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第3話 付き合って1か月

千早と出会って、そろそろ1か月。

俺は毎日欠かさず神社を訪れた。


朝も夜もだらだらすることもなくなった。放課後の居残りをすることもないよう、集中して勉強する癖もついた。要領はまだそこまでよくないが、メリハリのついた生活ができるようになったと思う。

親からはそろそろ予備校に入るように勧められていたが、千早と出会ってからはその時間が惜しくなり、必死に自宅で勉強を続けているのを見て、親は何も言わなくなった。

部活に入っているわけでもないのに、帰りが毎日遅く、休日も決まった時間に出かけることに何か勘づくものがあったのだろう。

時々にやにやした顔で見てくるのが少し不愉快だったが、直接何か言ってくることはなかった。




いつだって神社に行くと千早はいた。


雨の日だって千早はいた。

濡れないように本堂の軒で一緒に雨宿りしたこともあった。

暇つぶしに広げた学校の参考書も興味深そうに見ていたし、問題の出し方を教えると、興味深そうに付き合ってくれたりもした。

スマホゲームには興味なさそうだったが。


ちょっと変わっているけれど、もう俺は千早を神様とは思っていなかった。


少し前にいつもより早く神社を訪れた時、千早が手のひらサイズの葉を両手に挟み、なにやら熱心に祈願しているのを見たことがあるからだ。

とても神聖なもののように感じたが、なんだかちぐはぐにも見えた。


神様なら願われる側なのに、千早は誰かに縋るみたいに祈っていた。


その時、俺はその葉は何なのか聞いたが、夢をかなえてくれるものと、なんともあいまいな言葉が返された。

なにかの願掛けなのだろうが、少し子どもっぽいような気もした。




息が少し乱れるが、56段もある石段もだいぶ慣れてきた。

滑りやすい石を避け、足取り軽く駆け上がる。気分が高揚する。


毎日会話を交わしているし、手を握ったこともある。が、そろそろ…もう少し、進展したい。

何とは言わないが、下心くらいある。

付き合って1か月の記念にプレゼントを用意していたのだ。


階段をのぼりきった先の本堂の左手、俺が着くよりも先に、千早はいた。


いつものようにベンチに腰かけ、手ぐしで髪をすいていたり、土の地面に足先で落書きをしていたりしている。

千早がソワソワする行動を見るたび、なんだか胸を揺さぶられていた。


「千早!」


「陽太!やっと来た!」


息を整え、声をかけると、千早はいつも笑顔で迎えてくれる。

「いつもより遅かったんじゃない?」

千早は口を尖らせる。


「ごめん。ちょっと寄るところがあって、遅くなったんだよ」

「ふぅん?もう来ないのかと思った」

「そんなわけないだろ」


千早は嫌味っぽく言ったのだろうが、顔は嬉しそうだ。


「連絡手段がないから遅れるなんて伝えようがないだろ?それに、来なかったことないだろ?」

「……そうね。ごめんなさい」


これだ。

千早の沈んだ顔を見るたびに、胸がかきむしられるような気分になる。


「遅くなったのはごめん。ほら、付き合って1ヶ月の記念にプレゼントしたいって、昨日言っただろ?」

千早にベンチに腰かけるよう促し、俺も隣に座った。


リュックからラッピングにされていないキーホルダーを取り出した。最近流行りのキャラクター、ばかし漫才タヌキツネのぬいぐるみキーホルダーだ。人の姿をしているのに、タヌキの耳にキツネのしっぽ、狐の耳にタヌキのしっぽのコンビが頬をくっつけてスタンドマイクに顔を近づけている。

俺には間抜けに見えて、あまり良さが分からないが、女の子の間では流行っているみたいでよく見かけていたのだ。


「ふふっ。陽太から聞いてたけど、かわいいじゃない」

「今ブームってだけかもだけどな。店はどこも売り切れで、昨日ゲーセンで見つけたから取ったんだ。すげー大変だったんだぜ?」

「ふぅん?ありがとう」


思っていたよりあっさりしたお礼に、俺はなんだかショックを受けた。


「お金だいぶかかってさ。店で買うより高くついたんだ」

「ふふっ。私のために頑張ってくれたんだ?」


千早の分かってないような口ぶりに、なんだかモヤモヤした。


「で、千早は?」


「私からはね、はい」

パサリと出されたのはその辺の野花をかき集めてきたのか、小さな花束を差し出してきた。

「かわいいでしょ?」

「かわいいけど……」


「葛のつるでまとめて縛るの、大変だったんだよね」

なんだか子どもが思いつきそうなものだなと思った。


「あと、これも。ね、両手出して?」

言われるがまま、花束を膝に置き、両手のひらを差し出した。


「はい」


パラパラパラ。


「……なにこれ?」

「クサイチゴだよ。知らないの?」

「いや……うん」


思いきり戸惑ってしまった。


「なによ、洗ってるし、しかも、傷んでない食べ頃のものをちゃんと選んだんだからね」

大変苦労したと言外で言っているのが伝わる。


しかしだ。


俺は探し回って苦労したキーホルダーを渡したのに、返ってきたのは、どこで摘んできたのか分からない野イチゴだなんて。

なんて不釣り合いなんだ。


「あー……うん。ありがとう」

「ちゃあんと味わうのよ?」

一口食べると確かに甘かった。

後に引く渋みと酸味を感じながら、俺はため息をついた。



神様という設定はどこまで続けるんだろうな……

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