4-1話 戦砦エイダルでの遭遇
第四章:ヘイネス マーダートリック:
第四章が始まりました! 大翔達五人は高難易度のフィールドダンジョン:ヘイネス マーダートリック:へと遠征に出発します。
そして少年は、クランハント当日を迎えていた。
流石に朝練は無く、早目の朝食の後、幸太郎を先頭にフォートBを出発する。周囲は朝霧のために、僅かに白く霞んでいた。
「それじゃ僕が、魔術施錠を起動しようか」
例の叩き金付きの潜戸を抜けると、香音が振り返って大扉の中心に平手をかざした。
「さてと結界を起動する。カノン ムカイナが命じよう… フォートBを完全隔離せよ」
少女らしい柔らかな声音が、城壁と聖堂の間に反響する。途端にディメテル連合の紋章が、鼓動を打つように、六花の輝きで浮き上がった。そうして輝きの波動は、砦の城壁に沿って周回をすると、半透明の力場が煉瓦のように積み上がり、ドーム型に収束して砦を覆う。
完成した結界は、三稜鏡のように偏光して七色に輝いたが、やがて静かに色を失い、最後は大気に馴染んで同化してしまった。
「防犯にしては、えらくダイナミックな結界構築だな……」
その巨大過ぎる防御結界を目の当たりにして、大翔が呆れたように呟いてしまう。
「砦用の戦時級結界だよ… 砦城の半地下に埋められた、魔力炉直結の高位結界になっているんだ。僕らはこれが目当てで、フォートBを購入したからね。これでお留守も安心さ」
「確かに、こんな分厚い魔力障壁を破るには、数十人が一点集中して攻撃するしかなさそうだよな…」
「その通りだよ。実際に戦砦の攻城戦ともなると、これと同じ戦時級結界が張られているから、城壁内への侵入、破壊のどちらにしても、この結界を破る必要に迫られるよ。だから敵陣地の砦を落とすのは至難の業なのさ」
エルフの少女が、少年の肩に手を乗せて、小さく飛び跳ねながら力説をする。その度に、浮いた蜜髪の合間から、尖り耳とうなじがチラ見えして落ち着かない…。
まったく… いちいち仕草が愛らしいんだけど…? いや、勘違いするなよ。中身は男だからなこの娘……。
その無垢な表情だけで、経験値低めの少年は、心揺さぶられてしまうのだ… そして、同性と告白したからなのだろうか? 頻繁にボディタッチ攻撃を繰り出してくる…。
「だから、攻城兵器を調達したり、火力特化の部隊を集中配置して、城壁の一点破壊を目指すんだ… そして我らが『A.ドボルザーク』は、その敵の攻城部隊を遊撃するのが、主な任務になるのかな? うちは少人数でも大火力を有するからね」
大翔と香音が、肩を並べて歩いているうちに、先頭の幸太郎は、すでに転移石の広場へ、石積みのアーチを潜っていた。
取り敢えず全員が、その多角柱のオブジェクトに触れて、装備ロックを上書きをする。この広場でのお約束だ。
「ヒロト、そのまま転移石に触れていると、転移窓がポップアップするんだ。MAPに浮かんだ転移ポイントが、グリーンのラインで接続されているだろ? そこが転移可能という訳だな」
幸太郎は赤黒の籠手で、その石碑を掴むように触れて見せる。大翔もそれに習うと、黒地の大陸図に並んだ光点と、それに向かって伸びる、放射状の緑線が浮かび上がった。
「なるほど… 此処の転移石が起点で、自軍の砦にあるポイントに転移できるのか… そう考えると、やはり支配する砦の数が、勢力図に直結するわけだ…」
「そういうこったな。地図の左下、西の端にある『戦砦エイダル』に向かうぞ。まぁ、最初は転移酔いするかもだけどな! ハハハっ! んじゃ、いっちょ飛んでみようか!」
相変わらずのハイテンションで、背中をバシっと掌で叩く。
「コウタロウは… いっつも楽しそうで何よりだ…」
嫌そうに顔をしかめる大翔に「「お先にっ!」」と、幸太郎と桜咲のペアが同時に消失し、続いて香音が、小さく手を振りながら転移した。
「ヤバイな… ちぇ、コウタロウが余計な事言うから、身構えちゃうだろ!」
(ふふっ、何だヒロト怖いんだ? じゃ、手繋いであげるから一緒に飛ぼうよ)
彩葉のハスキーボイスが、思考に直接届いてくる。例のピアス型の魔導通話機だ。すぐに彼女の長い指先が、掌に絡んできて、その柔らかな感触にドキリとした。
(なんか気使わせて悪いなイロハ… それじゃカウント0で飛ぼうか?)
