其の七
しばらくの間、為なす術もなく稔の身体を抱いたまま、紅子はじっと時がすぎるのを待っていた。
彼は不老不死だ。状態は酷ひどいが数刻で回復するはずである。
だが余りに悲惨な状況に、紅子の胸は痛んだ。不老不死とて痛みを感じないわけではないだろう。彼の苦痛はいかばかりだったろうか。
「稔さま、申し訳ありません。私のせいです。私が貴方を巻き込んでしまった――」
言葉と共に涙が込み上げてくる。稔を抱く腕に力がこもった。
「私が、父を殺さなければ――、貴方に出逢わなければきっと――」
「そんなもしもの話、考える必要なんてないよ」
紅子の腕の内からくぐもった声でそう言うのが聞こえた。彼女は、はっとして稔の顔を見る。相変わらず痛々しいほどに血塗れだが、いつの間にかその頭部は綺麗に再生していた。
ぽたぽたと、堪えきれず溢れた紅子の涙が、稔の額を濡らす。彼は優しい顔で弱々しく微笑んで、痛みで自由にならない腕をなんとか持ち上げて彼女の頬を撫でる。
「言ったでしょう。僕らの間には『今』さえあれば、それでいいんだ」
紅子はぎゅっと顔を歪めて、頭を横に振った。相変わらず涙は溢れて止まない。
「――どうして私なのです。よりにもよって、どうして『今』だけを見つめて生きるに相応しくない私を、お選びになったのですか」
雪梅としての命を終え、稔の手により再び魂が時を刻み始め、紅子という名を与えられたとき、彼女は過去と決別すると決めた。
けれどその業はあまりに深く、今も逃れられない罪としてその身に纏わりついている。
そうしてとうとう、このような結果を招いた。
罪悪感から苦悶の表情を浮かべる紅子を労るようにその手を握って、稔は応える。
「君が何者でも構わない。そう思ったからだよ」
榛色の瞳が、紅子を真っ直ぐに捉えている。そのあまりの真っ直ぐさに、紅子は恐れさえ覚えた。
どうしてかいつも、この眼差しに見つめられると、身動きが取れなくなってしまうのだ。
「これが愛でも執着でも結論は同じなんだ。――ただ、君が欲しい」
吐息に熱を滲ませて、稔は一房掬った紅子の髪に口づけた。そしてそのまま彼女の額に自らの額を寄せる。
紅子は止まっているはずの胸の鼓動が跳ねるような気がした。
彼の気持ちを理解はできない。彼にそうまで思い込ませるだけの理由も思い付かない。
それでもなぜか、紅子が何者でも構わないと、そう言いきる稔の存在が、かけがえなく感じられた。
「――私の背中を、ご覧になったでしょう。これこそが貴方と私の縁のはじまり。どうか聞いてくださいませんか? 私の犯した罪について」
紅子は黒曜石の瞳に決意を湛えて稔を見つめる。彼は「そんなのいいのに」と苦笑したが、柔らかく眦をなごませるとひとつ頷いた。
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