第十九話 傘を忘れた二人
雨。
気づいたときには、ザーザー降り。
「やばい、傘ない……」
小春は廊下で立ち止まる。
頼れる麻衣も、同室の美咲先輩も
すでに帰った後だった。
スマホを見る。
天気予報は見ていない。
そして当然のように――
「黒瀬先輩もいない……」
黒瀬の方
サッカー部部室。
練習後。
「先輩、今日傘持ってます?」
奈央がタオルを投げながら言う。
「ない」
即答。
「え?」
「忘れた」
奈央は笑う。
「珍しいですね」
黒瀬は窓の外を見る。
雨。
「……最悪やな」
校舎の玄関
小春は濡れない場所で立ち尽くしていた。
雨音だけが強い。
「どうしよう……」
そのとき。
「小春」
後ろから声。
振り向く。
黒瀬だった。
傘なしの再会
「先輩……!」
「傘ない」
「私もです!」
即答の一致。
一瞬だけ沈黙。
奈央が後ろから呟く。
「奇跡のシンクロですね」
黒瀬は少しだけ考える。
そして。
「走れる?」
「はい!」
二人は同時に雨の中へ出る。
当然のように濡れる。
でも止まらない。
走る廊下みたいな雨
校門までの道。
雨が強くなる。
小春が少しバランスを崩す。
「っ」
黒瀬が即座に腕を引く。
「危ない。」
「っありがとうございます!」
そのまま手は離れない。
寮までの道。
びしょ濡れの二人
でもなぜか笑っている。
小春が言う。
「傘なくても……意外と楽しいですね」
黒瀬は即答。
「ないわ」
少し間。
「でも」
「でも?」
「小春となら。」
小春は一瞬止まる。
そして顔を赤くする。
「それはずるいです……!」
寮の玄関。
先に帰宅していた美咲。
「あ、小春帰ってきた。
……何あれ。」
びしょ濡れの二人。
手は繋がれたまま。
「青春の圧が強すぎる」
小春の部屋。
タオル。
ドライヤー。
「黒瀬先輩、風邪ひきますよ」
「うん」
黒瀬は素直に座っている。
小春が髪を拭く。
距離が近い。
無言の時間
ドライヤーの音だけ。
小春がぽつり。
「今日、楽しかったです」
黒瀬は少しだけ間を置く。
「変なの」
そう言いつつ、ふっと微笑む黒瀬。
小春も笑う。
「ふふふ。」
最悪の天気。
でも二人にとっては、
少しだけ特別な時間になった。
濡れることすら、
一緒なら問題ない。




