八話
どんどん強くなっていきます……。
というわけで、足早に地下二階を攻略し終えたスレイヴだ。
過程が吹っ飛びすぎてるって?
いやだってね、何も無かったのよ……。
慎重に、一ヶ月間もかけて迷宮内部を探ってみたんだけどさ。
悲しいかな、特に罠も無く宝箱も無しだった。
ただ、大きなフロアが見つかれば、そこには必ず豚とスライムが現れる様だ。
これが罠なのか、それとも回避できない戦闘なのかは分からない。
それでもしっかり魔力の糧にはなってくれるっぽいので結果オーライだ。
我々は今、魔力を欲している!
ただの戦闘凶とか言われたらお終いだけどな……。
あと、見つかったといえば、さらに地下に行く階段位か……。
こちらはまだ進んではいない。念には念をだしな……。
うっかり降りて、帰れませんとか、そういうトラップが無いとも言えないだろ?
実際そういう戻れない罠が存在するのか、ブックに聞いてみたが『……有るな』とかボソっという様な感じで端っこに記してるし怖すぎるわ!
俺達が進んで記憶してもらったブックの地図によると、地下二階は地下一階を十倍くらいにした規模らしい。そういう意味では結構広かった。あまりに広いと迷子になって大変かもしれんが、今のところはブックが現在地を教えてくれるからありがたいところだ。
また、食事や水の心配が俺達にはいらないので、安全と分かった部分はとにかく突き進んだ。たまに美味しい料理が恋しくなるが、これが冒険者達の記憶だと思うと少しうらやましくも感じる。
何か……美味しいものが食べたい。迷宮の中じゃ無理かもしれないけどな。
しっかし、ただ広いだけで何も無いというのは苦痛だ……。いや敵は居るけどさ……。
せめて宝箱とか何か出てきても良くないかなぁ……。
敵に関してだがブラッディ・オークを斬ったり投げたり、ブラック・スライムを潰してみたりと倒し方も色々試してはいる。今のところ俺達の脅威になりそうな相手や、新しい敵は居ないみたいだ。
それでも一階にいたロゥーパCみたいな主が何処かに居るかも知れないので、気は抜けない。ここは迷宮だしな。
ここのフロアマスターが豚なのかスライムなのかは気になるところだが、見た目で区別が付かないからなぁ……。仕方ないので敵が出てくる度にブック先生に頼りっぱなしだ。
豚がいたので、ブック先生に見てもらう。
『ただの豚。貴様より弱い』
「ほい」
問題なさそうなので斬る。
数分歩いて今度はスライムがいたので、これも見てもらう。
『ただのゼリー。貴様より弱い』
「ほいさ」
問題なさそうなのでやっつける。
ゼリーって何だよ。スライムだろ?
さらに迷宮を突き進む。また、豚だ……。
『豚、弱い』
「ほい……」
安心してやっつける。
なんか片言になってきてないか?
あ、また敵だ。スライムだな。
『ゼリー。弱い』
「うい」
あ、ボーンがやっつけてくれた。
スライムがはじけて、骨にかぶってるぞ?
頭を振ってスライムを落とすボーン。
親指を立てて俺に平気とアピールをする。
大丈夫だって言いたいのか? それならいいけどさ。
そしてまた敵だ。今度は豚二体、スライム体だな。
『弱い』
「了解」
ついに、豚とかゼリーとか言うのに飽きてきたか。
言われるままやっつける。
また敵だ……。豚だな。
『よわ』
「……」
ついに二文字かよ! 何か言ってくれよ!
こっちはいつ強敵が来るかでおっかなびっくりやっつけてるんだぞ!
『飽きた』
「飽きるなよ! 敵が弱いのは分かったけど!」
『退屈なのだ。仕方ないだろう……』
「お前は戦わないから、そうだけどさ!」
そんな感じの受け答えを何度もしながら戦っている。
今の所は問題が無さ……そうだ。
ボーンが『早ク下ニ向カオウ』とうるさいが、俺は許可しない。俺が「だめだ」と拒否すると、首を振って敵を探しに行く。足を強く踏みしめて、ドカドカと音を出すあたり結構憤慨してる? もう少し魔力を貯めてからにしような?
続くようにロゥーパ達も天狗になっているのか勝手に階段を降りて下に行こうとするが、それも勿論許可しない。階段に近づこうとする奴は、俺が捕まえて遠くに投げている。
「だめだっつってんだろうがああああ!」
勢い良く投げられたロゥーパは地面にゴロゴロ転がりながら壁にぶち当たって大人しくなる。
もしかして気絶した?
やりすぎたか?
なんて思ってると一分もしなうちに復活するから問題ないっぽいな。
しかし最初のうちは面白かったのか、AもBもCも何度も『もっかい投げて!』と言わんばかりに俺の足を触手で引っ張って鬱陶しかった。これが結構ウザイ。
もう、お前ら犬と変わりないんじゃないか?
俺の中でロゥーパ達の存在がどんどん低下していく。いや違うな。元から低下してたか……。
ぽいぽい投げてロゥーパ達の子守をしてると、唐突に本が光った。何か言いたいらしい。ページをめくって話を聞く。
『あまりロゥーパ達をなめないほうが良いぞ?』
ブック先生が文字で忠告してきた。
ウン? どういうこと?
『今のお前達の魔力を見るとだな……』
そういえば、全然数値見てなかったな。
二階に来てからの成長度合いはどうなんだ?
『見て驚け。
スレイヴ……三。
ボーン……十。
ロゥーパA……十三。
ロゥーパB……十三。
ロゥーパC……三十二』
オーマイガー。神様、迷宮様、理不尽すぎやしない?
「何だその……十三と三十二って……」
俺は今直ぐにでも白目を向いて気絶したい。
何故なら、地下二階に来てから俺は積極的に戦ってたし、ロゥーパ達はそんなに活躍してないからだ。
ああ、ボーンは分かるよ?
アイツすぐに戦闘参加するし、酷いときは先制攻撃してるし、頑張っているからな。でもロゥーパは変だろ! 理不尽だー!
「インチキだ! こんなのおかしいだろ!」
『私の計測は確かだ。まあ、魔物と人間モドキのお前とでは魔力の質……。もしくは吸収率が違うのだろう……。諦めることだな』
「いやいやいや! じゃあ仮にそうだとして、なんでボーンは八なんだよ!」
『元々不死系と植物系では差があるのだろう……。それでも貴様よりかは強いがな』
「なるほどな……って納得ができるか!
しかも俺が結構前に見た時で『二』だろ!
それで今確認して一上がって三かよ!
どんだけ上がりにくいんだよ!」
『人間モドキの限界なのだろう』
ブックさんがトドメの一撃を入れる。
今のは効いたぜ……ブックさんよ……。
俺の小さな脳みそが沸騰しそうだわ。
「ムガー!」
そしていつもどおり爆発。やり場の無い怒りの拳が壁にぶつかる。
勿論殴っても蹴っても、壁が壊れるわけでもないし、痛いのは俺の手と足だ。悲しい。
そんな光景を見てボーンとロゥーパ達がヤレヤレと首を振った。
「そういう同情とかイラナイから! むしろ悲しくなるから止めて!」
その日、俺だけがいつも以上に豚とスライムを殺したのは言うまでもない。
「殺す! 何でも良いから貴様らの魔力を寄越せええええええ!」
涙を浮かべながら凄い形相で敵を倒し続ける俺という殺戮者は、ここの敵からしてみればきっと鬼の様に怖い存在だろうな。
悔しくなんかないよ! でも俺だけ低いって切ないだろ!