十七話 二番手のままでいい
「もう駄目よ、隠し通せやしない」
凛は抱きつこうとする美代を制してそう言った。
「駄目なんて言わないで」
美代は、その蒼い瞳からひと粒の涙をこぼした。
「もう貴女には会わない」
凛は、瞳を潤ませながらも、決然と言い放つ。
美代は雷に打たれたような悲壮な表情を浮かべた。その表情を見て、凛は自分の発した言葉を初めて後悔した。
「…会わない」
先程の決然とした言い方とは程遠い、揺れた声。
「嫌よ」
その揺れに気付いたのか、美代はぐいと一歩前に出て、凛との距離を詰める。
「わたしから貴女を引いたら何が残るの?」
「何が残るって…言われても……」
「何も残らないわよ」
美代の一言は、凛の脳内では死んでやる、に変換されて大きく響いた。
美代は更にもう一歩前に出て、凛の手を掴んだ。
「お願い、貴女を喪いたくないの」
砂がサラリと風に煽られて舞うのを、凛は黙って見つめていた。
「突然もう会わないなんて、どうしたの?」
「わたしたち、やっぱり報われないわよ」
「それはこれから考えよう。わたしは…」
美代は必死に考えた。繋ぎ止める言葉を探して。
「ねぇ凛、わたし、凛を、凛だけを愛してるの」
美代はポロポロと泣き出した。砂浜に吸い込まれてゆくそれは、乾いた凛の身体にもすぅっと沁みた。
「だから、二番手のままでいい。啓介さんの次でいいの…そばに居させて」
「美代…聞いて」
美代は掴んだ凛の手を、そっと優しく包み込んだ。
「貴女はまだ未成年で、未来は明るい」
「貴女さえ居てくれれば、ね」
「…わたしのことなんて、忘れた方がいい」
美代はそれでもまだ、手を離さなかったし、凛はその手を振り解けなかった。
「家族のもとに、帰らせて」
言いたくなかった台詞が、凛の口からスラスラと出る。
「貴女の愛は、重いの。もう、要らない」
美代が静かに傷ついた表情をする。
「嘘よね?…わたしを傷つけるような事、わざと言って」
そこで美代はハッとした。
「親に何か言われた?日記の位置が、昨日変わっていたの。もしかして…」
「関係ない。もう貴女のことは好きじゃない」
「嘘よね?」
「嘘じゃないっ」
そして思い切り手を振り払った。
「さようなら」
そのまま自転車に跨り、海岸を去る。
最愛の人と決別した凛は、泣きながら自転車を漕いでいた。




