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先輩しか見えない  作者: ももたろう


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第二十九話 バレンタインデー




2月14日


朝から小春は落ち着かなかった。


机の上には、昨夜遅くまでかけて作った生チョコ。


何度も形を直して、


何度もラッピングをやり直して、


ようやく完成した。


「……よし」







放課後。



校内はバレンタイン一色。


友達同士で交換する女子。


義理チョコを配る子。


教室中が甘い香りに包まれている。


小春は包装袋を胸に抱えたまま、校舎裏をうろうろしていた。


「先輩……どこだろう」


すると。


グラウンドの方から黒瀬が歩いてくる。


ジャージ姿。


練習帰りらしく、髪が少し乱れている。




「先輩!」


黒瀬が振り向く。


「ん?」


「これ……」


袋を差し出す。


「バレンタインです」


黒瀬は袋と小春を交互に見た。


「くれるん?」


「はい」


「ありがとう」


黒瀬はチョコを受け取ると、


ポンと小春の頭を撫でた。









黒瀬の部屋。



学校から帰ってきた黒瀬。


包装を開ける。


きれいに並んだ生チョコ。


一つ口に入れる。


「……」


黙ったまま二つ目。


三つ目。


「うまい」








小春の部屋。



小春の机の上で


スマホが震えた。


黒瀬からだった。




『全部食べた』




小春は目を丸くする。


続けてもう一件。



『また作って』



たった六文字。


それだけなのに。


小春は嬉しくてたまらなかった。




「美咲先輩……」


「ん?」


「また作ります」


「でしょうね」


「一生作ります」


「重い重い」







夕食後。


小春の部屋。


そこには看護科1年生が集まって、


友チョコ交換会が行われていた。



机いっぱいに友チョコが並んでいた。


「これ手作り!」


「かわいい!」


「交換しよー!」


きゃっきゃっと楽しそうな笑い声。


小春は麻衣たちと輪になって、次々とチョコを頬張っていた。


「おいしい……!」


「小春、食べすぎじゃない?」


「今日は別腹です!」


そんなやり取りに、同室の美咲がくすっと笑う。




そうしていると、


麻衣が小春の異変に気づく。


「小春、なんか変じゃない?」


みんなが小春を覗き込む。


ニコニコと、いつもより緩んだ表情。


「ふふふふふ。」


ふわふわと楽しそうに笑っている小春。





手には握りしめてられた包み紙。


「あ!これお酒が入ってるチョコ!」


麻衣が気づく。



「え、まさか酔っ払った!?」



みんなが驚いていると。



思い立ったかのように、すっと立ち上がる小春。


「黒瀬先輩。」



そう一言、呟いたと思ったら


小春は自分の部屋を出て行った。




残された麻衣たちと、美咲。




突然の事で


みんなで見合わせるだけだった。










三階。


黒瀬の部屋。



コンコン。


ドアが勢いよく開く。


少し驚く、黒瀬と奈央。



「失礼しまーす!」


そこには満面の笑みで、元気に挨拶をする小春。



「ダンベルにつまづきに来ましたー!」




「は?」


いきなりの事で、ぽかんとする黒瀬。




「えっ!?」


(えっ!?)


(ダンベルにつまづきに来たって…)


(……まさか!?)


驚いてる奈央をそっちのけに、



小春は黒瀬に向かっていく。




ストレッチをしていた黒瀬のもとへ行くと、


黒瀬の頬に手を当て、キスをする小春。



目を見開く、黒瀬。


その光景を見て、固まる奈央。




小春は何度も唇を重ね、



「黒瀬先輩、だいすき。」



そう言って、黒瀬を強く抱きしめながら、静かに眠りについた。




小春が握りしめているチョコの包みを見て、


「あー。なるほど。」



察した、黒瀬は


耳を赤くしながらも


小春をベッドに運んで寝かせた。





奈央は


(…よし。…見なかったことにしよう。)


心に決めた。











翌朝。


小春は目を覚ました。


自分が黒瀬の部屋にいる事を不思議に思ったが


黒瀬を見て、嬉しそうに


「おはようございます、先輩!」




「ん。おはよう。」


「チョコ、食べてくれたの嬉しかったです!ホワイトデー、期待してます!」



(…小春、昨日のこと覚えてないな)



「……」


黒瀬は少し考え、


静かに答えた。


「忘れそう」


「えぇぇぇ!?」


小春が大げさに崩れ落ちる。



「ちゃんと覚えておいてください…」


「……努力する」


「努力じゃなくて覚えててください!」



黒瀬はスマホのカレンダーを開き、


3月14日に一つだけ予定を書き込む。


『小春』


その一言だけの予定に、黒瀬らしい優しさが詰まっていた。






「小春。」



「なんですか?」



「禁酒な。」



「?」


なんのことか理解できない小春だった。





※未成年の飲酒は法律によって禁止されています。


この物語はフィクションです。登場する人物や出来事は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。ご理解のうえ、お楽しみください。

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