3-11話 怪物共の近戦指南
第三章:クラン A.ドボルザーク:
「さて… ヒロトが加わって最初の朝稽古になるね。じゃ、お互いの力量を測るために、軽く模擬戦いってみようか?」
朝からご機嫌なエルフの少女が、まるで遊びの順番を決めるように、楽しげに仲間を見回した。
早朝から幸太郎に叩き起こされた大翔が、小さい欠伸を手で隠している。昨夜は、綿の詰まった上等な寝具で寝た為か、久しぶりの熟睡だったようだ。
まだ日の登り切らない、藍色に静まる砦の敷地に『クラン A.ドボルザーク』の全員が、武装して集まっている。
「じゃ、昨日の約束通りに、わたしが最初に手合わせをしようかな? ヒロト、一戦やろうよ」
膝上まであるロングブーツに、とても戦闘服とは思えない、赤いランジェリー風のミニドレス姿の彩葉が、腕を伸ばして関節を鳴らすフリをした。地味にシースルーなそれは、黒い下着がぼんやりと透けている…。
「ちょっと… 目のやり場に困るんだけど… なんで戦闘服のほうが薄着なんだよ!」
指名を受けた男子高校生が、顔を赤らめて視線を逸らせた…。
「あら、ちゃんと女子として見てくれるのね? 結構嬉しいな…」
彩葉が切れ長の目尻を下げると、甘い声で囁いた。
「ヒロト、騙されてはいけないよ? その娘の服はだね、対魔法、対物理両方に防御力を発揮する、最高ランクの防具なんだよ。 魔赤金鉱の細糸だけで織った、イロハのオリジナル魔法防具で… まぁ見た感じは破廉恥だがね…」
そう説明する香音もまた、白金の外皮に朱色の縁取りをされた、ドレスに見間違う、艶やかなローブ装備である。彼女の輝く蜜髪も相まって、天女のように神々しい。背にはその可憐な印象に似合わない、ゴツイ大剣を背負っていた。
「ちょっとカノンたら… 嫌らしい言い方しないで欲しいわ。ほら、どうみても可愛いでしょ?」
彩葉が、折りヒダのあるレース裾を、指先でちょいと持ち上げる。健康そうな褐色の生肌が、太ももの上部まで顕になってしまう…。
「だーかーらーね? イロハ… そういう所だと思うんだよ僕は……」
「くすくす… もう、本当にカノンは硬いなぁ。そのくせバスルームでは甘えん坊なんだからぁ」
き、君たちは、風呂場でいったい何をしてるんだ……?
豊満なのにモデル体型でもある、魅力的な褐色のエルフが、広場の中央へと進み出る。
「ルールはあるのか? 強化無しから始めようか?」
大翔も追うように、美少女の対面へと歩み出る。
「もちろん実践仕様で何でもありよ! でなければ練習にならないもの。わたしはクランメンバーから強化を貰うから、君も自分で強化スキルを使って良いのよ… あ、戦闘始まったら外部からの回復は無しね。切りが無いから」
「オーケー! 戦闘不能になっても回復も居るしな…」
少年が話しながら自身に強化を重ねていく… 上位魔力身体強化から始まって、攻撃速度上昇まで掛け終わると、桜咲の支援スキルの歌声が聞こえてくる。相変わらずの、素晴らしい癒やしの声音だった…。
「ああ、ヒロトに言い忘れていたよ。妖精剣は使わないで欲しい… こんな手狭な場所でネルフィヌに暴れられたら、砦が壊れてしまうんだ」
審判の為か、香音が一歩前に出る。
こんな、サッカーグラウンドにも近い空き地でも危険なのか? 妖精ってどれだけ強力なんだよ?
