平和な世の中に
訓練の日々……時に休日を挟みつつ、俺たちは着実に力をつけていく。
ゲルドは【鑑定眼】を使いながらの一人、または複数での戦い方を研究。ドーマスさんは【獣化】による身体能力強化の限界を伸ばすことを主に。
シャリーディアは精霊術を使った援護の戦略を広げ、ミランシェは【百発百中】をさらに活かすため矢以外の射的も試していく。
リリーは、体術を学んでいる。飲み込みが早く、魔物に対抗する攻撃力はなくても、みんなの補佐くらいならできるのではと思うほどに。
そして、俺は……
「よっ、はっ」
手に握った真剣を、一心に振るっていた。まあ、素振りだ。
俺がこの国に来てから、もう一年以上か……鍛える環境が変わったからか、村にいた頃よりもだいぶ鍛えられた気がする。
「ロアさん、お疲れ様です」
「! シャリーディア」
鈴の音のような声が、俺の耳に届く。その正体は、考えるまでもない……シャリーディアだ。
「ここにいたんですね」
「一人になるには、ここが一番集中できるからね」
俺はたまに、一人でこうして剣を振っている。別に、隠れているつもりはないが……ゲルドに見つかると、しょっちゅう真剣での勝負を挑まれるからな。
ゲルドと、真剣で向き合うのはちょっと……怖い。
「ロアさんは、ずっと剣を握っていますね。それを、武器にするんですか?」
「あぁ、こいつがしっくりくるんだ」
【勇者】によって、俺の身体能力は大幅に上昇している。そこだけ見れば、【獣化】と同じだ。だが、【勇者】は他にもできることがある。
そのうちの一つが、触った武器の扱い方がすぐにわかる、というものだ。触ったことのないものでも、まるで慣れ親しんだ相棒のように、使いこなすことができる。
そんな俺が選んだ武器は、剣だ。
「しっくり、ですか」
「……あぁ」
しっくりくる、というのも、それは俺が前世で使っていたのが剣だから、という理由が大きい。
【勇者】の効果に加え、前世でも使い慣れていた剣……これなら、俺は前世よりも動けるような気がする。
「とはいっても、いつなにが起こるかわからないから。剣以外にも武器を借りたり、体術も鍛えてるよ」
あまり考えたくはないが、剣がずっと手元にあるとは限らない。それこそ紛失してしまうこともあるし、手元にないときに敵に襲われてしまう可能性もある。
そうなってしまった時……剣以外はからっきしだと、情けない結果になってしまいかねないからな。
「ふふ、頼もしいですね」
「シャリーディアだって。きっと、助けられることは多いと思う」
回復要員であるシャリーディアは、リリーと同じで基本的に戦闘には参加しない。参加はしないが、それだけに重要な役回りを担っている。
【癒やしの力】……それは、危険な旅には必須の『スキル』。それに、彼女の精霊術は、俺たちのピンチを何度も救ってくれることになる。
もちろん、それは前世の記憶なので、シャリーディアには言えないが。
「私の力が助けに、ですか。本当は、そんなことにならないほうが、いいんですけどね」
そう、困ったようにシャリーディアは笑う。
シャリーディアのような、回復要員が活躍する場面……それはつまり、怪我人が多いということだ。
怪我人を治せてこその神官であるが、だからといって怪我人が増えていいなんて話ではない。むしろ、その力が使われないほど、平和な世の中になることを、彼女たちは願っている。
「魔王を倒せば、平和になるのかな」
この世界は基本、モンスターが暴れ人々に被害が及ぶことが多い。それに対し、冒険者や国の依頼を受けた人が、問題を解決する……そうして、世界の平和はなんとか保たれている。
そこに、魔族という異物が出現した。モンスターとは比にならない、人々に被害を与える存在。
モンスターならば、経験を積んだ人間ならば対処できる。俺の故郷、村の大人たちですら、そうだった。
だが、魔物はそうはいかない。ゲルドの戦いを見て、一般人にどうこうできる相手ではないのは、わかっている。
「……どう、ですかね」
魔族を倒し、人々の平和を守る……それが、俺たちの使命だ。だが、魔族を倒した後の世界が、ちゃんと平和になるのか……俺には、わからない。
その後の世界を、確かめるためにも……今度こそ死ぬわけには、いかない。
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