意識せずに魔導通話を返していた。彼はその利便性を一瞬で実感してしまう。
(良いわ。それじゃ、3、2、1)
((ゼロ!))
(うわあああああああぁー!)
それは砦までの160キロに渡る景観を、縦に縮めてマーブル状に掻き混ぜた、底無しの不思議空間だった。そんな中に投げ出された感想は… 一言で言えば、超超高度の自由落下そのものだった……。
◇
気づけば、目標の『戦砦エイダル』の石床に投げ出されていた…。
彼は荒い息を整えながら、エロ可愛い彩葉の手に、すがったままで項垂れている。
「こ、これは… 酔うわ…… うっぷ… 昔嵐のフライトで、盛大にエアーポケットで大落下した時の、100倍はヤバかったぞ…」
(すぐに慣れるから大丈夫よ? これある意味視覚的まやかしだから、実際はそんなに落ちてる訳じゃないのよ… たぶんね?)
(うわ… 説得力ないって… つかこの魔導通話機は調子良いよな。ただ気を張っていないと、独り言をダダ漏れしそうで怖いけど…)
右の耳たぶに張り付いた、極小の五角柱に触れてみせた。転移石の形状に似ている事から、それをモチーフにした物なのだろうか?
(何故、ピアスタイプにしたんだい? まぁ君の軟派な雰囲気に似合ってはいるけれど? )
反対側の背に、香音の小さな腕が添えられる。
(カノンはどうしても、俺を軟派にしたいのな…? つか、イロハがピアスの方が紛失しにくいって言うからだよ)
(別に穴を開けてまで、選ぶ程じゃないと思うけどな? それただのお洒落だよ?)
(えぇ… イロハ… まさかハメたのか!?)
艶っぽい唇を楽しそうに引き上げた彩葉が、彼のピアスにさわっと触れた。
(ふふっ、それね… 似合うと想ったからよ? 実際似合っているわよ)
ぐぐ… そう言われると反論しにくい…。
「ほら… しっかりしてね格好良いヒロトくん」
彼は二人に支えられて、ようやくと立ち上がった。そこは城塞都市に似た造りの、石畳の広場だった。しかし、周囲は酷く荒れ果てていて、まるで爆撃を受けたように、壁の大半が崩落していた。萌える草木がそれらを覆うと、まるで古戦場のような有様だ。城壁に並ぶ見張り台の幾つかも、土台を残して瓦礫となっていた。
(ねぇカノン、ちょっとタイミング悪かったかも…)
桜咲からの通信に、促されるように視線を上げた。藪に覆われた壁の残骸の向こう側、開場された城門の前に、数十名のハンター達が、幾つかのグループに分かれてたむろしている。
(これは、筆頭クラン合同の大規模戦闘だね。そういえばうちにも、声が掛かっていたような…?)
『A.ドボルザーク』の五人が、一塊となって正門に向かうと、どこかで見たような三人組が嫌らしい表情で近づいてきた。
「よう、イリィの災厄さんかよ! あんたらが大規模戦闘参加なんて、珍しいじゃねぇか」
巨大な戦斧を背にした、甲冑装備の筋肉マッチョは、肉食獣のような鋭い眼光で少女を見下ろした。
酒臭いな…… こいつ黄泉返りの石碑で、初日に絡んできた野郎だな。
大翔は条件反射で、その男を鑑定していた。
:鑑定:
ドランク エッジ
ー 碧瑠璃のハッシュダナー 討伐者 ー
『カツジ ヤマニシ』 狂戦士 LV21
跳躍切りLV7 戦士の咆哮LV5 ボーン クラッシュLV6 殺気LV5 疾駆LV5
このステータスで、何でこんなに偉そうなんだよ?
