第二十五話 寂しい部屋2日目
二年生が修学旅行にいって二日目の夜。
寮は驚くほど静かだった。
二年生がいないだけで、こんなにも空気が違うのかと小春は思う。
机の上にはレポート。
あと少し。
あと少しなのに、終わらない。
「うぅ……」
時計を見る。
午後十時。
黒瀬の部屋。
今日は小春からメッセージが全くない。
昨夜は寂しいといって、黒瀬の部屋にきた小春。
ルーティンのストレッチをしながら
不思議に思った黒瀬は
通知のないケータイを眺める。
『大丈夫?』
心配になり、一言送る。
『レポート終わらなくて……』
すぐ返信が来た。
『まだやっとる?』
『はい』
『部屋行く』
たったそれだけ返事をした黒瀬は
自室をあとにする。
小春の部屋
コンコン。
「入ってい?」
部屋にきてくれた、黒瀬を見て、
「黒瀬先輩!」
小春は嬉しそうに笑った。
「頑張れ」
「はい!」
その一言で、不思議なくらい元気が出た。
黒瀬はベッドに腰掛ける。
小春は机に向かう。
カリカリ。
カリカリ。
静かな部屋にペンの音だけが響く。
十分。
二十分。
三十分。
「終わりそうか」
「あと少しです。」
「焦るな」
「はい!」
黒瀬はそれ以上何も言わなかった。
ただ、そこにいてくれる。
その存在だけで、小春は安心していた。
「もう少しかからそうなので、先輩は先に休んでてください!」
「ん。」
小春のベッドに寝転がる黒瀬。
(………にんじん?)
抱き枕を見つけ、小春の不思議なセンスに微笑む。
四十分後。
「……できた!」
大きく伸びをする。
「終わりました!」
返事がない。
振り向く。
小春のベッドの中で
黒瀬はにんじんを抱えたまま眠っていた。
「……」
小春は固まった。
にんじんを見つめる。
黒瀬を見つめる。
またにんじんを見る。
「……」
小さく頬を膨らませた。
「そこ、私の場所なのに」
もちろん抱き枕に罪はない。
分かっている。
分かっているけれど。
なんだか悔しい。
小春はそっと近づき、
よいしょ、と腕の中からにんじんを抜き取った。
ぽすっ。
ベッドから放り出された抱き枕。
小春は静かに黒瀬腕の中へ。
眠っている顔を見る。
普段より少し幼く見えた。
「待っててくれたんですね……」
胸の奥が温かくなる。
小春はぎゅっと抱きつく。
すると、眠ったままの黒瀬の腕が自然に動いた。
ふわり。
小春を包み込む。
「……!」
小春は小さく笑って、そのまま目を閉じた。
そのまま二人は静かな寝息を立て始めた。
翌朝。
先に目が覚めた、黒瀬。
まだ小春は、腕の中で幸せそうに眠っている。
視線を移すと
床に見えるのは、
ぽつんと無様に転がる抱き枕。
黒瀬は小春へ視線をもどし
「……投げたな。」
小さくつぶやく。
黒瀬はまた抱き枕を見て
「…ごめんな。」
と声をかけた。
( ……………… 。)
もちろんにんじんは何も答えない。
夕方。
小春の部屋。
「ただいまー!」
美咲が帰ってきた。
「おかえりなさい!」
主人の帰りを待っていた犬のように、迎える小春。
「寂しくなかったかー?」
冗談半分で小春に聞くと、
「美咲先輩いなくて寂しかったけど、黒瀬先輩が一緒に寝てくれました!」
と元気に答える小春。
惚気る小春の姿をみて
改めて、帰ってきたのだと
日常を自覚した美咲だった。




