第42話 諦めてもいいですか?
この日、あたしはミラちゃんの指揮下にいた。
ミリオネルの消滅により、大きな人事異動があり、ミラちゃんは大隊長に抜擢され、あたしはその下に付く形だった。
他にも幹部が部隊にはいるようだけど、ミラちゃんはあたしのそばに居てくれた。
「ほんまはこのまま押し切って、勝ってまいたいんやけどなぁ」
いわゆる勝確の状態。だけど、気がかりなのはエレーナ様。彼女を死なせてしまっては元も子もない訳で……
「いっそ、エレーナ様を魔王軍に誘うことはできないの?」
「難しいやろな。あいつの両親は人質として拉致されている上、上級貴族の出やからな……大方、領地の民は守らなあかんとでも思っとるんやろから、簡単には動かへんやろ。うちんときみたいにな」
「貴族は貴族で大変なんだね」
「せや、貴族の方が平民の何倍も大変やで」
そんな話をしながら、あたしは観月なしで撃てるようになった魔導砲の威力に浮かれ、さらにゲーム感覚で敵を倒す楽しさに引きずられて、気付けばどんどん前に出てしまっていた。
「ぴかりんっ! 前に出過ぎやっ!」
「大丈夫だよ、ミラちゃんっ! 魔力注入してもらえれば、こんな雑魚どもは余裕余裕」
完全に酔っていた。魔導砲の威力に。明智アーマーの防御力に。魔王軍の強さに――
キィィィンッ! ずざざざぁっ!
あたしは、地面を滑り、吹き飛んでいた。
しかも、たった一撃で、明智アーマーの光は失われている。痛い。痛い。次、食らったら死ぬ――
「やはり、君なのか……ぴかりん……」
その声にハッとなり、慌てて上体だけで振り返る。そこには、悲しそうな表情を浮かべた懐かしい顔が、夕日に染まり、立ち尽くしていた。
「……セス、さん」
「ずっと君じゃないかと、思っていたんだ……そうじゃないことを願いながら。本当に残念だ」
剣を構えて、次の攻撃に移るセスさんを前に、あたしは痛みで、立ち上がることさえできなかった。
「君は何故……裏切ったんだ……」
「……」
「エレーナは……君を信じていたのにっ!」
あたしは、何も言えなかった。そして、何故だか、ここでセスさんに殺されてしまうのも良いかもと思ってしまった。
目を閉じた。もういいや、ここで終わろう……
ドンッ!
「くっ!」
「ぴかりんっ! しっかりしーやっ!」
その声に、ゆっくりと目を開ける。そこでは、ミラちゃんが、セスさんと戦っていた。
必死に魔法を撃ち込むミラちゃんに対して、その魔法を全て真っ二つに斬り裂き、一歩一歩、確実に前進してくるセスさん――
セスさんって、こんなに強かったんだ。
どんどん追い詰められるミラちゃん。それもそのはず、これまでに明智アーマーの注入を6回している。助けなきゃ――
「……魔力切れしてる」
そう。明智アーマーは最初の一撃を防いだだけで魔力がなくなっていた。それだけじゃない。
あたしは、痛くて身体が動かない。あたしの甘い考えは死んでも治らないみたいで、どこかでセスさんが、ミラちゃんを倒さないと思っている――
「っ! あかんっ!」
ザシュッ! 一瞬だった。ミラちゃんが浮かび上がれなかったその瞬間、セスさんの剣が彼女を左右に引き裂いた――
「……」
それをただ呆然と見つめていた。やがてあたしは、力が抜けたように大の字で寝転んだ。あたし、頑張ったよね……
目を閉じて、色んなことを思い出す。
パンパンパンッ!
空で花火が鳴り響く。人間側が使う撤退の合図だ。
「撤退ですか……運が良かったですね、ぴかりん。次はありません」
怒りのこもったセスさんの声は、足音と共に遠ざかっていく。辺りは異常な静けさに包まれた。また生き残っちゃった……
「ミラちゃん……ごめん……」
薄暗い空を見上げて、あたしは1人泣いた。わんわんと泣いた。あたしが調子に乗って前に出なければ、こんなことにはならなかったかもしれない。
もう、辛すぎるよ……
あたしは、近くに落ちていた剣を拾う。そして、自分の首筋に当てて、覚悟を決めて目を閉じる――
あれ? 動かない? 何で?
目を開けると、そこにはキスでもしようとしてたのかと錯覚するような距離に、レムレス様がいた。
「しようとはしてないけど、してもいいんだよ? ふふ。でも――」
あたしから剣を取り上げ、それを魔力で溶かす。
「これはしてもらっては困るかな?」
「でも、レムレス様……あたし、もう辛いんです……助けてください」
ミラちゃんまで失ったあたしは、生きる希望を失っていた。
「いいよ。僕は何をすればいいんだい?」
「へ?」
まさかの回答に、あたしは困惑した。
「どうしたんだい? 何をすればいいか教えてくれないのかな?」
「だ、抱き締めてください……」
「そんなことでいいのかい? お安い御用だよ」
ふわっとしなやかな腕があたしを包んだ。
そして、肩にレムレス様の顔が乗り、シルクのような髪の動きに合わせて、心地良い香りが静かに広がった。
温かい……
「えぐっえぐっ、泣い、てもグスッ、いいで、ヒクッすか」
「あはは、構わないけど、答える前に泣いているみたいだね」
「うわぁぁぁぁぁんっ!」
あたしは、涙を全部使い果たすように泣いた。その間、何も言わずにレムレス様はずっと抱きしめてくれていた。




