか? 黒茶の外套(コート)姿の大男かな… 俺めちゃ睨まれてるんだけど?)


 瞬間、仲間の視線が一斉に真横をチラ見した。とたんに幸太郎(コウタロウ)が、鼻先でふんっと笑ってみせる。


(あれはなぁ、鬼畜(クソ)クラン『クライ レブナント』のクランマスター、刈野(カリノ) 龍悟(リュウゴ)だな。まぁ陣営内でも特に要注意なゴミ野郎だ。ヒロトも気つけろよ? あれは根っからの犯罪者だからな)


 銀髪をオールバックする男には、多少なりとも危険感知が反応している。奴は悪魔のような残忍な表情で、煙草の紫煙を吐き出して、にぃっと笑った。


 あんた、どんだけ悪役顔なんだよ……。


 龍悟(リュウゴ)の背後から近づいた、長身細マッチョの長弓(ロングボウ)持ちが、此方を見ながらこそこそと耳打ちをしていた。


(それじゃみんな、面倒事が増える前に、スマートに立ち去ろうと思うんだ。ヒロトの魔力腕(マジックアーム)は、彼等の隊列を()()()分断できるだろうか?)


(ああ、余裕だろう?)


(うんうん、良い返事だね。それじゃ城門へのスペースが開いたら、各自で壁外へと全力離脱をしよう! それじゃヒロト、Let's Showtime !!)


 無駄に流暢な英語を合図に、大翔(ヒロト)魔力(マジック)腕気(ソウル)功撃(アームズ)が、三列に重なった男共の隙間に差し入れられた。


(さぁ、みなさんそっと左右に移動してもらいましょう… 優しい心配(こころくば)りで… よいしょっと)


 まるで見えない壁に押されたように、野郎共の人垣が、左右に割れて城門までがフリーになっていく。


「な、何だよこれは!?」


「おい! 押すなって!!」


「てめぇが押してるんじゃねぇか!」


 脚がもつれた幾人かが、将棋倒しのように転倒をすると、あちこちで罵声が放たれた。その間を逃さずに、背に悪魔の翼を実体化した幸太郎(コウタロウ)が、桜咲(サクラ)を片腕に抱いて超低空飛行で加速をした。ゴッと土埃が盛大に舞い上がると、勝治(カツジ)達の頭上に降り掛かる。


 その爆撃機のような気流の直後を、鳥獣人(ハーピー)の羽で滑空するダークエルフが、雪崩れた人波の中央でコークスクリューを披露しながら追随していく。


「それじゃ諸君、これで失礼するよ」


 聖騎士(テンプルナイト)のスキル『アドバンスダッシュ』で、城門前に一瞬で辿り着いていた香音(カノン)。彼女は完璧な淑女の挨(カーテシー)拶を周囲に見せ付ける。そして横並びする大翔(ヒロト)に片手を預けると、エスコートされるように、優雅に背景へと溶け消えてしまった。


 彼のコンポスキル『神隠し(アドバンス ハイド)』は、大勢に視認される只中でさえ、その存在を完全に消し去って見せた。その強力な潜伏スキルを、看破できるプレイヤーなど、この砦には存在しなかった…。


 遠目から様子を眺めていた、顔傷の龍悟(リュウゴ)が、面白く無さそうに視線を外して、指先の煙草を足元へと投げ捨てた。





 ◇



 


 そこは苔むした煉瓦(レンガ)積みの小さな水場だった。プレーリドックに似た哺乳類らしい小動物が、その煉瓦(レンガ)上で世話しなく首を動かしている。まぁ、でかくて太ったリスとも言うが…。


(この子可愛いね!癒やされるー)


 猫耳娘が身を屈めると、それに習うように彩葉(イロハ)もしゃがんで顔を寄せあった。二人の視線を気にも止めずに、彼は水場に波紋を残して、小さく水を飲んで見せる。潜伏(ハイド)スキルで気配を消した彼女たちを、大リスは認識できないのだ。


