表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/48

第42話 諦めてもいいですか?

 この日、あたしはミラちゃんの指揮下にいた。


 ミリオネルの消滅により、大きな人事異動があり、ミラちゃんは大隊長に抜擢され、あたしはその下に付く形だった。


 他にも幹部が部隊にはいるようだけど、ミラちゃんはあたしのそばに居てくれた。


「ほんまはこのまま押し切って、勝ってまいたいんやけどなぁ」


 いわゆる勝確の状態。だけど、気がかりなのはエレーナ様。彼女を死なせてしまっては元も子もない訳で……


「いっそ、エレーナ様を魔王軍に誘うことはできないの?」


「難しいやろな。あいつの両親は人質として拉致されている上、上級貴族の出やからな……大方、領地の民は守らなあかんとでも思っとるんやろから、簡単には動かへんやろ。うちんときみたいにな」


「貴族は貴族で大変なんだね」


「せや、貴族の方が平民の何倍も大変やで」


 そんな話をしながら、あたしは観月なしで撃てるようになった魔導砲の威力に浮かれ、さらにゲーム感覚で敵を倒す楽しさに引きずられて、気付けばどんどん前に出てしまっていた。


「ぴかりんっ! 前に出過ぎやっ!」


「大丈夫だよ、ミラちゃんっ! 魔力注入してもらえれば、こんな雑魚どもは余裕余裕」


 完全に酔っていた。魔導砲の威力に。明智アーマーの防御力に。魔王軍の強さに――


 キィィィンッ! ずざざざぁっ!


 あたしは、地面を滑り、吹き飛んでいた。


 しかも、たった一撃で、明智アーマーの光は失われている。痛い。痛い。次、食らったら死ぬ――


「やはり、君なのか……ぴかりん……」


 その声にハッとなり、慌てて上体だけで振り返る。そこには、悲しそうな表情を浮かべた懐かしい顔が、夕日に染まり、立ち尽くしていた。


「……セス、さん」


「ずっと君じゃないかと、思っていたんだ……そうじゃないことを願いながら。本当に残念だ」


 剣を構えて、次の攻撃に移るセスさんを前に、あたしは痛みで、立ち上がることさえできなかった。


「君は何故……裏切ったんだ……」


「……」


「エレーナは……君を信じていたのにっ!」


 あたしは、何も言えなかった。そして、何故だか、ここでセスさんに殺されてしまうのも良いかもと思ってしまった。


 目を閉じた。もういいや、ここで終わろう……


 ドンッ!


「くっ!」


「ぴかりんっ! しっかりしーやっ!」


 その声に、ゆっくりと目を開ける。そこでは、ミラちゃんが、セスさんと戦っていた。


 必死に魔法を撃ち込むミラちゃんに対して、その魔法を全て真っ二つに斬り裂き、一歩一歩、確実に前進してくるセスさん――


 セスさんって、こんなに強かったんだ。


 どんどん追い詰められるミラちゃん。それもそのはず、これまでに明智アーマーの注入を6回している。助けなきゃ――


「……魔力切れしてる」


 そう。明智アーマーは最初の一撃を防いだだけで魔力がなくなっていた。それだけじゃない。


 あたしは、痛くて身体が動かない。あたしの甘い考えは死んでも治らないみたいで、どこかでセスさんが、ミラちゃんを倒さないと思っている――


「っ! あかんっ!」


 ザシュッ! 一瞬だった。ミラちゃんが浮かび上がれなかったその瞬間、セスさんの剣が彼女を左右に引き裂いた――


「……」


 それをただ呆然と見つめていた。やがてあたしは、力が抜けたように大の字で寝転んだ。あたし、頑張ったよね……


 目を閉じて、色んなことを思い出す。


 パンパンパンッ!


 空で花火が鳴り響く。人間側が使う撤退の合図だ。


「撤退ですか……運が良かったですね、ぴかりん。次はありません」


 怒りのこもったセスさんの声は、足音と共に遠ざかっていく。辺りは異常な静けさに包まれた。また生き残っちゃった……


「ミラちゃん……ごめん……」


 薄暗い空を見上げて、あたしは1人泣いた。わんわんと泣いた。あたしが調子に乗って前に出なければ、こんなことにはならなかったかもしれない。


 もう、辛すぎるよ……


 あたしは、近くに落ちていた剣を拾う。そして、自分の首筋に当てて、覚悟を決めて目を閉じる――


 あれ? 動かない? 何で?


 目を開けると、そこにはキスでもしようとしてたのかと錯覚するような距離に、レムレス様がいた。


「しようとはしてないけど、してもいいんだよ? ふふ。でも――」


 あたしから剣を取り上げ、それを魔力で溶かす。


「これはしてもらっては困るかな?」


「でも、レムレス様……あたし、もう辛いんです……助けてください」


 ミラちゃんまで失ったあたしは、生きる希望を失っていた。


「いいよ。僕は何をすればいいんだい?」


「へ?」


 まさかの回答に、あたしは困惑した。


「どうしたんだい? 何をすればいいか教えてくれないのかな?」


「だ、抱き締めてください……」


「そんなことでいいのかい? お安い御用だよ」


 ふわっとしなやかな腕があたしを包んだ。


 そして、肩にレムレス様の顔が乗り、シルクのような髪の動きに合わせて、心地良い香りが静かに広がった。


 温かい……


「えぐっえぐっ、泣い、てもグスッ、いいで、ヒクッすか」


「あはは、構わないけど、答える前に泣いているみたいだね」


「うわぁぁぁぁぁんっ!」


 あたしは、涙を全部使い果たすように泣いた。その間、何も言わずにレムレス様はずっと抱きしめてくれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