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3-12話 初めての朝練とその後

第三章:クラン A.ドボルザーク: 


 彩葉(イロハ)との模擬戦の後、猫耳少女から『快癒の賛美(上級ヒール)歌』というコンポスキルをもらって、全回復をした少年がため息をつく。


「いや… まったく敵わなかった」


 彼は続けて始まった彩葉(イロハ)VS桜咲(サクラ)の戦いを、地べたに座り込んで観戦していた。


「君が落ち込むのは可怪しいと思うんだ? あのダークエルフは、ディメテル連合でもトップレベルのアタッカーだよ。むしろ目覚めて僅か半月のヒロトが、ここまで戦える方が異常だよ」


 香音(カノン)が彼の肩を、ぽんぽんと叩いてくる。見上げれば、城壁の縁へと昇っていく朝日が、少女の蜜色の髪を美しく輝かせていた。


 こうして、黙って(たたず)んでいれば、繊細で儚げな完璧なる美少女なのだが… 何かと不憫(ふびん)であった…。


「そうなんか? でも、まぁ負けるのは悔しいからなぁ…」


 少年は(まぶ)しそうに香音(カノン)から視線を逸らせてしまう。


 そうしている間にも、エロ可愛い(あね)さん系少女と、キュートな妹系猫耳娘の戦闘は、想像とは違った流れで進んでいた。


 得意の爆発的な踏み込みで、接近戦を試みる彩葉(イロハ)は、何度も見えない障壁に阻まれて、攻めあぐねて見える。広場には桜咲(サクラ)の歌声が、時にはヒップホップ調のアゲアゲのリズムで歌い上げ、時には甘えるような柔らかなハミングで、心地よく流れていく。


「なぁ… サクラってさ、支援特化の職業(ジョブ)だよな?」


 歌声と共に、まるで舞うように、結界と剣技を織り交ぜる猫娘は、余裕の表情であの女豹と打ち合っているのだ。女豹と猫娘… 考えればどっちも猫科である…。


「ヒロトよ、初見では誰も見抜けないけどな、サクラは俺より強いんだぞ?」


 幸太郎(コウタロウ)が、まるで自分の事のように誇らしげに胸を張った。


「えええっ!? どうみても癒やし系じゃないすか?」


「はははっ! 彼女のユニークスキルが特異でなぁ… あれは闘う癒やし系だ!」


 大翔(ヒロト)は無自覚に二人のステータスを比べてしまう。





:イロハ ジンナイ: ダークエルフ  ♀ :LV23:

:ステータス: 強化(バァフ)支援効果

 体力(HP)〔939〕 546 〔x172%〕

 魔力(MP)〔48〕 33 〔x144%〕

 気力(VIT)〔564〕 355〔x159%〕


 (STR)〔1462〕 795〔x184%〕

 敏捷(AGI)〔1087〕 614〔x177%〕

 知力(INT)〔272〕 179〔x152%〕

 器用(DEX)〔171〕 108〔x158%〕

 運 (LUCK)〔219〕 132 〔x166%〕




:サクラ オノデラ: 猫人族 ♀ :LV24:

:ステータス:

 体力(HP)〔1576〕 916 〔x172%〕

 魔力(MP)〔596〕 414 〔x144%〕

 気力(VIT)〔607〕 382 〔x159%〕


 (STR)〔523〕 284 〔x184%〕

 敏捷(AGI)〔593〕 335 〔x177%〕

 知力(INT)〔1493〕 982 〔x152%〕

 器用(DEX)〔283〕 179 〔x158%〕

 運 (LUCK)〔129〕 78 〔x166%〕





 通常強化(バァフ)値は同じものだが、吟遊詩(バード)人としての、後掛けする持続スキルは、このステータスには現れていない。


 実際に桜咲(サクラ)の持つ蒼く(つや)やかな十字剣が、舞踏のように華麗に剣筋を空に描くと、それに吸い込まれるように、闘気の剛腕が受け流される。その気迫が猫娘の頬を傷つけるも、次の一瞬でまるでコマを飛ばしたように完治していた。持続性のある回復スキルが、常に修復し続けているのだ…。


「サクラは何事にも(センス)が良いのさ。そしてそれを体現できるバランスの取れたステータスと、圧倒的な回復力で、コウタロウの代わりに壁役(タンク)だって出来るんだよ。なんていうか… 回復(ヒーラー)タンク?」


 エルフの乙女は「面白いだろ?」と満足げだ。


「でも、いくらダメージを瞬時に回復出来ても、苦痛を受け続けたら精神が持たなくないか? 痛みって思う以上に気力を削ぐからな…」


「そこは()()()()()が効いているんだよ。ステータスには乗らない、職業別にある特殊なものさ。例えば弓使い(アーチャー)は視力強化のスキルを持つし、君の持つ暗殺者(アサシン)だって夜眼のスキルがあるだろ?」


