第37話 内偵依頼
呼び出し理由は何だろう。まさか、シルフズメイクを倒しちゃったことかな。
重い足取りで、扉をノックする。
「ああ、ぴかりん。申し訳ないが入って、手伝ってくれないかな?」
「え? は、はいっ!」
扉をくぐったあたしは目を疑った。しっかりとした窯がある。え、初めて来た時あったっけ、こんなの?
「なかなか難しいものだね。ちょっと、そっち持ってもらえるかな?」
「は、はい?」
え? PIZZAじゃないですか、これ? え? 何でこんなものがここに?
「ああ、ごめんね。先日、君の記憶が断片的に見えたんだ。美味しそうだったから、君も一緒にどうだい?」
どうだい? って、キラーンとし過ぎだからっ! 好きになりそうっ! てか、もう好きっ!
「あはは、君は本当に賑やかで楽しい方だ。よし、こちらは僕がやっておくから、君はテーブルの方をお願いするよ」
「はい」
てっきり怒られるのかと思って緊張してたから、あたしはホッとしてテーブルメイクをする。
「シルフズメイクのことだけど」
「ひぃっ! は、はい?」
「気にしなくていいよ。負ける方が悪い、これが魔王軍の暗黙のルールだからね」
「そ、そうですか。でも、ごめんなさい。貴方の配下を減らしてしまいました」
「気にしてないよ。その分、君に頑張って貰えばいいんだしね。ほら、焼けたみたいだよ」
オシャレに盛り付けられたピザが、窯から出てきた。色とりどりのサラダとオニオンスープも並ぶ。
美味しそうなチーズの香りが部屋中に行き渡る。久しぶりの豪華な食事。あたしは、心から浮かれていた。
「た、食べていいですか?」
「もちろん、召し上がれ」
「やったぁぁぁぁっ! いただきまぁぁぁすっ!」
美味ぁぁぁぁぁぁっ! 顔面国宝な上に料理もできるとか天才かよっ!
「あはは、君の心は本当に表情豊かで面白い。ところで、ぴかりん」
「ハフハフ、はひ?」
「お願い事があるんだけど、聞いてくれるかな?」
「……ごくんっ! え、お願い事ですか? あたしにできることなら構いませんけど」
あたしの言葉に対面に座るレムレス様は頷いた。
「もちろん。というか、君にしかできない事なんだ」
「あ、あたしにしかできない?」
何それ、逆に怖いんだけど。魔力ゼロ、体力ゼロ、人脈ゼロのあたしにしかできない事って何?
「ミリオネルを知っているね?」
「あ、はい。先日、研究所に来られました」
「彼が人間と内通しているという密告が入っているんだ」
「内通……」
「その証拠を押さえて欲しいんだ」
「でも、レムレス様。それは、あたしじゃなくてもできるんじゃ……」
「君も自分で言ったじゃないか? 人脈ゼロ、と。それは裏を返せば、誰からも干渉を受けないということじゃないかな?」
「確かにそうですけど」
「それじゃ、この件は頼んだよ。では、引き続き、食事を楽しもう」
そんな訳で、あたしは内偵調査を任されてしまった。
◇◇◇
部屋に戻ったあたしは、何から始めればいいかを考えていた。
「まずは、ミリオネルの日々の行動を把握しないといけないよね」
立ち上がったあたしは、研究所周辺で聞き込みを開始した。
「ミリオネル先生なら、今日は研究発表室で講義をしていると思いますよ」
とある研究員は教えてくれた。案内された発表室に静かに入る。
すると、壇上でホワイトボードに図を描きながら解説をしているミリオネルの姿があった。内容は、魔石がどうやってできるか、だった。
それによると、魔石は小さな魔物が大きな魔物に食べられ、それが更に大きく強い魔物に食べられ、繰り返すほど大きな魔石、濃密な魔石が出来上がるのだと話す。
加えて、人間を取り込む事で一段飛ばしで魔石は純化され、より早く強い魔石に進化すると解説された。
人間は取り込んで構わないが、一定のところで止めないと、人間がなくなってしまうから、互いに調整するように。そんな事まで告げられていた。
人間はすでに、魔物たちに生かされているだけだったんだ……悲しいけど、それが現実なんだ。一旦、それは忘れよう。
ミリオネルは、魔物たちから絶大な支持を集めているのが、この講義だけでも分かった。
講義後に移動するミリオネルをバレないように尾行する。けど、何となくバレてる気がするんだよね――
「あっ!」
制服っ! これ、ミリオネルが作ったやつ。脱いだら、他の魔物に殺されるってミラちゃんに言われたけど……
「やってみよう……」
静かに制服を脱ぐ。中は白く輝く明智アーマーなので、逆に目立つんだけど。尾行を続ける。気のせいか、さっきまでのバレてる感はなくなった気がする。
巨大な魔物とすれ違う。ギョロリと視線を送られて、一瞬フリーズしたけど、攻撃されずにそのままだった。
あれ? 実は着てなくても大丈夫だったり? そうなると、誰かがミラちゃんに嘘の情報を渡したの? 何のために?
疑問に疑問が重なり、脳内で大渋滞を引き起こす。
そんなあたしにはお構い無しで、ミリオネルは次の部屋に入った。鍵がかかってる。
部屋の名前もない。しばらく外で出てくるのを待ったが、出てこないのでその日は、退散することにした。
部屋に戻ったあたしは、今日を振り返り思う。人間側は、本当に何も知らないんだと。




