第二十三話 黒瀬の遠征
サッカー部は県外遠征に出ることになった。
「三日間、いないんですね。」
小春は荷物を持ちながら言う。
「うん。」
黒瀬はいつも通り短い返事。
奈央が笑う。
「寂しいよねぇ、小春ちゃん。」
「大丈夫です!遠征頑張ってきてください!」
心配させまいと、慌てて返事をする小春。
バスの前。
サッカー部の荷物が積まれていく。
小春は見送りに来ていた。
当然のように。
「先輩。」
「ん。」
小春は少しだけ間を置く。
そして、いつもより小さく言う。
「行ってらっしゃい。」
黒瀬は一瞬だけ黙る。
そして。
「行ってくる。」
当然のように、抱きつく。
「怪我しないでくださいね。」
黒瀬がぽつりと言う。
「ありがとう。」
出発。
バスが出る。
黒瀬は窓から小春を見る。
小春はいつもの笑顔で大きく手を振る。
バスが動き出す。
その瞬間だけ、少しだけ目を細める。
他の部員も小春に手を振る。
「小春ちゃーん。」
「行ってくるねー。」
「いってきまーす。」
サッカー部が遠征に行って
ガランとした寮の夜。
小春の部屋。
美咲が言う。
「寂しい?」
「……少しだけ。」
小春は通知のないスマホを眺める。
通知。
『終わった』
『お疲れ様です!』
小春はすぐに返事を送る。
また画面が光る。
着信。
黒瀬な名前。
小春は一瞬で起き上がる。
「もしもし!」
『ん』
少しだけ疲れた声。
「お疲れさまです!」
『うん』
沈黙。
でも繋がっている。
「今日どうでしたか?」
『普通』
「怪我は?」
『ない』
また沈黙。
小春は少しだけ笑う。
「良かったです。」
長い沈黙
電話越しの静けさ。
でも切れない。
黒瀬がぽつりと言う。
『小春』
「はい。」
『今なにしとる』
「先輩と電話してます。」
一瞬の間。
『そうやね』
黒瀬が小さく笑う。
小春がぽつりと言う。
「会いたいです。」
少し間。
『同じ。』
『すぐ帰るから。』
「待ってます。」
怪我しないでくださいね。」
『ありがとう。』
『おやすみ。』
「おやすみなさい。」
電話を切って
深くひと呼吸。
美咲に言う。
「声、聞けました。」
「良かったね。」
「耳が幸せです。」
美咲が呆れて言う。
「はいはい。」
翌朝
遠征先。
黒瀬は準備をしている。
奈央が隣で言う。
「昨日電話してましたね。」
「うん。」
「何話してたんですか。」
黒瀬は少しだけ考える。
そして。
「別に。」
奈央は笑う。
「はいはい。」
サッカー部が遠征先から帰ってくる日。
バス到着。
小春は当然のように迎えにきていた。
バスから部員たちがぞろぞろと降りてくる。
その中に黒瀬の姿も。
「先輩!!」
飛びつく小春。
当然のように受け止める。
黒瀬は短く言う。
「ただいま。」
小春は即答。
「おかえりなさい!」
奈央が呟く。
「小春ちゃん、うちらには?」
「皆さんも!おかえりなさい!」
部員たちに笑いが起こる。
「花井。お前ほんとに、どこでもおるな。」
コーチも穏やかに笑いかける。
寮へ帰る途中。
集団でわいわい帰るサッカー部たちの後を
黒瀬と小春はゆっくりと足を進める。
二人の手は当然つながれている。
小春が嬉しそうにぽつりと言う。
「先輩。」
「ん。」
「おかえりなさい。」
黒瀬は少しだけ目を細める。
「ただいま。」




