其の五
水に濡れたせいなのか、虚を衝かれたせいなのか、稔の身体は冷たく凍てつくようだった。
どういうわけか彼の手足には枷が嵌められている。辺りを見渡してみるも石造りの壁に囲われるばかりだった。――ここは座敷牢か何かだろう。
どうしてこんなことになっているのか皆目見当もつかない。
ただひとつ分かっているのは、目の前の人物が何者なのかということだけだ。
「――昇義兄さん」
「嬉しいなあ。まだ義兄と呼んでくれるのか」
昇と呼ばれた男はにたにたと笑うと、稔の肩を叩く。近くに寄った彼の顔を見て、稔は息を呑んだ。
「――随分、時が経ったものですね」
その言葉に、そうだなあ、と昇は頷いた。
「俺も大分、老けたろう」
彼はそう言って己の顔を撫でた。その手にも顔にも、皺が浮いている。
すると、俄に昇は稔の頬を撫でた。ざらっとした感触に稔は身震いする。
「その点、お前はいいなあ。あの時から少しも変わってない。本当に、少しも」
言うや否や、昇はいきなり稔の頭を壁面に叩きつけた。ごん、と鈍い音が響く。痛みと衝撃に男は思わず呻いた。
「ああ、楽しかったな、あの修行の日々は。師匠と俺とお前の三人で、仲良くやってたよなあ。あの時までは」
そう言うと昇はさらに稔の頭を壁に何度も強く打ち付ける。吹き出した血が稔の着物を濡らした。すると興奮した様子の昇は突如笑い声をあげた。
「さすが不老不死だな、全く死ぬ気配がないじゃないか」
痛みに朦朧とする意識を必死に保ちながら、稔は自分を虐げる男を見上げて不敵に笑ってみせる。
「この程度で死んでいるようでは、人形たちに示しがつかないのでね」
「相変わらず兄弟子に対して生意気なやつだな」
そう言うと昇は再び渾身の力を込めて稔の頭を何度も何度も石壁に叩きつけた。何か固いものが砕ける音がして、血が勢いよく吹き出す。稔は悲鳴を上げてそのまま気を失った。
稔の頭を形が無くなるまで叩き砕いた昇は荒く息をつくと、ぐったりとした稔を表情なく見下ろしていた。だが、突如、くつくつと笑い出す。
「――なんだ、痛みはあるんだな」
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