彼は手を振って理解の意思を示すと、ネルガの短剣と自作の黒鋼鏡の短剣に得物を戻した。
「それじゃヒロト、手加減無用よ… まずは殺気に慣れること! 死んじゃっても二時間で生き返るから… ねっと!!」
言葉が終わった直後、まるで肉食獣が飛び掛かるように、凄まじい瞬発力で突進する赤いドレスの美少女。
:イロハ ジンナイ: ダークエルフ ♀ :LV23:
:ステータス: 強化支援効果
体力〔939〕⇦546 〔x172%〕
魔力〔48〕⇦33 〔x144%〕
気力〔564〕⇦355〔x159%〕
力 〔1462〕⇦795〔x184%〕
敏捷〔1087〕⇦614〔x177%〕
知力〔272〕⇦179〔x152%〕
器用〔171〕⇦108〔x158%〕
運 〔219〕⇦132 〔x166%〕
:ヒロト シマナ: 人族 ♂ :LV17:
:ステータス:強化支援効果
体力〔639〕⇦284 〔x225%〕
魔力〔688〕⇦372 〔x185%〕
気力〔562〕⇦277 〔x203%〕
力 〔747〕⇦310 〔x241%〕
敏捷〔579〕⇦254 〔x228〕
知力〔866〕⇦466 〔x186%〕
器用〔313〕⇦197 〔x159%〕
運 〔185〕⇦91 〔x203%〕
ステータスを公開しているため、クランメンバーなら基本ステータスを互いに覗ける。近接戦闘特化のダークウルフの数値は、力と敏捷に極振りだ。それは敏捷で1,8倍、火力に至っては2倍を超えている…。
「くっ!! 速いっ!」
フル強化している状態で、これだけのスピードで動く相手に面食らった。疾風の極意や、ましてや瞬間移動を使う余裕も無く、身を翻した瞬間に黒白銀の鉤爪が喉元の寸前を掠めていく。
ヤベ! まじに殺りにきてるな、おいぃ!
「逆サイドもか!」
いつもの暗殺者の低姿勢で、彼女の側面に周り込もうとした先から、逆手の鉤爪が視界に迫る。咄嗟に両手短剣で受けようと構えると、彼女の腕の付け根から、巨大な闘気が拳へ盛上がるのを知覚する。
大翔は短剣で受けるのを一瞬で諦めて、弧を描くように攻めへと転じた。斜め下から三日月型に剣筋が走っていく…。
ワーキャットの腕に実体化した殺気が、豪快に砂地を削り上げると、彼の背に届く寸前で斜めに軌道が逸れていた。敢えて接近した大翔の剣技を嫌って、彩葉が僅かに身を崩したのだ。
女豹のような靭やかな肢体が、曲技的な斜め側転をして距離を離した。
「ねぇ、凄いよね? 陣営内最凶の近接アタッカーって言われてるイロハちゃんを、引かせたよ?」
猫耳少女の桜咲が、幸太郎の獄墨鋼装備の肩に飛び上がって言葉にした。
「ああ、速すぎて二人の攻防を見失ったぞ…」
重騎士がごくりと生唾を飲み込んだ。
「驚いたな… 俺の魔力腕を躱したのかよ?」
剣技のみの切り上げと見せかけて、背後から透明な腕で掴もうとしていたのだ。
「くすくすっ、むしろね、わたしのほうが驚いたのよ? 今の速度に追随するなんて… 君の敏捷の倍近くあるはずよ?」
気づけば彼の背中がじっとりと汗で湿っていた。
彩葉は切れ長の瞳で、にこっと笑うと、再び強烈に踏み込んできた。その進路を防ぐように、巨大な魔力腕を構えると、それは彼女の右腕に生えた、巨人族の青い豪腕に粉砕された。
なっ!!! 今度は力ずくかよっ!
魔力が四方に弾けると、細かなプリズムのように空間を乱反射させる。それを突き抜けて、赤い砲弾のように加速した彩葉が迫ってくる。
彼が美少女の眼を狙って、魔力弾を射撃すると、彼女は瞬時に青い剛腕に身を寄せてそれを防いだ。一瞬だけ集中を逸らされる彩葉。
そのまま強引に、青銅像のような拳で、大翔の胸板を撃ち抜きにくる。まるで片腕で何かを拾うように身を屈める少年。その直下から本気の気を纏った魔力腕気功撃が、顎打ちするように付き上がり、巨人族の勢いを滑らすように往なしてしまった。
魔力の腕と巨人族の腕が、気を弾きながら擦れ合っていく。大翔がチラリと横眼で見上げると、肩の直上を超えていく豪腕と、彩葉の楽しげな表情が交差した。
と、彼女の攻撃が過ぎた直後、その背後からまるでデジャヴのように、まったく同じ巨人族の殴り攻撃が襲ってきた。
えっ? なんで背後にもう一発?
