十二話
地下三階は中々に楽しい場所なのかもしれない。
俺は今、頭の中でそう呟きたいところだ。
特に代わり映えのしない道を進んでいると、前進していたロゥーパAが何やらカチッと、良い音を出して窪みの様なものを踏んだ。
嫌な予感はしたものの、特に前方からは何も無く、足元も落ちる気配も無い。
念のため、俺が手を上げて声をかける。
「ちょっとまて!」
声につられて、皆が俺を見る。
前進を一旦中止して周りを警戒するが特に何も起きない。
「さっきのは何の音だ?」
思わず、俺がそういった瞬間だった。
ロゥーパAの頭上へ大きく円形で銀色のソレが落下してきた。
ロゥーパAはそれを避ける事も出来ずに頭に直撃。
ゴーンと良い音を立てながら、ソレが頭から離れて地面にぶつかって転がった。
ロゥーパAには特にダメージはなさそうだったが『何だ! 何だ!』と右往左往しはじめた。周りの仲間たちも大丈夫かと近寄って頭を確認している。
俺は落ちてきたソレを冷たい視線で見つつ、拾ってみた。
「……なんで……これが落ちてきたんだ?」
『……どうみても鉄製の桶だな』
そう、落ちてきたのは変哲もない普通の平たい桶……いや鉄製の桶だ。
何故桶が落ちてくる? てか、鉄の桶トラップ……で良いのか?
「なんで、鉄製なんだ?」
桶といったら木製だろ……。
『そりゃ、罠だからな……』
いや、理解できん。
「結構軽いが……。 この桶でどう……ダメージに繋がるんだ?」
謎だ……。鉄製で……薄い桶だな。
『鉄桶を馬鹿にするのか? 鉄桶だって当たれば痛いぞ?』
「いや、そうかもしれないけどさ……」
『当たり所が悪ければ死ぬ事だってあるだろう?』
「そりゃあ…………重ければ? そう……かもしれないが」
これは軽いけどな……。こんなのが当たっても心地良い反響音くらいしか鳴らない気がするぞ……実際良い音してたわけだが。
『私が知る限り一番怖いのは桶・グラヴィティだな』
なんじゃそりゃ……。
「いや……。えっと……。それは桶がどうなるんだ?」
『見た目は普通の桶が、何処からともなく落ちてくる』
「ほうほう?」
『しかし、その桶の重さは百トンを優に越す。ぶつかれば一瞬で潰れる』
「百トン! なんじゃそりゃ! 悪ふざけも大概にしろよ!」
『悪ふざけではない。迷宮とはそういう理不尽の塊の様な場所なのだ』
「いや、そうかもしれないけど……いやいや! 桶で圧死とか勘弁だろ!」
話していると、先ほどの鉄桶は煙の如く消えていった。一応トラップの一種であっているらしい。
しかし、桶が転がった場所を見ると若干地面が凹んでいる様にも見える。
もしかして……ぶつかる衝撃は結構重たいのか? 触ると軽くなるとか……。
『そういう魔法の桶もあるかもしれんな』
ブックが俺の心を読む。
「いやいや、そんな桶要らないから。邪魔なだけだから」
しかしロゥーパ達は魔力がそこそこある為に、あの程度で済んだのかもしれないな。俺も自分の頭の上を注意しておこう。
「良いか? 見てのとおりだ。罠が一つとも限らない。慎重に進むぞ」
俺がボーン達に指示を出す。みんなが一斉に頷き、慎重に歩き……。そして、カチリと一斉に何かを踏んだ。
何・故・踏・ん・だ・し・!
「おい……人の話を聞いて――」と、言った瞬間だった。
俺の頭の上に突然暗闇が現れて、銀色の素敵な桶が落下。
上を向いた一瞬で銀色の桶が落ちてきたのを確認して、必死で後方に飛ぶ。
目の前でゴーンと、地面に良い音を立てて鉄の桶が直撃するのを確認したところで、俺はホッとした。
が、それも無意味に終わる。続くように俺の頭上に木製の桶が現れ、自由落下。 それは俺に直撃し、脳が揺さぶられる。
心地良い音と首が折れそうになる位の重さと痛みが衝撃になって俺を襲った。
「痛っ!」
落ちてきた桶を振り払うと、これでもかとさらに桶が降って来た。これも直撃。
あまりの痛みに俺はふらつく。
「痛ったいっ!!」
俺はその場で蹲って頭をさする。
まるで、連続で投げられた小石が運悪く頭にぶつかったかの様な痛みだった。
これ、絶対桶の重さじゃねえよ!