 香音(カノン)は人差し指を瞳に当てると、ウィンクするように片眼を閉じた。


「それと同じで、盾役になる騎士(ナイト)重騎士(アーマーナイト)、そして回復系の巫女や聖職者(クレリック)は苦痛耐性のスキルを持っていて、とても打たれ強いんだ… これは戦闘ではかなり有利だよ? 僕なんて痛いのが苦手だから、一発大きいのを貰うと苦痛に集中を妨げられて、まともに詠唱も出来ないからね…」


 そう言って自分の身を抱き締める可憐な少女… 本当に無駄に愛らしい…。


 褐色の女豹が、全周囲からの必殺の飽和攻撃を繰り出すと、猫耳少女は『女神の聖(アイギス)盾』と呼ばれる、絶対防御の魔力盾を周回させて左右からの殴り攻撃を消滅させる。背後の闘気の散弾が背に命中するも、それは一瞬で治療され、頭上の死角へと飛翔する彩葉(イロハ)は、目前に振り下ろされた、光子の大鎚(ジャッジメント)に驚いて()け反った。


 そうか… だから巫女でもあるツキカは、手脚を失っても毅然(きぜん)としていられたのか…。


 しかし、そういう彼も瀕死とは思えない程、感じる痛みは弱かったのだ… あの異様な冷静さを感じるとき、苦痛を低減する何かが働いているのだろうか…?


 速度極振りの女豹の動きに、完全追随(ついずい)していく猫娘のスキルと十字剣… 彼女の口からはスキル『韋駄天の舞』の速いリズムが、鼻歌となって漏れている。


「どうしたんだい? 僕は何か、嫌な事でも言ってしまったのだろか?」


 ずっと黙って表情を曇らせる大翔(ヒロト)に、少女が困り顔を近づけていた。


「あ、いや、そういうんじゃない… ちょっと、また思い出してしまってさ。カノンの話には納得だよ」


「そうなのか? それなら良いんだけどな…」


 彼女は何かを察したように、少しだけ寂し気に目尻を下げた。


 女子二人の壮絶な打ち合いは、長期戦に持ち込まれて、結局は彩葉(イロハ)気力(VIT)切れで決着がついた。


「ぜえ、ぜえ… もうぅ!! 本当にサクラ硬すぎるのよ! コウタロウのほうがまだ柔いからね!」


 砂地に尻もちを付いたまま、息切れを起こしたダークエルフが悪態をついた。対する猫耳少女は、回復の歌を歌いながら、楽しげにその場で舞踊を躍らせている。


「おい、イロハよ… 重騎士(アーマーナイト)の俺をディスるのは辞めてくれ… 俺が自信を無くすだろ… おっと」


 言葉の途中で、彼の胸に飛び込んできた桜咲(サクラ)が、細長い尻尾をピンと張り上げながら、彼の首筋にかぶり付く。


「勝ったぁぁー! 褒めて褒めてー!」


 黒猫のように彼の鎖骨を甘噛みしながら、ダダ甘えする少女を、むぎゅと片腕で抱き締めると「さすがサクラだなぁ!」と、無条件に褒めちぎっていた。





 その後、大翔(ヒロト)幸太郎(コウタロウ)が、もう一戦を闘った。序盤に一方的に猛攻する少年の剣技を、全てノーダメージで受け止める、鉄壁の悪魔騎士(デビルスナイト)


 そして後半から召喚された、四つ腕に得物を構えた、武装型の『下級悪魔(レッサーデーモン)アーマード』との共闘によって、完全に前後から挟撃されての轟沈となった… まぁ、ようするにタコ殴りのボコボコである…。


 そうして、朝日が見張り台の高さまで昇った頃合いで、大翔(ヒロト)が初参加した、クランの朝稽古(トレーニング)が無事に(?)終了をした。






「うはぁ、朝からめちゃくちゃハードだろぉ!」


 頭から砂だけになった大翔(ヒロト)が、風呂場のシャワーで汗を流していた。教室程もあるタイル張り床と湯船に、濃い色の木壁の室内が湯気に白く煙っている。


「ふぅ… 朝風呂かぁ… これ最高っ…」


 そう独り言ちながら、深目に満たされた湯の中に身体を沈めていく。地脈の魔力(マナ)を燃料に自動運転するボイラーが、砦の全給湯を24時間可能にしているのだ。


「にしても、完全にやられぱなしだったな… 悔しいけど、さすがは陣営のトップクランだな」


 二戦とも完敗した少年は、いつの間にか抱いていた、五職持ちである優越感を、完膚無きまでに叩きのめされていた。


 二職持(デュオ)ちである、彩葉(イロハ)幸太郎(コウタロウ)でさえ、あの強者ぶりである… 陣営最凶と言われる香音(カノン)の実力とは、どれ程のものなのだろう?


