それぞれの『スキル』、旅に向けて
「……はっ!」
「それ!」
思いついたが即日、訓練場ではシャリーディアと、弓を構えたミランシェが共に並んでいた。そして、シャリーディアはなにやら集中力を高め……
直後、ミランシェの構える矢の先端に、赤く炎が燃え上がる。それを確認し、ミランシェは矢を放つ……放たれた矢は、狙いも正確に、離れた場所に立っていた的に命中する。
やはり、【百発百中】の力は凄まじい。矢が命中したのは、的の中心……小さく書かれた点に、確かに矢の先端は当たっていた。
「うむ、正確無比な射的。それに……」
「精霊術のおかげで、威力もかなり上がってんなぁ」
「あれなら、魔物にも通用しそうだな」
ミランシェの射的技術は、俺たちには絶対に必要なものだ。遠距離にいる対象に対処できる術があるのは、かなりのアドバンテージだ。
それに加え、ミランシェの矢はシャリーディアの精霊術により、威力が強化される。現に、炎を纏った矢が命中した的は、少し焦げている。
あれを、火の精霊だけでなく他の精霊のものと組み合わせを変えるだけでも、戦略の幅は大きく広がる。
「お姉ちゃんたちすごいなぁ。私は、なにもできないや」
そう言って、リリーはうつむく。リリーはリリーなりに、役に立とうと思っているのだ。
ただ、『スキル』の発現していない今では、あまり派手な訓練はできない。そもそもが防御系の『スキル』な上、魔物と戦うなんてもってのほかだ。
もっとも……
「大丈夫、リリーにはリリーにしかできないことがあるから」
「……うん」
リリーの頭を、軽く撫でる。リリーが自分を卑下する必要はない。
リリーには、リリーにしかできないことがある……それは彼女を元気づけるだけの方便ではない。それは、事実だ。そりゃ、『スキル』がなければ今できることは、体を鍛えるくらいしかできないかもしれない。
それでも、自分にできることはあるのだと……落ち込まずに、強くあってほしい。
「さて、そろそろ私も、体を動かすとするか」
シャリーディアとミランシェに触発されたのか、ドーマスさんが足を進める。少し離れた所にある、大きな木に向かって。
最中、ドーマスさんは上着を脱ぐ。筋肉質な体が、露になる……直後、ドーマスさんの体に変化が訪れる。
「う、うぅう……うぅうう……!」
低く唸るような声を漏らし、気が高まっていくような感覚。そして……変化は、目に見える形で表れる。
太い腕が、更に太くなっていく。それに伴い、体全体も、一回りは大きくなっていく。それだけではない……
体毛が、体を包み込んでいく。その姿は、まさに獣……獣じみた外見へと、ドーマスさんは変化していく。
「ぐ、うぅ……ふぅ」
「相変わらず、迫力あるな……」
これが、ドーマスさんの【獣化】の『スキル』。変化したのは見た目だけではない、身体能力も、大幅に強化されている。
その、威力は……
「ぬ、おぉおおおお!」
ドンッ……と、ドーマスさんは握りしめた拳を、大木へと打ち付ける。大木は、折れはしないものの大きく揺れ、葉を散らしていく。
拳を退かすと、そこにはくっきりと、握りこぶしの跡がついていた。正直、あれに殴られたらと思うと、震えが止まらない。
「あれには、俺の【鑑定眼】も必要ねぇんじゃねぇか?」
「あっははは……」
さすがにゲルドも、少し引いている。元々兵士だと言われてもおかしくないドーマスさんが、【獣化】によりその能力を大幅に上昇させたのだ。
ゲルドの言葉は、ある意味的を得ている。ドーマスさんは、前世も魔物を前に一歩も引くことはなく、バッタバッタとなぎ倒していた。
あの拳は、多分、剣の刃よりも固い。そう思うほどだ。
「ドーマスおじちゃん、すごいすごい!」
「ははは、そうかそうか」
初めて【獣化】を見たときは、リリーも泣いて怖がっていたものだが……今ではすっかりなつき、その力を前にしてもキャッキャと喜んでいる。
ちなみに今笑っているドーマスさんだが、リリーに泣かれたときは、わりと本気でショックを受けていた。
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