あまりに理不尽な時間差攻撃に、逆手の魔力腕気功撃で防御するのが精一杯になる。
「ぐはっ!!!」
魔力腕ごと殴り飛ばされた少年が、審判である香音の前まですっ飛ばされてくる。彼の背が大地に叩きつけられる直前、彼は瞬間移動で女豹の背後に一瞬で復帰した。
反射的に短剣で受けてしまった衝撃で、利き腕が完全に死んでいた。痛みよりもいまだに続く痺れのほうを強く感じる。彼女が綺麗な開脚で、自身の勢いを殺したそこに、短剣の連撃を打ち込んでいた。
「それは悪手じゃないかしら?」
下方から登ってくる、強烈な狼人族の蹴りが大翔の手首を蹴り上げる。その勢いを減衰させるために、サマーソルトキックばりに背後にバク転した彼の影から、魔力腕気功撃の気による衝撃波が撃ち出された。
まるでお返しとばかりに、彼女の戦いを真似た時間差攻撃だ。
「やあぁ!!!!」
彼女が鋭い叫びを上げると、ワーキャットの爪と巨人族の豪腕で、強引にそれを叩き落とした。気の衝撃波であるそれは、同じく彩葉の実体化した闘気によって、完全に地へと粉砕された。
バァン!!! と四方に砂が弾けて、砂地がさながら爆心地のよう陥没する。巻き上がる砂埃の中で、人影が高速で剛拳を凌ぎあい、得物が交わって火花が散ると、煙の一部がドンッドンッと外部へと破裂した…。
「やるじゃねえか! 目覚めて半月でイロハと渡り合うなんざ、ヒロトもバケモノ級だぞ… このクランマジで怖えぇ!」
幸太郎が赤と黒の斑の甲冑を、ガチャっと鳴らして砂の突風から桜咲を守った。
「圧倒的な敏捷による高速戦闘は、イロハの十八番だけどね。ヒロトは劣る速度を、魔力や気の流れを見切る気配探知と看破のスキル、そして探検家による超感覚で先読みして、更に高い知力による処理速度と、攻撃速度上昇で、なんとか対処してるんだろう」
香音が嬉しそうに早口で解説をする。此方にまで届く撃ち合いによる衝撃が、少女を守る樹木の大盾に阻まれた。
「ようするに動き出しは、ヒロトの方が速いんだよ… それでもね…?」
巨大な蟻地獄のような、すり鉢状の陥没の中で、互いに左周回しながらの撃ち合いになっている。巻き上がる砂煙に視界が煙り、ほぼ盲目状態での探知スキルに頼った決闘だ。
「くそっ! 探知合戦なら、俺のほうが有利なはずなのに!」
思わず大翔が悪態をついた。彼はこの状況に追い込まれて、逃げ出せないでいるのだ。彼が穴から出ようとすれば、すぐに先回りの牽制が入って動きを阻まれる。鳥獣人にまで变化して、頭上を自由に移動する立体的な高速戦に、徐々に掠めたダメージが蓄積していく…。
ぐっ! 本当に獲物を追いつめる女豹にみえてきた… これのどこが脳筋なんだよ!
相手の動きを支配する戦闘の巧みさは、詰み将棋のように緻密なのだ。一手一手で、確実に追い込まれていく大翔は、絶対的な経験値の差を実感してしまう。
二職持ちでこのパフォーマンスかよ! 本当に怪物だろ!
「やっぱり君は素敵だよ? 凄い楽しいわぁ」
細長い鳥羽を生やした美少女が、精悍な表情できゅっと唇を引き締める。
斜めに滑空してくる、赤いドレス姿のダークエルフ。少年がそちらに向き直った瞬間、左右と背後から同時にワーキャットの爪と、巨人族の拳と、殺気の散弾が同時に襲いかかる。
何だよ、この飽和攻撃はぁ!!
