九話
地下迷宮で右往左往して、そろそろ半年が経つらしい。
そうそう言い忘れていたが迷宮では日付等の確認なんてのは普通出来ない。
そりゃ、地下にいるんだから分かるのは変だろ? って、言われればそうなんだけどさ。
こういう困ったときもブック先生は頼りになる。
「今どのくらいが経過してる?」
俺がそういってブックを開くと、そこには『朝、夕、夜』のどれかに丸がされており、それに俺達が生まれて今何日目かが記されている。
『夜、我々が誕生して百五十日経過だ。それよりもスレイヴ。そろそろ地下三階へ降りても良いのではないか?』
ブック先生のありがたいお言葉が俺に突き刺さる。ぐぬぬぬ。
「じゃあ、聞くけどな? 今、俺達の魔力はどのくらいだ?」
『今現在の貴様達の魔力は以下のとおりだ。
スレイヴ……六。
ボーン……十二。
ロゥーパA……十六。
ロゥーパB……十六。
ロゥーパC……四十』
そう、他の奴らは良いとしても、俺がまだ『六』なのだ。
せめて二桁にはあがりたい……どうしたものか。
『六もあれば、地下三階でも大丈夫だろう。何を恐れている?』
「その、だろう発言が怖いんだよ! 地下二階が楽勝でも地下三階が地獄絵図かもしれないだろ?」
『迷宮がそんな下劣な事をするわけがない』
ブックが整った字で返答してくる。
「本当にか?」
『それなら、地下三階についた瞬間。落とし穴が足元に出来て、地下六百六十六階まで落下。行き着いた先で肉塊になり、地獄の猛者共のエサになる方がよっぽど理に適っている。』
「もっと危ないじゃないか! そんなの誰が進むんだよ!」
思わず身震いしてしまったわ! 何言っちゃってるのこのサイコさん。
『これが本当のダストシュートだ。恐ろしいだろう?』
「恐ろしすぎるわ!」
もう地下三階に下りるの辞めようかな……。
ブックと話が平行線をたどっていると、遠くの敵を見つけては殺しているボーンが戻ってきた。ブックを貸せとせがむので渡す。
『何ヲ躊躇ッテイル? 魔力ナゾ数値デシカ無イノダロウ?』
「……いやまぁ……そうだけどな」
『ナラバ突キ進ムマデ』
骸骨剣士の言葉が俺にのしかかる。
俺はブックを受け取って再度質問した。
「……ブックに尋ねる」
『なんだ?』
「……今の俺達はドラゴンとかとぶち当たっても死にはしないか?」
『それはそれで愚問だな』
いや、もったいぶらずに教えてくれよ。
『ドラゴン如きで我等が負けるはずもない……だろう』
最後の『だろう』発言だけはどうにか消して欲しかった。
地下一階に俺達の部屋から、俺達は覚悟を決めて二階へ行き、そのまま地下三階へと一直線に向かった。
道中、豚とスライムが出るものの、ロゥーパ達とボーンが一瞬で片付ける。どうやら二階に飽きていたのは俺だけでは無い様だ。いや、最初から三階に行きたいと意気込んでいたのはこいつらだったしな……。
俺とブックが殿を務めて、ボーン達に追従する。
『そんなに死ぬのが怖いか?』
ブックが不意にそんな言葉を記す。
「そりゃ怖いさ。怖いというよりも、折角生まれたのに、ここで終わりじゃ悲しいだろ?」
『それも迷宮で生まれた者の運命の一つだろう。迷宮では理不尽な死など吐いて捨てるほど転がっている。今この時も迷宮の何処かでは冒険者が死に、それを糧にして魔物が生まれているかもしれないしな』
「……つまり、此処にいる魔物達ってのは元々冒険者が元ってことか? ……俺達の様に」
『良いや? そういう魔物も居るだろうという事だ。魔物の発生は迷宮が意図的に産み落としているモノで、私とお前のような人間と魔物を混合させた例は稀有なケースだろう……。こんな化け物が何体も生まれては、世界のバランスが壊れてしまう……良いや違うな。もう壊れているのかもしれないな』
……なんだ? なんか聞きたくも無いような単語が増えたぞ。世界の危機? たかが迷宮で生まれた者でそこまでいくのか?
『私の知る昔話だが大昔、私のように生まれた本が一冊あった。その本は世界を滅亡し得る知識が其処に有ったが、その本を見つけた者はこれは素晴らしいと言わんばかりにその本を活用した。本からあふれ出る知識を使った者は、莫大な富と力を手に入れたが、最終的にあふれ出る膨大な力に負けて自らを滅ぼし、この世界までも滅亡させたという』
「なんじゃそりゃ……世界が無くなったら俺達が生まれないじゃないか」
『昔話だ。それが本当に起きた話とは考えにくいだろう? それにだ』
「それに?」
『私達の存在で世界が終わるのも一興だとは思わないか? それこそ我々が生きているに相応しい世界だ』
どんな考えだよ。そんな事思わないから!
「いやいやいや、俺達のせいで世界終了とか面白くもなんとも無いから、そんな魔王みたいな立ち居地絶対嫌だからな」
『もしも我々が迷宮から出ることが出来たら、魔王の存在なぞ微々たる物だぞ?』
「……は?」
また、おかしなことを言い始めたぞ。このブックさん。頭大丈夫か?
『私の知る限り、魔王の魔力なぞ十も無いからな……所詮一桁よ』
「……は?」
理解に苦しむ俺。え、魔王で十も無いの? どういうことなの?
『あくまで私の知識での魔王の強さ……ではあるがな』
「じゃあ、今はもっと強い魔王がいるかもしれないって事か?」
『そうかもしれないな……気になるようなら、迷宮から脱出出来た時にでも自ら魔王に挨拶でもしてくると良い……。対峙でもすれば分かるだろう。……魔王の強さを測るために生まれてきた私か……それも良かろう』
「いやいや、拒否するから。そんな状況絶対拒否するから」
なんだか頭が痛くなってくる。本当にコイツは俺と同じ存在に近いのだろうか……。分からん、考えても分からん。まあ、俺が話についていけない馬鹿だって事は理解しておこう。もうそれで良いや。
そんな事を考えていれば、ボーン達の足が止まった。
どうやら地下三階への階段に到着したようだ。
ボーンやロゥーパ達が俺を見る。一応行って良いか確認しているようだ。
俺は良いよと手で合図すると、ボーン達が階段をゆっくりと降りはじめた。
『まるで親と子供だな』
「どっちがだ?」
『我々が子供。ボーン達が親だろう』
ああ、さっきのは『遅いぞ! 速く来い』っていう意味だったのか。
まあ、俺は子供でも良い。安全に行ければな……。
続くように階段を降りる。
こうして俺達は地下三階へと突き進んだ。




