第36話 フレンドリーファイア
魔物が倒され、前線が押し返されている。護衛兵団の力というより、エレーナ様の力が大きい。
だけど、それほど押し戻されずに侵攻は止まった。エレーナ様の魔力切れ、かな。
「それじゃ、あんたの力、見せてもらおうか」
シルフズメイクはそう告げて、エレーナを指さした。
「あいつを仕留めな」
「……」
できないよ……今は拗れてるけど、この世界で初めて会った人だし、サシ飲みしたり、お風呂入ったり、町でデートした仲だもん。
それに、推しであることに変わりはない。
あたしは、魔王城に来る前に追加した装備、ホバリングを発動させ、無言で後方へ一気に駆ける。
「……あたいの前で敵前逃亡かい? いい度胸してるねぇ。その度胸に免じて、あたいが直接始末してあげるわ」
後ろから凄い速度で迫るシルフズメイク。ヤバ、追いつかれ――
ガンッ! ガラガラガラガラッ!
後ろから何かがあたしに強い衝撃を与え、吹き飛んだあたしは、地面を転がる。
それは、明智アーマーが初めてアーマーとして機能した瞬間ともなった。衝撃の割には、特に怪我はなく、すんなり立ち上がれた。
「へぇ、あたいの一撃をあっさり耐えるのかい。期待の新米さんは、想像以上だわ。だけど――」
追撃が来た。腕を正面にクロスして素人防御する。
「ぐふっ!」
お腹に強烈なのをもらう。明智アーマーがなければ、胴を貫かれていただろう。強い。
「なら、これはどうだいっ!」
今度はとめどなく続く連撃。痛みまで行かないけど、衝撃が響く。防戦一方じゃいずれ殺される――
隙を突いて、ホバリングで距離を取った。そして、覚悟を決め、コンソールパネルを取り出した。集中、集中――
プツン――髪ゴムを外し、髪を振り乱す。その間に、シルフズメイクは急接近していた。時間がないっ!
「……はてさて。神さんも、酷なことをしてくれなんし」
間もなく、白く輝く鎧は細かい三角形に分かれ、宙に円状に展開した。
そして、明智砲が火を噴く。同時に、辺り一面の景色が変わり、シルフズメイクの姿も消え去っていた。
安全を確認すると、観月はあたしに身体を明け渡す。髪ゴムで髪を留める。
「……どうしよう。エレーナ様を守るためとはいえ、魔物、倒しちゃったよ」
軍隊といえば、敵前逃亡はご法度だったろうし、挙句フレンドリーファイアとか――
弁解の余地がないじゃぁぁぁんっ!
いっそ、魔王を倒すとか? いや、倒せるかも分からないし、倒せたとしても、あの顔面国宝を失うのは忍びない。
でもでも、懲罰で殺されちゃうかも? うわぁぁぁぁぁっ! マジでやっちゃったぁぁぁぁっ!
頭を抱えて蹲っていると、空から降りてきたような、スタという足音がする。
「自分、ぴかりんやんか? 何で前線におるん?」
「ミラちゃぁぁぁんっ!」
あたしはそこに現れたアシメのツインテールに泣きついた。何でいつもこう絶好のタイミングなの、すごすぎ。
「ケラケラ、あんた、どえらいことしよったの」
「どど、どうしたらいい? やっぱり、魔王倒すしかない?」
事情を説明し終わる頃には、自分の犯したことの重大さにガクブルで、大混乱だった。
「安心しーや。レムの旦那は、原則的に非干渉や。そもそも魔王軍は、旦那を勝手に崇めた宗教みたいなもんやねん。旦那は指示を出しとらん」
「え? でも、味方を殺しちゃったよ?」
「そんなん日常や。幹部にもなれば、隙があったらその座を奪おうという輩から挑まれることはごまんとある。旦那ですら、毎日のように戦いを挑まれとるからな」
「それでいいの?」
「ええんやろ。もし本気で、人間を消したくなったら、旦那が動けば終わるんやから……」
「ああ、そうなんだ……なら、何でもいいね」
味方としては限りなく心強いけど、敵としては絶望的過ぎるよね。でも、良かった。大ごとにならないみたい。
「せやけど、幹部倒したっちゅーことは、あんたが幹部やで、ぴかりん、ケラケラ」
「へ? シルフズメイクって幹部だったの?」
「せや。いけすかんおばはんやったけど、新人教育だけは評価されとったんや」
「何その会社感」
「かいしゃかん? なんや分からんけど、明智アーマーはいつでも撃てるようにしとき」
「あ、うん。あ、そうだ。この事は、レムレス様に報告した方がいいの?」
「いらんで。もう知っとるやろし。ぴかりん、他の奴に殺されんようにな」
そう告げると、ミラちゃんは、空をバサッと飛んで行った。って、空をバサッて何で飛べるのっ!? 聞いてないしっ!?
あ、そういえば、エレーナ様は? ホバリングして、戦線に戻る。
そこには、戦線を押し上げている人間の一団がいた。その中に、エレーナ様がいる。良かった、無事なんだ。
いや、無事に決まってたのかな? レムレス様が守ってくれているはずだし……
でも、やっぱ百パーは信用できないよね。リネちゃんは死んじゃった訳だし――
「おい、そこのあんたっ! シルフズメイク姐さんを見かけなかったか?」
「え、えと……」
知らない魔物に声をかけられた。突然過ぎて、露骨に動揺するあたし。
「し、知らないかな〜」
嘘ついちゃったよ。よくエリザベスさんのこと、嘘つきみたいに責めたよね。さらっと嘘つく自分は棚に上げてさ。
その後、こっそりと戦場から避難した。部屋に戻り、レムレス様が用意してくれた魔力注入器で、明智アーマーに魔力を注入して、1日を終えた――
翌朝。あたしは、レムレス様に呼び出された。




