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第45話 魔王軍と観月

 翌日、レーナはあたしと一度も顔を合わせず、レムレス様に挨拶をして王国へ帰ったとレムレス様から聞かされる。


 また来るとは言っていたらしいけど、何だかモヤッとする。


 それにしても、せっかくの感動の再会だと思ったら、何だかトゲトゲしてて、会話しづらかったな。あんな嫌な感じの人だったっけ?


 まぁ、ミリオネルを倒しても、王国の体質が変わった訳じゃないから、相変わらず毎日嫌な思いをしてるんだろうけど。


 でも、それをあたしに当たられても困るって。


 そもそも、ミラちゃんもあたしも、レーナを守るために魔王軍に入ったんだよ? 何で責められなきゃいけないの?


 何だか、もう元には戻らない亀裂が入ったように感じた。それもそうだよね。


 出会った頃のように、リネちゃんもいなくて、ミラちゃんもいない。


 一緒に暮らしてた屋敷じゃなくて、勢力すらも違うとなれば、すれ違うのは仕方ないことかも。


 浮かない気分で回廊を歩いていると、今の精神状態で一番会いたくない人に出くわした。あたしって、つくづく運がない。


「よぉ、新入り〜。てめぇ、最近、戦場に出てねぇらしいじゃねぇか? ミラージュやられてヒヨったんじゃねぇだろうな? ああん?」


「……」


「無視とはいい度胸だな? そんなてめぇには戦場で死んでもらうとするか」


「……行きません」


 ガタンッ! あたしは片手で首を絞められ、壁に押し付けられたまま持ち上げられる。


「うぐ……」


「何か勘違いしてんなぁっ! てめぇに選択権はハナからねぇんだよっ!」


 呼吸できない、苦しい。誰か助けて。足だけが必死にもがき、壁を蹴る。も、う、無理――


「……ハッ」


 意識を取り戻したあたしに見えたのは、逆さまの景色だった。その先では、王国軍が魔物たちと戦っている。


 左足首の痛みが走る。獣が指2本で掴んでいるせいだった。その指の先にあったのは、にやりと牙を光らせるレオの顔だった。


「やっとお目覚めか、新入りぃっ! 死んでこいやっ!」


 次の瞬間――


 ブンと風を切る音と共に身体が飛んだ。山も空も森も全部がグルグルと回り、何が起きているのか分からなかった。


 ガランッ! ガラガラッ! ドドンッ!


 全身に衝撃が走る。だけど、明智アーマーの魔力が防いでくれて、痛みは少しだった。


上体を起こして、状況を確認する。無理すぎ――


「信じられない……少なくともあたしは味方でしょ? 戦場のド真ん中に放り込むとか、パワハラどころの騒ぎじゃない」


 さっきの衝撃でアーマーの魔力は消耗して、明智魔導砲は撃てない。他の武器もない。どうしろっていうのよ……


 敵が右から、味方が左から迫る。消耗した魔力を回復できれば、すぐ解決するんだ――


 あっ! 閃いた。魔物吸収だ。味方を減らすのは癪だけど、今はそんなことも言っていられない。


 慣れたホバリングで、敵を上手くかわしながら、敵に弱らされた魔物を吸収する。ほどなく、魔力は充足し、魔導砲が射線上の全てを消し去った。


 そして、あたしは思った。今回は、敵の中にセスさんがいなかったから何とかなったけど、いたらあたしは最初で死んでいた。


 こんな恐ろしいことを当然のように行える化物は排除すべきだと。


 そして、あたしが射程内に収めたのは――


「……あんたさえ、いなければ」


 最高司令官、レオ。外す訳にはいかない。外したら、あたしが倒そうとしたことがバレる。バレたら何されるか分からない。


 明智アーマーは展開した。最後の発射する覚悟が決まらない。激しく動揺している。


 魔王軍に所属しているのに、最高司令官を倒すとか、矛盾してるよね。


 でも、倒さないと、あたしの平穏は訪れない。でも、怖い。失敗したら――


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 呼吸がやけにはっきり聞こえる。鼓動もだ。視界も焦点が定まらない。まだ距離が足りない。撃てない。でも、早く撃たなきゃ気付かれる――


 プツン――髪ゴムを外して、髪を振り乱した。


「……はてさて」


 ため息が1つ。次の瞬間、放たれた砲で、奴さんの姿がなくなったのでありんした。


 ほんに面倒極まりないことになりんしたなぁ。わっちはもっと、ぴかりが上手くやると思っていたんでありんすが……


「もう1人で立てるものかと思いんしたが……まだまだでありんすなぁ」


「お、おい……あの女、司令官をやっちまったぞ」


「あ、あいつはっ! ミリオネル先生を狩った奴じゃないかっ!」


「反乱だ、反乱だっ!」


 騒ぎ立てる魔物が烏合の衆となり、わっちの命を狙っておりんす。難儀でありんすな。


 あいにくと、明智鎧は魔力切れ。一撃で仕留めることは叶わぬことでありんす。それならば――


 そこに転がる剣を2本ほど拝借して、ひたすらに受け流しんす。まるで、舞でも舞うが如きに敵を誘導し――


「ぐぇっ!」


「ぎゃぁぁぁぁっ!」


 互いに攻撃させ合わしんす。弱った輩を吸収しながら、それを繰り返しんす。繰り返しんす。そして――


「佳境はひときわ派手に散りなんしっ!」


 その戦いの後、わっちの前には、跪く烏合の衆がおりんした。


「司令官様、ご指示を」「俺はあんたに付いて行くぜぇ」「あたいもあたいも」「さっきの戦いには痺れた。弟子にしてくれ」

「「「司令官っ! ご指示をっ!」」」


 五月蝿くてたまりんせん。


「帰ってくれなんし」

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