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先輩しか見えない  作者: ももたろう


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第二十四話 寂しい部屋1日目




スポーツ専攻科・看護科・普通科

全コース、二年生は修学旅行。





 

修学旅行当日の朝。


小春の部屋。




「じゃあ行ってくるね!」


大きなキャリーケースを引きながら、美咲は笑顔で手を振った。


「はい!お気をつけて!」


「ありがとう!」


「楽しんできてください!

 写真もいっぱい撮ってきてください!」


「任せといて!」


「お土産買ってくるねー!」


そう言って、美咲は寮を出ていった。



二泊三日の修学旅行。








夜。


部屋には、小春一人だけが残る。




時計は十時を回っていた。


いつもなら隣のベッドから聞こえる、美咲がページをめくる音も、寝返りを打つ音もない。


静かすぎる。


「……」


小春はベッドの上で抱き枕のにんじんをぎゅっと抱きしめた。


「寝よう……」


目を閉じる。


五分。


十分。


十五分。


眠れない。




「寂しい……」


ぽつりと漏れた本音。


普段は気にならない部屋の広さが、今日はやけに大きく感じ、心細くなる。


抱き枕をぎゅうっと抱き寄せても、落ち着かない。


天井を見つめてため息をついた。




結局。


小春はにんじんを抱いたまま、部屋を出た。




向かった先は三階。


黒瀬の部屋。




コンコン。


夜遅くのノック。


「…はい」


黒瀬がドアを開ける。


そこにはにんじんを抱えた小春が立っていた。


「…にんじん…?」


小春は少し困ったように笑う。


「……眠れなくて」



黒瀬は静かに部屋の中へ目を向けた。


「入り。」




黒瀬は事情を聞く。


「美咲先輩、いなくて」


「あー、修学旅行な。」


「部屋が静かすぎて……」


少し恥ずかしそうに目を伏せる。


「寂しくて」


黒瀬は何も言わず、小春を見つめる。



「奈央も修学旅行でおらん。」


「…あ、そうですよね。」



「泊まる?」



「…いいですか?」


「ん。」


短い返事。





黒瀬は小春をベッドに招き


電気を消す。


部屋は暗くなった。



「眠れそう?」


闇の中から黒瀬の声がする。


「はい」


そう答えた小春だったが、数分経っても目は冴えたままだった。




「……先輩」


「ん」


「起きてますか」


「起きとる」



静かな夜。


外では風が木を揺らしている。






「先輩」


「ん」


「ありがとうございます」


「何が」


「寂しくなくなりました」




黒瀬は少しだけ笑う。


「ならよかった。」




その声を聞いた瞬間だった。


小春の体から、ふっと力が抜ける。


安心した。


それだけで十分だった。






次に目を開けた時には朝日が差し込んでいた。


小春は布団の中で目をこすり、驚く。


「……寝ちゃってた」


一度も目を覚ますことなく、朝までぐっすりだった。




黒瀬はすでに起きていて、窓を開けていた。


「おはよう」


「お、おはようございます」


「眠れた?」


小春はにこっと笑う。


「はい。びっくりするくらい」




黒瀬も小さくうなずく。


「よかった。」





黒瀬の部屋に、二人の穏やかな会話が流れた。



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