 そこで広葉樹の背景から、現実へと実体化するように、大翔(ヒロト)香音(カノン)が隠蔽を解除した。魔導通話(インカム)機で打ち合わせした通りに、西方に10キロ程離れたこの泉で、全員が合流を果たしたのだ。


「いい感じに突破できたわね。でも、本当にカツジの奴には頭にくるわ。今度合ったら絞め落としてやろうかしら」


「それは止めたほうが良いと思うよ? 彼にとっては、イロハに羽交い締めされるだけで、ご褒美になると思うんだよ… 構って欲しくて絡むんだから」


 此処までの距離を、大翔(ヒロト)と手繋ぎしたまま走って来たのだが、互いに息のひとつも上がっていない。それだけ二人の気力(VIT)が多いのだ。


「まぁ、奴らは戦砦エイダルから北に上って、北部エイダル湿原に向かうはずだから、もう出くわす事も無いと思うよ」


 それを聞いていた幸太郎(コウタロウ)が、巨大なタワーシールドを背に担ぎ直す。


「なぁ桜咲(サクラ)、今のは近々未来予測的には、どう見えていた?」


 少女は細い尻尾をゆらりと流すと、彼氏の傍らに身を寄せる。安心安全の定位位置らしい。


「んー 最悪はあの場の全員で大乱闘(バトルロイヤル)… 最良は全員でヒロトに抱きついての、高位潜伏(ハイド)で隠れんぼかなぁ? でも、どの選択でもたいして変わらないから黙ってましたぁ」


「全員バトルでも問題ないのね…?」


 大翔(ヒロト)が呆れたように声にする。


「うんうん、問題なーい。わたしたちは最強!!」


「出だしから邪魔が入ったけれど、目的地に向かって出発しよう。夕暮れまでには『スパイク ロック ピーク』を超えたいからね。コウタロウ引き続き先導を頼むよ。ヒロトは正面、サクラは後方の索敵と警戒を頼もうかな。街道沿いでも魔物(モブ)が出るから気を抜かないようにね」


 そうして、幸太郎(コウタロウ)を先頭にして、左右に大翔(ヒロト)彩葉(イロハ)、後ろに香音(カノン)と最後尾が桜咲(サクラ)という隊列で移動を開始した。移動といっても、それは結構な速度での走破になるらしく、草の無い踏み固まっただけの荒れ道を、マラソン選手並みのスピードで、ずんずんと進んでいく。


「凄い絶壁だな。これってずっと続いているのか?」


 定期的に索敵領域のソナーを放ちながら、左手に続く大絶壁(グランド クリフ)を見上げて言った。それは南部の多湿な気候によって、壁面の殆どを樹木とシダ植物で覆われた、緑色の断崖だ。複雑な形状で延々と続く様は、まるで世界の()てのような絶景だった。


「陣営の各都市国家を守るように、この大絶壁(グランド クリフ)は大陸を横断しているんだよ」


 聡明で可憐なエルフ少女が、小さな歩幅でちょこちょこと走る姿が、可愛らしい。


大陸(アレス)には、この大絶壁(グランド クリフ)、中央部を複雑に走るハイズ連峰、そして敵陣営を守る鉛色の大渓谷(にびいろ キャニオン)の三大境界線で分断されていて、それは軍事的にも最重要視されているよ」


「なんか、それ戦略(ストラテジー)ゲームの、最初のMAPにありそうだな…」


 彼の1.5キロに迫る気配探知の領域には、驚異になりそうな反応は無い。珍しく広がった青空の下、光に満ちた明るい丘陵を、彼等は軽い足取りで駆け抜けていく。


「まぁ、景観的には、ずっとこんな感じで飽きるかもだけど、崖沿いを進めば目的地だから、迷うことだけは無いと思うよ?」


 香音(カノン)がそう言って苦笑をした。しかし樹海以外を知らない少年にとって、十分過ぎる程に、楽しめる行程となった。


 波のように高低を繰り返す丘陵には、時には鮮やかな紫色に、時には緑と純白の花々に埋められて美しく、道端には色とりどりの無数の色彩が、虹色の小道のように連なっていく。


