第38話 メフィストの再来
翌日、あたしは戦場にいた。内偵調査の続きをしたかったんだけど、作戦司令官のレオという魔物があたしを名指しで徴集したそうだ。
レオは、レムレス様に比べれば、だいぶ落ちるけどかなりイケメン。セスさんといい勝負かもね。でも、キャラはヤバい。マジ悪魔。
「右翼ぅぅぅぅっ! 押されてんぞぉぉぉぉっ! 死んでも押し返せぇぇぇぇっ!」
マジで終わってる。このブラック企業、頭おかしいよ。
「おい、新入り? いつまで勿体ぶってんだ、てめぇ? さっさと右翼片付けろ。仲間巻き込んでも構わねえから、ぶっ放せ」
「ひぃっ! は、はい……」
これ、やらなきゃやられる場面だよね。せめてもの救いは、エレーナ様が戦線にいないことだ。
「ごめんなさい、人間の皆……」
あたしは、コンソールパネルを操作する。集中、集中――
プツン――髪ゴムを外して、髪を振り乱す。
「……はてさて。都合の良い使われ方になりんしたなぁ」
鎧は展開し、魔導砲が放たれる。味方も敵も射線上にいたものは消し飛んだ。
「おう、やりゃできるじゃねーか、次は左翼だ」
「あいにく、魔力が足りないでありんす」
「属性は何だ?」
「雷でありんす」
「来い」
観月はレオの前に堂々と立つ。そんな観月に見下した様子で、手をかざすレオ。一瞬で明智アーマーがフルチャージする。
「とっととやってこい」
「分かりんした」
観月はそのまま、左翼でも魔導砲を放ち、残るは中央だけとなる。
「てめぇ、なかなか使えるじゃねぇか」
そう言って、レオは再び雷魔力を明智アーマーに充填する。
その対応に観月は、まるで以前から知っているように阿吽の呼吸で合わせる。中央からも王国軍は消滅した。
「ぎゃはは、すげぇ戦果だな、新入り。ここまで戦線を押し戻したのは、セスのクソ野郎にやられちまったメフィスト以来の快挙だ。誇っていいぞ」
「ありがとうございます。それでは、わっちは予定がありんすゆえ、失礼いたしんす」
「おう、勝手に帰れ」
ホバリングで帰る途中で、観月はあたしに身体を返す――
「ちょ、危な」
おかげでバランスを崩しかけて、転ぶところだった。
だけど、あたしがさっきの場面を対応していたら、もっと時間がかかっていたと思う。髪ゴムで髪を結び直す。
人間を殺すのにも迷いがあるし、魔物とはいえ、味方を倒すのも気が引ける。褒められても、帰りにくくて、しばらくあそこにいただろうし。
観月に感謝だね。
さて、観月のお陰で午前中で戦場が片付いたから、午後はミリオネルの調査を再開できる。
この件は、なるべく急いだ方がいいよね。レムレス様から直の仕事だもん。
そして、制服を部屋に置き、また聞き込みを始めることにする。
一応、怪しまれないようにミリオネルの意見が聞きたくて探しているといった切り口で情報を集めているんだけど――
「え? 知らないなぁ。忙しいから」
「ミリオネル先生? 見かけてないけど? それじゃ失礼」
「ミリオネル殿とは、数日前にお会いしたきりだ。すまないが急いでいる」
といった具合に、尋ねる研究員が揃いも揃って知らないだけじゃなく、あたしを避けるようだった。
もしかして、ミリオネルはあたしが尾行していることに勘づいてる?
あたしは、研究員からの情報は諦めて、戦闘員に切り替える。
偶然、あたしが中央ホールに入る頃、その中央では、凱旋帰還したレオと、まさかのミリオネルが会話していた。
「ミリオネルよ。貴様が手回しした新入りは思いの外、使えたぞ。メフィストの再来、いや、それ以上かもしれん、ぎゃはは」
「レオッ! 声がデカいぞっ! 戦闘員にわしが関与していることは内密にせんかっ! 他の幹部に疎まれる」
「心配ねぇよ、ミリオネル。俺様が付いてるじゃねぇか。逆らう奴は始末する。それだけだ」
レオ、マジでヤバ。あんな大声であんな内容を味方の前で。てか、待って。
ミリオネルが手を回した? 何で? 戦力だから? いや、タイミングが良すぎない?
あたしが内偵を始めた矢先だよ? これって、繋がってると思った方が賢明だよね?
もしかして、ミリオネルは気付いている?
しかも、あたしに調査を妨害してるのかも。だって、あんな気性の荒いレオに内緒で紹介するなんて、協力的とは思えないし。
「これで怪しさは爆上がりだよね……」
それは、調査の難易度が上がったことも意味している。何かいい方法はないかな。GPSとか付けられたら、動きが簡単に分かるのに――
「GPSまでいかなくても、魔力で探知できる装置が作れればもっと疑われずに動向を探れるじゃんっ!」
あたしはレムスペースの研究所へ大急ぎで向かった。
◇◇◇
あの日の午後から試行錯誤を繰り返すこと、更に2日間。この間、何故か戦場に呼ばれることもなく、魔導具作りに専念できた。
そして、あれこれ実験していたら、リケジョ時代に、友達と作った事のあったビーコンを思い出す。これだっ!
研究所には部品がなかったため、部材調達室に駆け込み、材料を注文しようとする。
だけど、待って。ここも、ミリオネルの配下の可能性もあるよね――
「分かったよ。すぐ全て手配しよう。部屋の方がいいかな?」
「そうですね、お願いします。ありがとうございます」
あっさり承諾してくれたレムレス様にお礼を言って、あたしは部屋に戻る。ほどなく、材料は全て届いた。