開脚して座り込むと、三列の鉤爪が数本の髪をむしり取り、逆サイドの巨人族の腕を魔力腕気功撃で正面から撃ち合った。迫る散弾を避けるため、上空の少女に向かって、たった2メートルほどを瞬間移動で飛び上がる。
「ふふっ、そうやって捨て身で飛び込むしかないでしょ?」
テレポートアウトした瞬間に、直上から彩葉のコンポスキルである、虎腕爪気功撃で、ガッチリと捕縛されていた。
「げぇー!」
腰と腹を強烈に圧迫されて、空気を一気に吐き出してしまう。そのまま龍族の腕のような、真っ赤でゴツイ爪の中で、バタバタと手脚を動かすしかなくなった。
「ま、まいりました……」
少年はついに諦めて、ガクンと情けなく脱力する。
「イロハ Wins !!!」
エルフの少女が高らかに勝利者を宣言した。
「頑張ったわね。想像以上に熱かったのよ? これはご褒美っ」
そう言って、完全に拘束された大翔へと降下すると、その頬へと柔らかくキスを触れさせる。
「まぁ、君はまだ、スキルの並行操作とか、同時発動とか、連携が出来ていないもの… それでもこれだけ戦えるんだから、直ぐにわたしより強くなれるよ」
そう言って、彼の鼻先を指先でつんと小突いてみせた。
「ぐううっ… すいません是非回復を… 結構な重症っす…」
傷だらけで流血する大翔が、苦笑しながら懇願した。
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:付録:
彩葉のステータス
:イロハ ジンナイ: ダークエルフ ♀ :LV23:
:ステータス:
体力546(38 +508)
魔力33
気力355(38 +317)
力 795(43 +752)
敏捷614 (43 +571)
知力179(33 +149)
器用108(38 +70)
運 132 (38 +94)
:職業:
格闘家LV23(STR+33) 降霊術師LV23 (HP+33)
:二次職:
裁縫師LV7(DEX+70) 娼婦LV2(VIT+20)
:技術 パッシブ:
気功武術LV7(VIT+70) 格闘術LV8(STR+80) 降霊術LV7(AGI+70)
:技術 アクティブ:
連撃LV9(STR+90) ワーキャットの爪LV9(AGI+90)
蹴撃LV9(STR+90) 身体強化LV8(AGI+80)
疾風の極意LV7(AGI+70) ライカンの脚力LV6(STR+60)
気功弾LV7(VIT+70) 変化ハーピーLV7(AGI+70)
気功術身体強化LV7(HP+70) サイクロプスの腕LV6(STR+60)
:スキルコンボ:
虎腕爪気功撃 LV4(遠距離気功攻撃) 腕力強化+225% (AGI+40 STR+40)
变化ハーピーソルジャーLV4(飛行速度+246% 急降下攻撃)(AGI+40 VIT+40)
狼脚多連突進LV3(瞬間突進攻撃 防御貫通 攻撃力+744 魔法攻撃力+472)(STR+30 HP+30)
:ユニークスキル:
スキルリピートLV3(1度のスキル発動で、2回分の効果を発現 発動時間1.2秒)(INT+60 LUCK+30)
:称号:
○ディメテル連合戦士 214(HP+224 VIT+117)
●ヘイネス マーダートリックの攻略者 (HP+105 LUCK+64)
:装備:
魔赤金鉱のイロハズ ミニドレス (Rare Magic Set) LV24 (AGI+34 HP+75)
魔赤金鉱とベルベット硬革の長革靴(Rare Magic)LV23 (AGI+43)
黒白銀のドレイククロー(Rare Unique)LV25 (STR+204)
自爆の首飾り 金と黒鋼の魔法封じ(INT+37 魔法抵抗+107) 哀れみのお守り(HP+77) 魔力吸収の金腕輪(魔法抵抗+82) 精霊達との約束の指輪(魔法抵抗+142 INT+49)
:21.440.750アル:
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