第三十一話 ホワイトデー
3月14日
ホワイトデー。
校内では朝からお菓子を配る姿があちこちで見られた。
黒瀬もサッカー部の後輩やクラスメイトに
義理チョコのお返しを渡していた。
「黒瀬、ありがとー!」
「先輩、センスいいですね!」
淡々と紙袋を渡す黒瀬。
その様子を廊下の端から見ていた小春は、小さく笑った。
「先輩らしいなぁ」
でも、その笑顔は少しずつ曇っていく。
(みんな同じ袋……)
(私も同じなのかな)
自分だけが特別なんて、そんなことは期待してはいけない。
そう思いながら教室へ戻った。
放課後。
寮へ向かう道。
後ろから低い声がした。
「小春」
振り返る。
黒瀬だった。
紙袋を一つ持っている。
「これ」
差し出された袋。
やっぱり、昼間みんなに配っていたものと同じように見えた。
「ありがとうございます」
嬉しい。
嬉しいけれど。
心のどこかが少しだけ寂しかった。
「開けんでいいん?」
黒瀬が聞く。
「部屋に帰ってからにします」
「今」
「え?」
「今、開けて」
珍しく強めの口調だった。
小春は首をかしげながら袋を開ける。
「……?」
小さな箱が入っていた。
震える手で箱を開ける。
中には、小さな桜の花びらを模したガラス細工のネックレス。
一瞬、風の音だけになる。
小春は固まった。
「これは、小春にだけ。本命。」
光に当たってきらきらと輝く。
「きれい……」
思わず見とれる。
「見つけた時、小春やと思った。」
その何気ない一言で、小春の目に涙が浮かんだ。
「私……?」
「春みたいによう笑う」
「先輩……」
言葉が出ない。
ただうれしくて、胸がいっぱいになる。
涙を拭きながら笑う小春。
その笑顔を見て、黒瀬も静かに口元を緩めた。
夜。
小春の部屋。
小春はネックレスを眺めていた。
「黒瀬先輩から?」
ネックレスに気づいた美咲。
「はい!」
満面な笑みの小春。
「可愛いじゃん!良かったね。」
「はい!」
コンコン。
ドアが開いた。
そこには紙袋を持った黒瀬。
「先輩?」
黒瀬は無言で紙袋を差し出す。
「……?」
受け取る。
思ったより重い。
中を見る。
焼き菓子。
クッキー。
マカロン。
チョコレート。
キャンディ。
かわいいうさぎのぬいぐるみ。
そして小さなメッセージカード。
『ありがとう』
「えっ!?」
小春は袋と黒瀬を何度も見比べた。
「ホワイトデー。」
「ネックレス貰いましたよ!?」
「これも。」
「多くないですか?」
「お菓子。どれがいいか分からんかった。」
美咲も紙袋をのぞき込み、目を丸くした。
「え、デパートごと買ってきた?」
小春は紙袋を胸に抱きしめ、
「先輩」
「ん」
「来年も、チョコ作ります!」
黒瀬は小さく笑って答えた。
「楽しみにしとく。」
小春はまた少しだけ泣きそうになりながら、
「はい」
と、小さく笑ってうなずいた。