 危なくて、広場では魔法のひとつも撃てないって… どんだけだよ? て、まぁ、これは俺にとって幸運なんだろうな。 


 何にせよ今はレベルを上げ、戦闘技術を磨くのが最優先なのだ。彼の()()()を探すためには、戦場で生き残るだけの力量が必要だった。そうしなければ、側に近づくことさえ困難だろうから…。


 彼は(てのひら)で湯をすくうと、パンと頬を叩いてみた。彩葉(イロハ)の言っていた、スキルの並行操作や同時発動など、彼のまだ知らない技術も気になった。


 と、そこで湯けむりの向こうから、キィぃっと扉の開く音が聞こえてくる。


「んっ?」


 突然、風呂場の中に、肌色のシルエットが現れると、その二体の影が洗い場のシャワーに並んで座る。


「ちょっ、ちょ… ちょっと! こ、此処って男風呂だよな!?」


 少年がたじろいて、背の壁際まで後ずさる…。


「ほわ? 何いってるのだヒロト、この砦に風呂場はひとつだけだぞ?」


 シャワーで流し湯をした華奢な少女の身体が、湯の向こうから現れると、斜めに膝を折って上品に湯に沈む。


「だ、だ、だって、入り口は男女別になってんじゃん!」


「脱衣場の事かい? その先の風呂場は一緒だよ。別けたら湯が勿体ないじゃないか」


 香音(カノン)が肩に湯を掛けながら、当たり前のように彼を見る。


「ねぇ、ヒロトは想像以上の逸材なのよ。あのハイスピードでの打ち合いって… それはもう感じたわぁ」


 もうひとりの、(しな)やかに鍛えられた裸体が、当たり前のように歩んで来ると、じゃぶじゃぶと湯船を横断してきた。彼女の腹筋が綺麗なシックスパックに割れているのを、思わず横目でチラ見してしまう…。


「ちょっと! マジやばいって! なんでそんな平気な顔してんだよ!? お、俺たち素っ裸だぞ?」


 顔の直前で両手でバツを作る少年が、真横を向いて赤面をしていた。


「あはは、何だ可愛いな。仲間どうしで恥ずかしがる事もないだろ? 僕らはもう家族だよ」


 何だこの、ピンク色の家族風呂はぁ!!


 彩葉(イロハ)の褐色のボディが真横に並ぶと、彼の脇腹をさわっと撫ぜた。


「いぃぃっ! 近い近い! 元日本人だろ? この状況は不自然だろぉ! それともこの世界では混浴(これ)が普通なんか!?」


「まぁ、そこらの貞操観念が、かなり緩いのは確かだよ? でも僕はイロハの気持ちもわかるんだよ」


 純白の素肌に汗を浮かべた、蜜色の髪をアップにする天使が、そろそろと近づいて逆側から圧迫をする。


「まぁ、なんていうかな… この街の男なんて、嘘つきのクズか犯罪者か、負け犬が大半だからね。ヒロトはかなりの優良物件なのさ。すこし軟派ぽいが、優しい色男で、誠実で、しかも多職持ち(アンサンブル)の仲間だよ? そんなメンズが希少なのは、理解しておいたほうが良い… まぁ、僕の方は… ただの(たわむ)れだけどね」


 わざとらしく、妖しい表情を浮かべた少女が、エロティクに唇を舌で濡らす…。


「のああ! 軟派とか酷ぇぇ! だいたい俺だって前世の記憶が曖昧なんだぞ? 酷い人格が隠れているかもしれないだろぉ?」


「そういうところだよ? そういう発言が出来る君を、みんな信用してしまうのさ」


 全裸である、二人の美少女に左右からサンドされて、完全にテンパり気味に声が裏がえってしまう。


 やめ! 二人の尻が、俺の腰に当たってるからぁぁ!!


「お、俺にはツキカが…… 居るんだって!」


「ふふふっ、そんなのみんな知ってるよ。別にその娘を諦めろなんて言ってないわよ? わたしは、お姉ちゃんでも、愛人でも、二号さんでも問題ないんだから… それに、わたし、カノンだって愛してるもの…」


「大体、君はあのカエデとも、熱い夜を過ごしていたじゃないか?」


 何気に、大ダメージをぶち込んで来る、残念なエルフ。


「今、それを持ち出すかぁ! てか、やっぱ覗いてたんじゃないか!! 」


 そこに彩葉(イロハ)のアスリートのような腕が伸びて、大翔(ヒロト)の腕に絡んでくる。その肉付きの素晴らしい胸が、二の腕に柔らかく押し当てられた。彼の下半身が即座に反応して、下手(へた)に立ち上がることも出来なくなった…。


「まてまてまて… ほんとに待って! 君等の羞恥心はどこにいった? これ普通にヤバイ案件だって!」


「ヒロト… 初心(うぶ)で可愛いな…」


 香音(カノン)が満面の笑顔で、彼の濡れ髪を優しく撫ぜる。


「うぷぷぷぷ……」


 大翔(ヒロト)は羞恥の限界に達すると、そのまま頭まで湯の中に沈んでいく… 結局は少女二人が脱衣所に戻るまで、彼はその場に硬直して一歩たりとも動けなかった。


「大丈夫よヒロト。すぐに慣れるから… ちゅ」


 無責任な投げキスと共に去っていく、見事なモデル体型のシルエット… そうしてやっと、色んな意味で前途多難な、早朝トレーニングが終了したのだ。



  




 

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