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第43話 信じられない来訪者

 あれから、レムレス様はあたしの愚痴を全て聞いてくれた。転移前からのこと。ここに来てからのこと。


 何度も辛かったねと、受け止めてくれた。話せば話すほど、心が軽くなっていた。


 そのおかげで、泣き明かした昨夜とは打って変わって、次の日のあたしは、とても元気になっていた。


 もちろん、ミラちゃんのことは悲しいし、後悔もある。だけど、レムレス様には助けてもらったから、あたしも何か役に立ちたい。


 魔王軍の戦力としてじゃなくて、違う形で役に立ちたい。


 そう思って、あたしがしてきたことで何か役に立てないか聞くと――


「ドライヤーは考えもしなかったよ。僕にも作ってもらえたら嬉しいな」


 まさかの生活用品にびっくり。それで、今、レムスペースの研究所に来たところだった。


 この研究所の景色は堪えた。切り替えようとしていたあたしの想いを、無理やり悲しみに引きずり込んだ。


 ここで楽しく過ごした日々。エレーナ様とも決別した。リネちゃんも死んだ。ミラちゃんも死んだ。


 この世界に来て、最初に出会った人達はもういない。


 駄目駄目。切り替え切り替え。ドライヤーを作らなきゃ……


 そういえば、ミラちゃんにも、明智アーマーを作るって約束したんだった……約束、守れなかったね、ごめんね。


 作ってたら、セスさんの一撃は防げたかもしれなかったよね……ごめんね……本当にごめんなさい……


 あたしは祈るように泣き崩れる。


 それから、今はここにいても、悲しみで何もできないと諦める。涙を拭いながら、部屋に戻り、布団に潜った。


 もう何もしたくないよ。


 それは、鬱の頃を思い出させる一言だった。また、あの辛い時間に戻るの? 嫌だ。でも、もう無理だよ。動けない。


 それから、どのくらい時間が経ったか分からない頃、ノックが響く。ミラちゃんはもういないのに、誰がノックを?


 コンコン。再びノックされる。規則正しく整った綺麗なノックだった。魔王軍にこんなノックしそうな人いたっけ?


 気だるい身体を起こして、ドアを開ける――


「やっと会えましたね。ごきげんよう、ぴかりん」


「え?」


 あたしの頭は理解が追い付かなかった。


「ずっと、探していました。お元気でしたか?」


 そこに立つのは、黄金比の顔に雪みたいな白くてプルプルの肌。ツケマみたいにワサ〜っと広がるまつ毛。


 腰まである金髪は、シルクのようにサラサラな上、スタイル抜群ないい匂いのする――


「……エレーナ様、何で?」


「ふふ、入ってもいいでしょうか?」


「え、あ、はい」


 向かい合って座ったテーブル。キョロキョロと部屋を吟味している様子のエレーナ様。てか、何でエレーナ様が魔王城にっ!?


「王国では見かけない建造法ですね。質素でありながら、気品もある、不思議な造形です」


「エレーナ様、何でここに?」


 あたしの質問に、エレーナ様はピタリとキョロキョロするのをやめる。そして、あたしの目をしっかり見つめる。


「友達のことが心配だったからです。いけなかったでしょうか?」


「え……」


 あたしは嬉しかった。てっきり嫌われたと思ってたから。涙が零れる。


「あら、どうしましたか? ぴかりん、大丈夫ですか?」


「大丈夫です……とっても嬉しくて。友達だと思っていてくれたことが」


 あたしは涙を拭いた。


「心配していただき、ありがとうございます」


「あの、良ければ今後はためごにしませんか?」


「いいんですか?」


「以前は体裁もありましたので、お気持ちをいただきました。ですが、今は魔王軍幹部と聖女。立場の違いなどありません」


「それもそうですね」


「それにしても、魔王は魅力的な人ね」


「エレーナ様、いきなりそこ?」


「ぴかりん。レーナと呼んで」


「あ、ああ。うん、レーナ」


「気持ちの良い響き。お父様とお母様を思い出す」


「……人質なんだよね」


「うん。でも、もうそのことを考えるのはやめたの」


「え? 何で?」


「嫌な気持ちにしかならないから」


 あたしもそう考えそうだなと、ふと思った。それから、一呼吸置いて、本題をぶつける。


「ところでレーナ」


「何か?」


「どうやってここに辿り着いたの?」


「ふふ、わたしも成長したもので――」


 レーナの話によると、あたしと喧嘩別れしたあとも、あたしのことは気にしていたという。


 それが突然、手紙を置いて消えたから、セスさんに聞いたらしい。だけど、知ってる人はいないと言われたそうだ。


 それで、レーナだけが知る異世界人だという情報から他に行く宛はないはずだと推理。


 限られた時間で、研究所の痕跡を探したり、宿を当たってみたりして、最後は――


「エリザベスを問い詰めたの。わたしを偽りの聖女と馬鹿にしていたので、大嫌いだった。だけど、今回の件で見方が変わった。確かに偽りの聖女だし、わたしはちゃんとぴかりんと会えたから」


 エリザベスさんが手引きしたらしい。それから、敵国の聖女という重役が訪問するということで、レムレス様が直々に迎えに行ったという。


 絶対、王国のユリウス陛下にはできない所業。


「あのように優しく美しい殿方は、初めて目にしたわ。またゆっくり話したい」


 レーナは王国で男性から酷い扱いを受けている分、レムレス様の魅力は何倍にも見えるんだろうな。

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