 またその先では、視界一杯の壁面を、巨大な大滝が飛沫(しぶき)をあげて、それはやがて大河となって、右の地平近くの湖水群まで連なっていた。その大平原こそエイダル湿原と呼ばれる、大陸最大の湿原エリアになるそうだ。(あし)と水草の絨毯が視界の届く果まで緑玉の色(エメラルド)に埋め尽くしていた。


「やば… 俺、めちゃくちゃ感動してるんだけど… これを飽きるとかないだろ?」


 左手に水飛沫の白煙を上げる、ミニナイアガラ的な大滝を眺め、右手には(きら)めく湖水と、大湿原の地平線を望んでいる。やがてそれらを繋ぐ大河川と、そこを渡る石柱に支えられてアーチ橋に行き着いた。と、その時……。


(正面に索敵反応!! 何だこれ… 薄くて広くて… 獣喰らい(ビースト イーター)みたいな反応だな)


(わたしも感知したよー これは、()()()()だねぇ)


 桜咲(サクラ)が肯定するように続けてくる。一行はフルマラソンのトップグループのように、速すぎるランニングで渡河を始めた。近くで見れば石橋は四車線はありそうな幅広の堅固な造りで、二つのアーチが連なった眼鏡橋に似た構造だ。


(ちょっとヒロト、今、獣喰らい(ビースト イーター)って言ったわよね? 君は()()に出会った事があるの?)


 ダークエルフの美少女が、少年に一歩近寄ると並走を続けている。


(出会ったというか… 凶獣の森(チュートリアル)で俺たちを殺したのが、獣喰らい(ビースト イーター)だからな… まぁ最後は倒したから()()()かな?)


 『倉庫』から引っ張り出した怨み(グラッジ)の獣喰らい(ビースト イーター)(ロッド) を、左右にフリフリして見せびらかした。


(( えっ !!!!? ))


 全員が同時に息を飲むのが聞こえてくる。


(えっ? 何んだよ、その反応は……?)


(ヒロト… 君は本当に規格外だね。そのレベルで獣喰らい(ビースト イーター)を倒したっていうんだね? まぁ、その超低確率でしかドロップしない、幻の杖を持っているのだから、疑いようもないのだけど… やはりクインテットは常識が通じないね)


(ヒロトと始めて出会った時… 獣喰らい(ビースト イーター)と闘った直後だったのね… それで、彼女と死に別れて……?)


 あの怪物と二人きりで闘う事が、どれだけ無謀で恐ろしい事なのか、彩葉(イロハ)も十分に理解をしていた。 


 彼女が走りながら、静かに少年の肩に手を添える。


「出会った時、すでにヒロトは戦士だったんだね…… 良く頑張りました!」


 彼女は精悍な瞳を、慈しむように柔らかく緩めて微笑んだ。


(ねぇー なんか話し盛り上がってるけれど。対岸が危険(ヤバ)そうだよ?)


 桜咲(サクラ)の指摘に、全員が正面を向いた。橋の終わりから続いている、針葉樹(コニファー)の若草色の並木道が美しい。そして、それを彩るように、色鮮やかな蝶々の群れが、幻想的に舞っているのだ。


(まるで天界の(ガーデン)みたいな光景だけど、反応あの辺り一体から返ってきてるな)


(ああ、あれはね… 毒虫だから)


 香音(カノン)が当たり前のように、そう呟く。


(え?)


(あの蝶々みたいなのは、小さな魔物の群れなんだよ… そしてヒロト、その杖を僕に貸してはくれないか?)


 何故か少女は、ソワソワした様子で、小首を(かし)げてお願いをした…。





 


 

 



 ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