第2章 王国対戦 2-11 開発部門 神田(じんでん)3
……夢を見る……昔の夢を。
……幸せだった彼女と一緒に暮らしていた頃の事を夢に見る……
……あの事故がなければ幸せに暮らせていたのかも知れない……
……今のように様々な時間で苦しい夢を見なくても良かったのかも知れない……
……過去なのか未来なのか分からない時間にとらわれることはなかったのかも知れない……
……でも彼女のことが忘れられず、今でも彼女の復活を夢に見る……
……どんなことをしても、リアルではなくても、必ず彼女を蘇らせる……
目が覚めるとまた同じ夢を見ていたことを思い出す。
夢を見ることで前世なのか後世なのかの記憶が蘇る。
いくつかの時代で同じようにVRゲームの開発者をし、色々と彼女の復活の手段を模索し色々と手段を講じてきた、見えないところで。
物理的に肉体の復活は簡単ではないことは分かっているので、ゲームのアバターとして容姿や記憶、思考、行動を定着させ彼女として復活させるのが一番容易だと考えた……
しかし、時代によって倫理観が異なり、時代が進むほどアバターとして人間を複製するようなことは忌避されるようになった。
リアルと電脳の間に人が分離し生活し、それぞれが別の人格へと変わってしまうことに恐怖を覚える人が居るからだった。
亡くなった人がまだそこに居ることが宗教観として認められない人が居るからだった。
それぞれの時代で認められず、時代を遡り、そのようなことについて誰も問題視しない時代に神田は以前の記憶を蘇らせた。
未来の世界のような記憶に最初は戸惑った。
蘇った記憶の中で、未来のような世界の過去と現在は微妙に違う事も分かり、時間軸やもしかしたら世界自体が違うのかも知れないと思う。
アカシックレコードが存在するなら生まれ変わるのは先の時間である必要も無いし、別世界であればそれこそどの時間でも関係はないはずだ。
そう考えれば気が楽になった。
彼女と取り戻すためにITエンジニアとしての技術を極限にまで高めることにしたが、蘇った記憶を元にすれば現在にない技術が開発できた。
それにより名を上げ、現在のゲーム会社に入社し様々なゲームを作り信用を得るに至った。
そこから、別の時代でも作った「E.G.G.」を現在のIT技術で出来るシステムに作り直し、別の時代に接続出来るようにアップデートを重ね、今の状況にまで辿り着いた。
いくつかの時代のPCやサーバーに処理を肩代わりさせ、ここの「E.G.G.」上の処理能力を上げ、この時代では出来ない人間と遜色ないアバターを作り出し彼女を復活させる……
今はここまでしか出来ない。でも、この世界の倫理観であれば死者をアバターとして復活させても分かりはしない、この時代の人間ではないのだから。ただのバーチャルアイドルとしてごまかすことも出来る。
亡くなる前の彼女と同じではないが、それでもゲーム内ででも彼女に会えるのなら十分だ、と過去のもしくは未来の自分は思えるのだろう。
開発部門の執務室兼自宅のベットから起き出し、これまでの記憶を確認する。
……問題なく思い出せる。
現状の確認も、各時代とのリンクが確立され処理量が増大しているし、彼にアーマードギア(AG)を与え十分に習熟訓練を行い王国対戦の盤面を乱す用意も出来た。
後は時間を稼ぎ、各時代の処理可能な容量を最大限にまで引き上げ、どのフィールドでもその恩恵を受けられるよう王国大戦中にしなければならない。
AG1機のみではいつまでも保たないだろうから、彼の部下も準備するため暗躍しなければならない。
通常業務は各国の大型兵装のロールアウトで概ね終わり、今後発生する細かいバグ取りは開発部門の面々に任せてある。
今後のアップレートの打ち合わせや設計いくらか時間は取られるだろうが、彼女復活の準備はまだ色々とある。
まだまだばれないように隠れて進めなければならない……
コンコンコン
「チーフ、起きてますか?起きてないなら突入しますよ?」
「起きてるから」
「じゃあ、朝ご飯手配しますね?二度寝しないで下さいよ。
してもいいですけど、突入して襲っちゃいますからね?」
「分かったから突入は止めて……」
いつも通りの朝を迎え、朝食の前に仕事の準備をする。
過去の自分の望みはまだ達成できてはいないが、この馴染んだ開発部門は熊谷さんをはじめスタッフ全員もかけがえのない自分の一部だ。失いたくはない。
望みが達成されたとき皆がどう思うかは分からないが、今はこの場所は大事にしたい……
次回予告
ついに王国対戦の火蓋が切って落とされた。
ログザイ王国では2機のアーマードギアが牽制のために動く。
DX王国から送り込まれた大型兵装と相対するファントムは、性能の差を大いに示すのだった……
次回 2-12 王国対戦 開戦




