十三話
門を越えて暗闇を過ぎると、まさに最終局面待った無しの風景が現れた。
暗く、広く、そして、大きい。まるで城の中だ。いや、城の中なのだろう。ここが魔王城とか言われても納得できるかもしれない。
でかい支柱が何本も整然と立ち並び、真ん中の馬鹿でかい玉座には見たこともない位の大きな黒竜が鎮座している。
門を越えてきた俺達を見て、竜眼がこちらを見据える。
相手にしてみれば、どうみてもただの雑魚だが。俺の方はもう意識をすっ飛ばして視線すらあわせたくない。
思わずキョロキョロと見回して城の作りを眺めてしまう。
床も柱も壁も、覗いて見ると薄っすらと自分達が見える。
しっかり磨いてる証拠だな。実に素晴らしい。
「うん、素晴らしいところだ。じゃあ、俺は帰る……」
俺が門の中へ戻ろうとすると、ロゥーパAが触手で俺の右足を捕まえた。
スレイヴは逃げ出した! しかし触手によって阻まれた!
スレイヴは転んだ! そして悔しそうにロゥーパAを睨んだ!
ホントそんなかんじだ。逃げたい。今すぐにでも!
『ここで逃げてどうする? 戦え。私の事なら、その辺に転がして置いても一向に構わんぞ』
「いや、無理だから! あんな巨大な奴と戦えっていう方が無理だから!」
ブックに突っ込みを入れて立ち上がる。
ボーンに目をやると今にでも走り出しそうな構えをしていた。
ロゥーパ達にいたってはいつもどおりだ。あっちこっちウロウロしている。こいつらに恐怖心というものは無いのか……。
<<我が居城に訪れたる無礼な者共よ何者ぞ? 我は魔竜、ティアーマト>>
思わず俺は耳を塞いだ。
突然の大音量の声に俺の耳が潰れそうだ。
つか、喋ったよ! この竜! 喋る竜なんてヤバイんじゃないのか?
<<答えよ……我は魔竜……>>
「えーっとですね……」
答えろって言われてもどうしようもないんだけどな。
俺が躊躇っていると、ボーンが剣先を魔竜に向ける。
<<答えは要らぬと申すか……ならば、試してみるが良い。己の力量とやらを……>>
ボーンの構えを合図に竜の咆哮が響き渡った。
「ああもう! 話し合いくらいさせてくれよ!」
とりあえず俺も左手にブック、右手で長剣を構える。
『……何をしている? 相手は魔竜だぞ? 炎を吐かれたら私が燃えるではないか』
「燃えないようにどうにかしろ! 俺も燃えたくないんだよ!」
ブックに無理難題を伝えて続くように指示を出す。
「ロゥーパ達はCを壁にしてAとBでどうにか考えて戦え!
ボーンは……適当に突っ込め! ブレスに注意だぞ!」
ブレス来たら、直撃で絶対消炭だよな……。
どうしようもないとおもうけど……。
こうして、俺達の戦闘が始まった。
ちょこまかと皆が移動を開始する。
ティアーマトが巨大な体を起して小さな侵入者……つまり散開した俺達を見据える。
どうやら人数をしっかり確認しているようだ。
抜け目なさそうだなぁ。
目標を確認すると、背中の翼を広げて何やら光り始めた。
一対、二対、三対……四対!? 五対っておいおい……。
良く見れば、六対も翼がありやがる! ツヨソウダナー。
竜の凛々しい姿に意識を持っていかれて、一瞬考えがとまってしまった。
とりあえず何が来るのかわからんけど、絶対やばい行動だよな?
ブックさん説明お願いします! と、俺は本を開いた。
『ティアーマトはあふれ出る魔力を背中に一旦溜め、それをブレスとして放出する。奴の炎を浴びたものは一瞬で消えうせるだろう。こういう事を知りたいのか?』
「うぉい! 一瞬で即死とか初見で倒せるのかよ!」
そもそもティアーマトの硬そうな鱗にダメージが通るのか怪しいけどな!
暗黒剣士と見間違えても差し支えないボーンが、愚風となって突き進む。漆黒の大理石の上を走りぬけ、支柱の柱を蹴ってさらに跳躍。
一気に竜との間合いが縮まっていく。
そのままの勢いで、下げたままの長剣が竜の右肩に狙いを済ます。
ティアーマトは微動だにせず、そのままハエを落とすような形でボーンを握りつぶそうと迫る。
竜の強靭な右手がボーンを捕まえようとした瞬間――。
長剣が舞った。
まるで、紙を切り崩すかの様に竜の右手がバラバラに吹き飛んだ。
なんじゃそりゃ……本当に斬っちゃったよ!
