第40話 諸悪の根源
あたし、セスさんを殺した。今回は観月の力を借りることなく、あたしの手で発射した。
その戦果によって、早期帰還が許され、部屋に戻ると、こっそり泣いていた。
全滅から救ってもらって、一緒に何度も狩りに出て、たくさん助けてもらったのに。しっかりお礼も伝えられてなかったのに。
ごめんなさい、セスさん……
そんなあたしの視界に映る受信機の電波が遠くなり始める。城を出た?
慌てて涙を拭いて、装備している全ての魔導具に魔力を注入し、制服を脱ぎ捨て、リュックサックに入った受信機を担いで出発する。
何か収穫があればいいけど。
移動している。方角は北東? そっちの戦線はかなり落ち着いているって耳にしたけど。尾行を続けること、2時間ほど。
「その方角でその距離……王国領土に入ったっ!?」
あたしは急いで距離を詰める。魔物に探知されない。魔導師の索敵にも引っかからない。
魔力ゼロのあたしも魔導具も、索敵には引っかからないからだ。
明智アーマーの派手さは、空き時間で作った薄手の黒いコートで覆ってあるので目立たなくなっている。
ホバリングもかなり物にしたこともあり、隠密行動も出来ている。
しばらくすると、町に辿り着いた。久しぶりの景色に、ずいぶん昔のことに思えて、少しだけウルッと来る。
受信機は王宮を指している。あたしは見慣れた景色を後に急ぐ。
兵士の目が届かない城壁を駆け登り、因縁深い王座の間を目指す。エレーナ様がいじめられていたあの場所へ――
見晴らしの良い最後の通路を、屈んで外から回ろうとした時――
カランカランッ! 石を踏んでしまい、大きな音がしてしまった。ヤバ、バレるっ!
「あら、ごめんなさいね。あたしがこの飾りを落としちゃったのよ、ほほほ」
え? エリザベスさん? 何でここに? てか今、あたしを庇ってくれた?
理由はどうあれ、バレずに済んだ。そのまま、王座の間の窓の裏に隠れて、中の様子を窺う。クソ国王と……ミリオネルッ!
「……ユリウス〜。お主はいつまでわしを持たせるつもりじゃ〜?」
「申し訳ありません、ミリオネル様。今はまだ領地内の結界石が完了しておらず……」
「遅いの〜、確か偽りの聖女、だったかの? 魔力が足りないのは本当のようじゃな」
「はい……あの女を馬車馬の如く働かせているのですが、いかんせん、魔力が足りず、戦線維持すらままならぬ始末で」
エレーナ様の話をしている。でも、何を待たせているのか。
「そんなもの、次の聖女に任せればよかろう。わしは早く、エレーナを食べてしまいたいのじゃ」
「しかし……」
「お主は分かっておらぬのではないか? お主の父、そのまた父……遥か昔から、聖女という形で魔力の高い人間の若い女に魔力を与え、その魔力によって器が肥え太った時、役目を終わらせ、わしに食われる。こうして、この国の平和が守られているのじゃ、違うかね?」
「……その通りです」
「太古から続く、巫女の生贄儀式……お主たち人間は、わしからは逃れられない」
「……はい」
「それに今日は助かったであろう? わしの助言のお陰で大事な勇者を失わずに済んだのではないか?」
「はい、新たな手先の魔導砲、白銀の姿だと事前に聞いていなければ、勇者はもちろん、多くの者を失っていました」
内通の決定的証拠だ。それより、聖女を下ろされた人が暗殺される話は、この亀ジジイの仕業だったの……
許せないっ! 今すぐ国王もろとも消してやりたいっ! けど、まずはレムレス様に報告だ。
帰りながら、内通のお陰とはいえ、セスさんが生きていることに安心する。ほんとに良かったよ。
◇◇◇
「やはり、ミリオネルは内通していたんだね」
「はい。確かに聞きました。見返りに聖女を下ろされた女性たちを食していたようです。それもずいぶん長い間、続いていたみたいです」
「なるほどね、あの長寿と魔力はそのせいだったか」
エレーナ様を亀ジジイの好きなようにはさせない。それに、これまでこんな奴に搾取された聖女たちの仇を打ってあげたい。
「君はどうしたいんだい?」
「え?」
レムレス様は微笑んだ。慣れることのない素敵さ。
「君が決定打を見つけたんだから、君のしたいようにするといい」
「え、でも、魔王軍の力が削がれるんじゃ」
「心配はいらないよ。彼くらいの魔物はいくらでもいるんだから」
「なら……」
答えは決まってる。
「倒したいです」
その言葉に、レムレス様は頷いた。
「好きにしていいよ。老害の処分は任せよう」
◇◇◇
あたしはほかの魔物をなるべく巻き込まないよう、ミリオネルが1人になる瞬間を狙うことにした。ビーコンでチャンスを窺う。
チャンスはほどなくやってきた。あたしは、尾行して射程内に亀ジジイを入れる。逃げられないように、バレないギリギリの距離を詰める。
これで少しは王国も変わるかもしれない。エレーナ様が少しでも報われますように――
コンソールパネルを操作して、鎧を展開する。そして、また観月に頼ることなく発射する――
気付く間さえ与えなかった。ミリオネルは跡形もなく、消え去った。
のちにこのことは知れ渡り、数日後、レオの熱い推薦もあって、あたしは正式に幹部へ昇格させられてしまう。
何させられるのか不安で仕方なかった中、次の出撃命令が下った――




