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先輩しか見えない  作者: ももたろう


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第十四話 すれ違い




サッカー部は練習試合が続き、看護学科は実習記録とレポート提出が重なっていた。


二人とも忙しかった。


食堂で会う時間も減り、寮ですれ違うことも増えた。





ある日の夕方。


小春は実習帰りでくたくたになりながら中庭を歩いていた。


遠くにサッカー部の集団が見える。


その真ん中に黒瀬がいた。


「先輩!」


小さく手を振る。


でも黒瀬はコーチと話をしていて気づかない。


そのまま歩いていってしまった。


胸が少しだけ痛くなる。


(……忙しいもんね。)


そう自分に言い聞かせる。






翌日。


食堂で会っても、小春は少し元気がない。


「レポート?」


「ううん。」


「眠い?」


「ううん。」


黒瀬は首をかしげる。


「じゃあ何。」


「別に。」


珍しく短い返事。


それ以上、小春は何も言わなかった。







三日後。


奈央が黒瀬に聞く。


「黒瀬さん、小春ちゃんと何かあったんですか?」


「何も。」


「いや、絶対ありますよ。」


「?」


「今日で三日連続、食堂で隣に座ってないですよ。」


黒瀬はそこで初めて気づく。


(……そういえば。)






その夜。


寮の中庭。


実習記録を書き終えた小春がベンチに座っている。


目の前に影が落ちた。


「小春。」


黒瀬だった。


「……お疲れさまです。」


「怒っとる?」


「怒ってないです。」


「その顔は怒っとる。」


小春は少し黙ってから、小さく笑う。


「怒ってるっていうか……。」


「うん。」


「寂しかっただけです。」


静かな夜。


虫の声だけが聞こえる。


「試合のあと、気づいてもらえなかったから。」


「……。」


「忙しいのは分かってるんです。」


「でも、ちょっとだけ期待しちゃって。」


そう言って俯く。


黒瀬は何も言わず、小春の隣へ座る。


少し考えてから、ぽつりと口を開く。


「ごめん。」


「先輩が謝ることじゃ……。」


「気づかんかった。」


「うん。」


「ごめん。」


その一言は、とても真っ直ぐだった。


小春は思わず笑ってしまう。


「先輩、不器用ですね。」


「知っとる。」


「知ってた。」


二人で顔を見合わせる。


その空気がなんだかおかしくて、同時に笑った。






帰り道。


並んで歩く二人。


しばらく無言だった。


部屋に戻る時、黒瀬がそっと小春の腰を抱き寄せ


抱き合うように歩く、自然に。


「……先輩。」


「ん。」


「もう仲直りです。」


「最初からケンカしたつもりなかった。」


「私はちょっとだけしてました。」


「そう。」


「でも今ので終わりです。」


小春はそう言って黒瀬の腕にそっと寄り添う。


サッカー部員は、その様子を見て苦笑いした。


「よかった、仲直りした。」


「ケンカしてたの?」


「黒瀬さん、食堂で元気なかったもん。」


「小春ちゃんが隣にいないだけで分かりやすいな。」


その声を聞いた黒瀬は少し照れくさそうに笑う。


そして、小春の腰に添えた手を離すことなく、そのままゆっくり歩いて戻った。



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