<<なんだと!>>
これにはティアーマトも俺も驚愕した。
さらに勢いを落とさずにボーンが空中で一回転。
竜の瞳には回転しながら近づくボーン……その凶剣士に見えないはずの眼が見えたかもしれない。そこにはボーンの決意と闘志があった。
ティアーマトが警戒して一旦離れようとするが、大きな体ではそれも叶わず、ボーンの刃が魔竜の右腕を切り裂いた。
まるで御伽噺の様な世界だ。思わずポカーンと口をあけてしまう俺がいた。
右手を諦めたティアーマトが堪らずに巨大な六対の翼をつかって俺達を吹き飛ばす。強風が吹き荒れ俺とボーンが後方の壁にぶつかった。
背中と壁が衝突して全身に痛みが走る。そのまま地面に崩れ落ちる俺。
無駄に痛ぇ!
「そりゃあ、翼もってりゃ突風くらい簡単だよな!」
しぶしぶ剣を支えにして立ち上がる。
そういえば、ロゥーパ達はどうなった?
俺があたりを見回すとロゥーパ達は皆で一心同体となって自慢の触手を柱に巻きつけて耐え忍んでいた様だ。こういう時だけは頭回るのな。
そして触手をうまくつかって支柱をグルグル回りだしたかとも思えば、凄まじい速さで回転しはじめた。
だんだんと速く周る速度に周囲がおいていかれる。
風が舞い、空気が乱れ、支柱にヒビが出来始めた。
それは加速、そう……加速だ。
ロゥーパ達は回転速度を高る事によって加速して勢いを増やしていく。
<<何だ! 何が起きている!>>
ボーンに目移りしていたティアーマトが現状を理解できずに困惑。
そりゃそうなるわな……俺にもこんな事理解できんわ。
そして、ついに支柱が耐えられなくなり割れた一瞬だった。
目にも留まらない加速によって、ロゥーパAがBとCの塊を射出。そのままAが後方に吹き飛んで壁にぶつかった。
最大回転で放りだされたBとCの塊の中で、今度はBが追い討ちをかけるようにCを投げ飛ばした。A同様にBも後方の壁にぶつかった。
Cはそのままティアーマトの頭目掛けて、光速で突き迫る。
<<この程度の……!>>
そこでティアーマトは言葉をなくした。
なぜなら、ロゥーパCの塊がティアーマトの頭にぶつかり吹き飛ばしてしまったのだ。まさに木端微塵だ……。
大量の血液を噴出して頭部が四散。
……いやいや。そんなのありか? おかしくね?
だって竜だろ? めっさ強いんだろ?
ロゥーパ達が硬いからってそりゃないだろ!
ブレスとか、尻尾攻撃とか、魔法とか、もっと他に色々ヤバイ攻撃が来るはずだったよな? それを一瞬って……。
本当の意味で規格外である。
戦線に戻ってきたボーンもやるせない気持ちがあったのか剣を放り投げて、胡坐をかいて座り込んだ。
ああ、それは分かるかもしれない。それって意気消沈ってやつだろ?
ボーンにしてみれば、これからだって感じだったもんな……。
頭を失った巨体がフラフラと沈み轟音が鳴り響く。
それと同時にティアーマトが翼に溜め込んでいた凄まじい魔力が綺麗にはじけた。
魔力がキラキラと四散して消えていく。
それもとんでもない量だ。
魔力が四散してるのにも関わらず終わりが見えない。
それほどの魔力が使われたという事になるのだろうが……。
これを見る限りとんでもない奴だったのだろうな……。
『これで魔力が沢山増えると良いな?』
どうやらブック様は大喜びの様だ。俺は何もしてないけどな。
『次の戦いも期待しているぞ』
二度とお断りします。と、俺が心の中でつぶやく。
後方の壁にめり込んだロゥーパCがにょきっと顔をだすと、一生懸命触手をつかって壁からスッポリと出て来た。
触手でグイっと手を高らかにあげて勝利のポーズらしい。
続くようにロゥーパAとBが近づいてきて一緒になって同じ行動をしだした。
そうだな……。お前達の勝利だよな……。
ボーンがいつの間にか立ち上がり俺の肩を叩く。
手を上にあげろとジェスチャーで訴える。
え、何? 俺たちもやるの?
仕方なく、俺ものっかる様に高らかに拳を握ってあげた。
これが本当の皆の勝利だワーイ!
と、でもロゥーパ達は言いたいのかね……。
なんなんだかなー……。
なんとも微妙な勝利だった。




