第十二話 小春の帰省
とある小春の帰省日。
玄関には両親が迎えに来ていた。
「お母さん!」
「小春!」
荷物を持って駆け寄ろうとした、その時。
ひょい。
重たいバッグが持ち上がる。
振り向くと黒瀬だった。
「先輩!」
「持つ。」
「でも……。」
「車まで。」
「ありがとうございます。」
黒瀬は何事もないように荷物を運ぶ。
その姿を見た小春の父が笑う。
「君が黒瀬さん?」
「はい。」
黒瀬は姿勢を正して頭を下げた。
「小春さんと仲良くさせてもらっています。」
丁寧で落ち着いた挨拶。
その礼儀正しさに、両親は顔を見合わせる。
母が笑う。
「こちらこそ、いつも娘がお世話になっています。」
父も頷く。
「家で毎日のように黒瀬さんの話を聞いてます。」
「お父さん!」
小春が真っ赤になる。
「言わんで!」
「だって本当やろ?」
「もう!」
黒瀬は照れくさそうに目を伏せた。
「……すみません。」
「謝ることじゃないよ。」
母は優しく笑う。
「小春が楽しそうなのは、黒瀬さんのおかげだから。」
荷物を積み終え、別れの時間。
「先輩。」
「ん?」
「行ってきます。」
「うん。」
「お気をつけて。」
「小春も。」
少しだけ名残惜しい空気。
その時だった。
小春が一歩近づく。
周りを見回してから、小さな声で言う。
「……ちょっとだけ。」
「?」
そのまま、ぴょん。
黒瀬へ飛びついた。
ぎゅっとしがみつく。
慣れた手つきで受け止める。
「すぐ帰ってきます。」
「待っとる。」
黒瀬は小春の頭をポンポンと撫でる。
たったそれだけの会話。
けれど、小春は満足そうに笑って地面へ降りた。
その一部始終を見ていた小春の両親。
父がぽつりと呟く。
「……仲良しやな。」
母はにこにこしながら頷いた。
「うん。」
「すごく大切にしてもらってる。」
車に乗り込んだ小春は、窓を開けて最後まで手を振り続けた。
黒瀬も静かに手を振り返す。
その姿を見送りながら、美咲が寮母へ小さく話しかける。
「寮母さん。」
「なあに?」
「いつかあの二人、本当に家族になりそうですよね。」
寮母は優しく目を細めた。
「もう半分くらい、そう見えとるよ。」




