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第44話 繰り返されるすれ違い

「そう、ミラージュまで……」


 思いのほか、悲しそうではないレーナに、少し驚いた。ミラちゃんは、あんなレーナのことを考えていたのに……


 何だか浮かばれないなと思ってしまう。


「悲しくないの?」


「悲しい。けど、わたしに内緒で魔王の手先になっていたり、内緒でぴかりんを魔王軍に連れてきたり……少し許せない」


「……」


「何で皆、わたしに相談してくれないの?」


「……えっと、大切だから?」


「わたしだって、ミラージュやぴかりんを大切に思っていたのに、いつも仲間外れ」


「ごめん……」


 確かにいつも仲間外れで、結果ばかり知らせることになっていた。


 挙句、守るという名目で一番遠い場所に勝手に行ってしまった。許せない気持ちも分かる。


「今後は、わたしにもちゃんと話してほしい」


「うん、分かった。ところでレーナはいつまでここに?」


「レムレス様が好きなだけ居ていいと言ってくれて、客室も用意してくれたから、いつまでかは決めてない」


「そうなんだ」


「だから、今まで仲良くできなかった分の穴を埋めようね?」


「あ、うん。そうだね」


 何だか様子がおかしい。そんな気がした。声のトーンと内容が違う。全体的に怒りを含んでいる。


「それにしても、貴女はいいよね。気ままに暮らせて」


「……」


「わたしも聖女なんてやめてしまいたい」


「やめればいいよ」


「……簡単に言ってくれるよね」


「でも、実際……聖女を辞めたあと、もう殺されることもなくなったんだ。その原因だった魔物、ミリオネルはあたしがちゃんと倒したんだ」


 重い沈黙が流れる。しばらくすると、レーナが口を開いた。


「ぴかりんは強くなったんだね。それなのにわたしは……」


 何だか、せっかく久しぶりに会ったのに、空気が重たすぎる……場所を変えよう。


「レーナ。ちょっと魔王城を見学してみない?」


 そんなこんなで、あたしはレーナを部屋から連れ出した。だけど、連れ出したはいいけど、魔物たちに歓迎されるとは思えないし――


「おやおや、ぴかりんに聖女エレーナ。お揃いで僕に何かご用かな?」


 レムレス様はにこやかに歓迎してくれた。部屋に入るよう促し、席へ案内してくれる。


 そして、慣れた手つきでお茶を淹れる。


「……ご自分で、やられてるのですか?」


 レーナは驚いていた。それもそのはず。お茶はいつだって付き人が淹れていたのだから。


「こんな些細なことを、他者に任せる必要があるかい? ……なるほど。王国では付き人が入れるのが通例なんだね」


「は、はい。言われてみれば、このような些細なこと……自分でできましたね」


「慣例というのは怖いものだよ。考えることすら忘れさせてしまうんだからね」


 そんなレムレス様を憧れの人のように熱い眼差しで見つめるレーナ。


「ところで、王国とはどのようなところなのかな? ぴかりんと会いに行ったのが初めての訪問で、ゆっくりもできなかったから分からないんだ」


「そうなんですね。王国は――」


 レーナは王国の景色や品格を雄弁に語った。あたしは、そんな物より美味しかったケバブ屋とか雑貨屋の方が面白いと思うけどな。


「――といった格式の高いものなのです」


「それはとても美しい造形が楽しめそうだね。ケバブ屋、というのもあるのかい?」


「ケバブ屋? はて、何のことでしょうか?」


 レムレス様、あたしの心の声、ちゃっかり聞いてるし。ケバブは前の世界での名称。この世界は、忘れちゃった。


「あのさ、レーナッ! 2人で一緒に食べたお店の料理、何て名前だっけ?」

「マチキキ? 懐かしいね……」


 何だか、あたしが会話に参加するのが気に入らないのか、あたしへの返事はそれまでと変わり、ツンとした口調に変わる。


 露骨だよ、もうちょっと上手にやろうよ。偉そうに言える柄でもないけど、さすがに感じ悪いって。


 などと考えながら、黙っているとレーナはレムレス様に新しい話題を提示して聞いて貰っていた。


 溜まってたものもあるのに、王国の愚痴はまだ1つも零してない。腐っても聖女なんだろうね。


 あたしは会話する2人を見ながら、退屈だった。


 あれ? ところで、窯はどこ行った? 何回かこの部屋来たけど気付かなかったな〜。ヤバ、またピザ食べたくなってきちゃった……


「――でして、それから」


「ごめん、少し待ってくれるかな? 窯なら奥にしまったんだよ。ピザを今から焼くかい、ぴかりん?」


「えっ! いいんですかっ! やったーっ! レーナ、レムレス様の作るピザは、絶品なんだよ、楽しみにね」


「……」


 あれ、何だろう。今、レーナは唇を噛み締めて眉間にシワを寄せていたような……


 ピザ嫌いだったのかな? などと呑気にあたしをよそに、何だか不機嫌そうに退席し、部屋に戻ったレーナが気がかりだった。


「ぴかりん、急に彼女はどうしたのかな?」


「あたしにも分かりません」


「ピザは……どうしようか?」


「また、今度でお願いします。彼女の様子を見てきます」


 客室の扉の前で、あたしは深呼吸した。何となく、すごく噛みつかれそうな気がしたから。


 あたしはこれでも28。16歳の八つ当たりには堪えられるはず。たくさん失ったのはレーナも同じなんだ、助けてあげなきゃ……


 コンコン。聞こえたはずのノックに返事はない。もう一度、ノックをすると、部屋から声がした。


「1人にしておいてっ!」


 かける言葉が思いつかなかった。今夜はそっとしておこう。それが大人の対応だよね。

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