↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梅に髑髏  作者: まめ童子
紅子と稔
40/46

其の十


 夜が更(ふ)けると、菖蒲(あやめ)は座敷牢に足を運んだ。建物が見えたあたりで妙な予感がして、彼女はもしやと思い扉へ急いだ。


 「――へえ、やってくれるじゃん」


 鍵が壊され開け放たれた戸口から中に入る。月明かりに照らされた鉄格子側の壁には何か血の滴(したた)るものを放ったように赤い飛沫(ひまつ)が上に伸びていた。昼間にはなかったものだ。


 状況からすべての顛末(てんまつ)を悟った菖蒲は、はじめはくつくつと音を漏らしていたがやがて大声をたてて笑った。


 そして目尻に滲(にじ)んだ涙を軽く拭(ぬぐ)うと、小さく呟く。


 「やっぱおもしろいなあ、あの二人――」


***


 話は数刻前に遡(さかのぼ)る。


 ひとまずこれからの行動を考えるにあたり状況を整理する必要があったので、稔(みのり)と紅子(べにこ)は互いにその身に起こった出来事を話し合うことにした。


 紅子が遭遇(そうぐう)した事態の仔細(しさい)を聞いた稔は表情を険しくし、忌々(いまいま)しげに呟く。


 「奴らめ、あろうことか無関係の紫(ゆかり)さんを巻き込むとは――」


 「――紫は才花衆(さいかしゅう)ではないとはいえ、山辺(やまべ)一派の者です。この件に全く関係がないかといえばそうでもありません」


 紅子の言葉に稔は、いや、と首を横に降った。


 「菖蒲という女の目的は、僕に頭領の人形を作らせることなんだろうけど、僕を襲った男、昇(のぼる)の目的は違う。彼の目的は恐らく――」


 男はそこで言葉を切り、じっと自分の傍に座す女を見つめた。その視線に、ある推測が浮かんだ紅子は、はっと身を強張らせる。


 「その者は、私(・)た(・)ち(・)の(・)事(・)情(・)を知っているのですね」


 稔はゆっくりと頷(うなず)いた。そうして自分の指先に目をやりながら口を開く。


 「そう、彼の目的は君に僕を殺させて、亡き者にすることだ」


 紅子は怪訝(けげん)な顔をする。――一体その男はなぜ、自分たちをそのような目に遭(あ)わせようとしているのか。


 「昇は僕の兄弟子だったんだ。――彼は結局、生き人形を作る人形師にはなれなかったけれど」


 彼女の疑念を察したのか、稔はどこか悲しげな表情を浮かべて言った。


 「人形師になれなかった?」


 ますます訝(いぶか)しげに問う紅子に、男は曖昧な笑みを返す。


 「話すと長くなるからね、仔細は後だ。それより、二人の目的がはっきりした以上、ここを抜け出したとていきなり紫さんに手を出すことはないだろうから、今はどうにかここから出る方法を考えないと」


 稔は胡座(あぐら)をかいて座り込み、枷(かせ)が嵌(はま)ったままの手で頬杖(ほおづえ)をつきながら思案しはじめた。


 彼らが閉じ込められている座敷牢は堅牢(けんろう)な石造りだ。出口らしい出口は正面の扉以外は、天井近くに採光のために備えられたであろう鉄格子の嵌まった開口部くらいしかなく、そう簡単に抜け出すことは叶わない。


 紅子も特に良い案が浮かばず、目を瞑(つむ)ったまま思案していた。


閲覧ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。