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先輩しか見えない  作者: ももたろう


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第三十三話 卒業






卒業式





卒業式の朝は、やけに静かだった。


寮の廊下も、いつもより足音が響く。




「先輩たち、卒業かぁ……」


美咲が制服のリボンを整えながら呟く。




「ですね…。」



寂しそうな小春に、やるせない気持ちの美咲。



美咲は少しだけ言葉を選ぶ。



「今生の別れじゃないから…」






ぱんっ!と自分の頬を軽く叩き、


気持ちを切り替える小春。




「はい。先輩のために、しっかり見送ります。」









卒業式会場


体育館。


椅子が並び、卒業生の保護者も来校している。




小春は在校生として列に座っていた。


手は落ち着かない。





「小春ちゃん!」


誰かに呼ばれる小春。



声がする方を見ると、


保護者席から黒瀬の両親が手を振る。





「黒瀬先輩のお父さん!お母さん!」




黒瀬の両親に気づいた小春は、


保護者席へ小走りで向かう。





「お久しぶりです。黒瀬先輩、ご卒業おめでとうございます!」



黒瀬の両親へ、深々と挨拶をする小春。



「ありがとう。小春ちゃんにも会えて嬉しいわぁ。」



「律は卒業するけど、いつでも遊びに来てね。」



黒瀬の両親の優しさに、泣きそうになる小春。







開始時間が迫ってきた。


小春は軽く挨拶をして自分の席へ。












卒業生入場。




黒瀬が入ってくる。






小春の視線


小春はその姿をずっと見ている。


最後の制服姿を、目に焼き付けるように。




“卒業する人”というより、


“少し遠くなる人”に見えた。







式の進行


校長の言葉。


在校生代表の言葉。


卒業証書授与。




黒瀬の名前が呼ばれる。




「はい」


短い返事。




静かに歩く。






少しだけ違う空気


証書を受け取る黒瀬。


一瞬だけ止まる。




そして小さく頭を下げる。




その動作が、やけに重く見えた。










式終了


拍手。


歓声。


写真撮影。




黒瀬の周りは後輩でいっぱいになる。


「先輩!また遊び来てくださいねー!」


「練習にも顔出しにきてください!」




黒瀬は小さく微笑む。


「うん。頑張れよ。」









少し離れて、その様子を見守る小春。


「………。」



心配そうに小春に寄り添う麻衣。


「黒瀬先輩のとこ、行かなくていいの?」



「うん…。みんな先輩と話したいだろうし。」



「そっか…。」



麻衣はそれ以上何も言わず、


小春と一緒に、


ただ、ただ、そっと見つめていた。






卒業生と写真を撮る人たちで、


賑わってる廊下。








周囲を見渡す黒瀬。




小春の姿を見つけると、


人だかりをかき分けて、小春のもとへ。







お互い、何も言わず。


静かに、当然のように、抱きしめ合う。



「先輩。



……卒業おめでとうございます。」





「ありがとう。」


落ち着いた声の黒瀬。






「私のこと、忘れたのかと思った。」


少し頬を膨らませ、拗ねたように言う小春。





黒瀬は小さく息を吐く。


「んなわけない。」




「ふふふ。」


小春の目には、うっすら涙。




黒瀬は抱きしめていた腕をゆっくり離す。


「泣くな。」


「泣いてません。」


「泣きそうや。」


「……泣きそうです。」



二人で顔を見合わせて、小さく笑った。




その様子を少し離れた場所から見ていた奈央は、隣にいた美咲へ小声で話しかける。


「見た?」


「見た。」


「抱きしめてたね。」


「うん。みんなが見てる廊下で。」


「うん。」


奈央は真剣な顔で腕を組む。


「二人には、周りが見えてないんかね。」


美咲

「私が知りたい。」



二人は同時にため息をついた。







黒瀬は小春の方を見てから、


「写真。」


「え?」


「撮るか。」


「私とですか?」


「ん。」





近くにいた一年生へスマホを渡す。


「撮ってくれん?」


「いいですよ!」




小春は緊張で体が固まる。


「ど、どうしましょう……」


「普通でいい。」


「普通って難しいです……」


困っていると、


黒瀬は小春の肩を軽く引き寄せた。


「ん。」


「……!」


距離が近い。


心臓の音が聞こえそうだった。


「撮りますよー!」


パシャッ。


卒業式の日。


制服姿の二人が並んだ写真が、一枚残った。




「見せてください!」


カメラを受け取った小春は画面を見る。


そこには少し照れた自分と、


いつもより少しだけ優しい表情の黒瀬。


「先輩、笑ってます。」


「そうか。」


「笑ってます。」


「そうか。」


「記念です。」


小春は宝物を見るようにスマホを抱きしめた。






帰る時間が近づく。


卒業生たちは荷物をまとめ始めていた。


校門の前には保護者の車。


友達との最後の会話。


あちこちで「またね」が飛び交う。


小春は少しだけうつむいた。



「明日から、学校に先輩がいないんですね。」




その言葉に、黒瀬は静かに笑って答えた。


「学校にはおらん。」









校門の外。




黒瀬は歩き出す。


数歩進んだところで振り返った。


小春はまだその場に立っている。


目が合う。


黒瀬は何も言わず、右手を小さく上げた。


小春も満面の笑顔で、大きく手を振り返す。



「先輩ー!」




「ん?」





「卒業しても!」



「ずっと、大好きです!」




周りの卒業生たちが一斉に振り返る。



小春は言ってから顔を真っ赤にした。


「わぁぁぁぁ!」





恥ずかしくてその場にしゃがみ込む。


そんな小春を見て、




黒瀬は今日一番大きく笑った。




春風が制服の裾を揺らす。


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