目が回って、星が見えそうになるがどうにか意識を保ち、立ち上がる。
こんなところで倒れて、さらに桶が降ってきても洒落にならないからな。がんばるしかない。でも痛い! ちくしょうめ!
転がった桶がまるであざ笑うかのようにグワングワンと音を出すと、転がってまた消えていく。
ボーン達は俺を見て、申し訳なさそうに佇んだ。
「…………良いか! 絶対に変な窪みを踏むなよ、絶対だぞ!」
涙目になりつつも、俺が全員に注意を促す。
『それはドウゾ踏んでください。と、いう意味か?』
「違うっ! そういうのじゃないからっ!」
ブックの痛烈な言葉に俺は断固として反対した。
足元に気をつけて前を進む。現在の探索ルートは特に分かれ道も無くグルグルと周っているようだ。
「まるで迷路だな」
『戻るのが大変だな……。足元に気をつけろ。と、いう意味でだが』
「そりゃあな……。あんなふざけた罠に誰が掛かるかってんだよ」
『掛かった貴様達がそれを言えると?』
「もう引っかからないように気をつけるって言いたいだけだ!」
声を荒げながら足元にある窪みを上手く避けながら進む。
さっきはどうにか耐えられたが、今度落ちてくるのが耐えられるとは限らないからな。絶対に気をつけるぞ。
「しかし、なんで俺だけ奴らの分も桶トラップを喰らわなきゃならないんだ」
『現状、貴様が一番弱そうだったからじゃないか?』
「桶に意思があるのかよ!」
いやまてよ、考えても見れば、それは何となく分かる気はするな。
最初は弱そうなロゥーパに落ちてきたし。あいつは俺より強い為か無傷だったところも考えて、俺に標的が移るのも頷けるかもしれない……。
全力で頷きたくないが。
『あるかもしれないだろう? 私だって意思のある本だぞ?』
「そういえば、そうだったな……」
『頭は大丈夫か? こんなところで呆けられても困る』
「そこまで酷いダメージは受けてない!」
『たんこぶは出来ているのにか? 軟弱物の癖に強がりだな』
「そういう情報は開示しなくて良いから! 逆に痛くなるだろ!」
『痛みがあることは、生きている証拠だ。実に微笑ましい事だ』
だめだ、話にならない。俺はそれ以上突っ込むのをやめた。
一本道を突き進むと、今まで見たことも無い扉が出てきた。
まるで、何かを封印していそうな、古めかしい扉だ。
埃塗れで、何千年も触っていないかの様な面持ちをしている。
「何だこれ……」
『これまた珍しいモノが見つかったものだ……。貴様達は本当についているのかもしれないな』
何やらブック先生はこれを知っているようだ。
ページをめくって、続きを聞く。
『地獄の間』
なんだかトンでもないお言葉を頂きました。
「……地獄の間?」
『良かったなスレイヴ。この先には魔王と同等の魔物が存在している。腕試しには持って来いではないか?』
それを聞いて、ボーンとロゥーパ達が嬉しそうに武器を抜く。
おいおいおい、もしかして戦う気か? 馬鹿な真似は止せよ?
「まてまてまて。行かないからな? そんな危ない場所。絶対に開けないからな?」
しかし、そんな俺を余所にボーンとロゥーパ達が扉をあけて突っ込む。
「だからー! 勝手に開けるなっていってるのにさー!」
本当に俺の話を聞いてくれないパーティであった。
門の中は暗闇で被われていて何も見えない。
『貴様は行かないのか?』
ブックが挑発する。
こいつ、俺達が死んだらどうなるのか分かって言ってるんだよな?
「正直行きたくないわ! 行きたくないけどな! あいつ等だけ行かせるのは癪に障るわ!」
どうにでもなーれとはまさにこの事だよな。
俺は自滅への一歩を踏み出して、門の中へと消えていった。
マイリストありがとうございます! ということで、嬉しさのあまりの1話分でした。 そろそろストックが切れますので、また溜まってからちまちま不定期に更新予定です。ここまで読んでいただきありがとうございました。