本当に普通すぎて、解説するところが全く無い。背後のお仲間も鑑定してみたが、大抵はLV20前後だ。どうやらこのあたりのレベルが、一般プレイヤーの成長限界なのかもしれない。
「何だい?『ドランクエッジ』のカツジ君。僕らは遠征に出発するところさ。君たちはレイドボスの『四つ翼のミメシスドレイク』狙いだろ? 頑張ってくれたまえ」
「相変わらず、つれねぇな… たまには合同イベントにも顔を出せや」
勝治と呼ばれた、典型的な狂戦士スタイルの荒くれ者は、ふと大翔に気づいて、驚きに表情を歪ませた。
「てっ、お前こないだの新入りじゃねぇか! 何でイロハ達と一緒に居るんだ!?」
「ああ、色々あってクランに加入したんだ」
「てめぇ!! 何をちゃっかりイロハのクランに入り込んでんだ! あっ!」
狂犬のように、唾を飛ばして威嚇してくる男。だから本当に酒臭いって…。
(俺ってこいつに許可を得ないと、好きなクランにも入れないのか?)
少しむっとして、思わず魔導通話機で、ダダ漏れしてしまう。全員の乾いた苦笑が(( ハハハ… ))と脳内に届いてきた。
「カツジ… 声が大きい、そして唾を飛ばさないでよ」
褐色の女豹が、軽く殺気を漂わせて奴を睨んだ。一瞬たじろいだ男の背後から、仲間らしい数人が、だらだらと集まってくる。それで強気になったのか、奴の饒舌は止まらなかった。
「チンケな泣き虫野郎らしく、取り入って面倒見てもらってるってか? 情けねぇな… こんな新入りを仲間にするぐらいなら、うちらに合流すれば良いじゃねぇか。お前ら人数が減ったんだろ?」
勝治は少年を睨んだまま、ニヤニヤと下衆い笑みを浮かべた。
人数が減った…? つまり最近、誰かが消失したか、クランを脱退したってことか…。
「うちは君等に心配されるほど、人手不足では無いかな。まぁそこは戦場で判断すれば良いよ? さて僕らは、そろそろ出発させて貰おうかな。結構な強行軍なもので時間が欲しいからね」
少しあざとく、香音が乙女の表情で微笑んだ。その天使の笑みは、荒廃した薄暗い砦には、あまりに不似合い過ぎた。
「そんな邪険にすんなよ。それに俺はそこの泣き虫野郎に、忠告したいだけだからよ」
勝治のクランは3パーティらしく、18名のチンピラ風体の厳つい仲間が、城門への経路を封鎖するように移動してくる。その悪意のある集団行動は、奴らも魔導通話機を使用している証だった。
(ホントこいつら面倒臭いわね。ちょっと軽く絞めておく?)
(イロハ、此処は場が悪いから落ち着けって。陣営の戦争クランが集結してるんだぞ。ほれ、向こうから『クライ レブナント』のクソ野郎共と、『Sleeping Saber』の団長も見ているぞ?)
(なんか俺のせいみたいで悪いな…)
(ヒロトのせいじゃないぞ? こいつらが絡んでくるのは、カノンとイロハが狙いだからよ)
インカムで話をしているために、完全装備の幸太郎が、無言で正面に立ち塞がったように見える。
全身を刺々しい獄墨鋼のフルアーマーで武装した、2メートル超えの巨漢に、『ドランクエッジ』のガラの悪いメンツが萎縮して立ち止まった。
「噂の悪魔騎士やべぇな…」
彼の威圧感に、そんな囁き声が漏れ聞こえた。
この狭い砦の中庭で、二つのクランが不仲に対峙すると、波乱の展開を予想させた……。
第四章では、本格的なモンスター狩りへと出向きます。生きるために闘ってきた大翔は、ここで初めて自らの意思で攻勢に出ることになります。レベル上げと戦闘の鍛錬… 五職持ちの少年は、クランメンバーに引きづられるように、その本領を発揮していく事になるでしょう。
気づけばPVが2万ポイントを超えていました! いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




