第41話 やっと渡せた髪飾り
ミリオネルを倒すんじゃなかった。あたしは後悔した。
だって、魔王軍幹部として、数百の魔物の部隊を率いて戦場に立つ羽目になったから。これってもはや、完全に人間の敵じゃんっ!
だけど、今あたしが生き延びるためにできることはこれしかないわけで――
「聞いてた通り、弱そうだな」
うわ……ねっとりとした声に振り向くと、その言葉をブーメランで返したくなる見た目のカマキリみたいな魔物がそこには立っていた。
「悪いが、お前を殺して、俺が幹部になる。死ねっ!」
「ひっ!」
咄嗟に出たのは、素人防御。だけど――
キィンッ! 甲高い金属音が辺りに響く。
カマキリの攻撃は緩く、あたしの防御で充分防いだ。魔力最大の明智アーマーのおかげで衝撃すら感じない。よし、反撃を――
「って、場所が悪過ぎでしょ……」
カマキリの後ろには、レオの部隊があった。こんなところで魔導砲を撃てば、間違いなくあの人の部隊まで届いちゃう。
倒せればいいけど、兵だけ削ったりしたら、何を言われるか分からない。どうしよう。
分かってたけど、明智魔導砲の弱点が露わになった瞬間だった。先に接近されると、よほど条件が揃わないと反撃できない。
再び攻撃を浴びた。痛みはない。だけど、防ぐたびにじわじわと魔力は消費されていく。長期戦では間違いなく負ける仕組みで――
ザシュッ! ジュゥゥゥゥ……
カマキリは霧散する。倒したのは、あたしの部隊に所属する猫のような魔物だった。
「ぴかりん様、幹部を狙う者は多いです。お気を付けを」
そう告げると、前線へ戻っていく。ああ、これがミラちゃんの言ってたやつか……
めっちゃ面倒臭いじゃん。てか、助けてくれるいい奴とか、魔王軍にもいるんだね。
戦線を押し上げた戦いで1日が幕を閉じ、あたしは部屋に戻った。
「疲れた〜」
あれ? この感じ、何か既視感があるんだけど? あっ!
「職場で働いて帰った後だ」
本当にそっくりな体感だった。まさに働かされてる感が一緒。
「よく考えたら、魔王軍ってレムレス様が作った訳じゃないんだよな〜。萌えない……」
でも、ここ数日みっちり戦い続けてることもあり、敵を倒すことに躊躇がなくなったように思える。
それが魔物だろうと人間だろうと、感覚が麻痺したんだと思う。だって、死なないためには、倒すしかないんだもん。仕方なくない?
自分の価値観が変わりつつあることに自己弁護していると、ノックが部屋に響く。
「お疲れ、ぴかりん。今日は大活躍やったらしいな」
ミラちゃんと話すのはミリオネルを倒して以来だ。
「ミラちゃん、ごめん……あたし、ミリオネルを倒しちゃった」
「気にせんといてや。胸糞悪い話やから、話とらんかってんけど、うちはあいつに魔物にされてん」
「え?」
「はじめは魔導具の作り方を教えるっちゅーて近付いてきよって、気を許したら食われたんや。あれはうちもびっくりしたで」
「だ、大丈夫だったの? ここにいるから変な質問だけど」
「大丈夫やない。うちは、あいつから産まれたコピー品や。おかげで魔力は超一級品やで」
あたしは、王宮で盗み聞きした聖女の生贄システム。
それと、紙芝居で語られている魔法の始まりストーリーを、あたしなりの解釈でまとめて、ミラちゃんに説明した。
「……ほんま、けったくそ悪い話やな。あの亀ジジイが腐っとったんはそない昔の話やったんかいな」
「だから、ごめん。あたし、ミリオネルを許せなくて。レムレス様からも許可を貰ったから倒しちゃったんだ」
「ええで。前にも言った通り、うちはエレーナを守りたいんや。そのためなら、何でもしてきた。亀ジジイの消滅で、これからの王国の聖女が報われるっちゅーなら、エレーナが最初の1人目やからな。何の問題もない」
そう告げるミラちゃんの声のトーンに変化はない。本心から、ミリオネルを倒したことを気にしていない様子で安心する。
「せやせや。話は変わるんやけど、明日の大規模作戦……うちとあんたは同じ地区を攻めるで」
「うは〜、マジか……連日じゃん、休ませてよ〜」
「あんたのせいやで? ケラケラ」
「え、何で?」
「あんたが魔導砲で暴れとるせいで、レオが刺激されとるんや。しかも、昔の相棒の影を見たらしいで。せやから、この戦いをもう終わらせるって息巻いとるそうや。しかし、撃てれば勝てる兵器なんて、ズルいやろ、はよ作ってーな」
「うわー、ごめん。すっかり忘れてたっ! 大至急で作るね」
忘れてたで思い出した。棚にしまっていた亀の髪飾りを取り出す。
「ミラちゃん、これ」
「亀の髪留めかいな、なかなか可愛いやんか」
「いつもお世話になってるから買ったんだ。受け取って貰えるかな?」
「うちに? 何やねん、改まって」
「……実は、リネちゃんが死んじゃった日に渡そうと思って買ってた物なんだ。あの頃、2人には、めっちゃお世話になってたからさ」
「……そうか、えらい懐かしいな。ほんなら遠慮なく、もろとくで」
お面を付けてない側の前髪にパチンと付けると、ミラちゃんは照れくさそうに微笑んだ。
「おおきに、あんがとさん、ぴかりん。大事にさせてもらうで」
「うん。やっと渡せて、あたしも嬉しいよ」




