其の四
紅子は自室の畳に横たわっていた。
「姫さま、花札をいたしましょう」
そう言って紫が、笑顔で花札を並べはじめる。紅子はぼんやりその様子を眺めていたが、彼女の顔が妙に幼い気がした。
「さあ、できましたよ」
紫はにこにこと笑いながら、札を捲りはじめる。その光景を見ていると何だかよくわからないが、幸せな気持ちになった。
そうね、紫、ゆかり――
「――紫!」
紅子は、はっと目を覚ました。そうして一気に現実に引き戻される。
「おはよう姫さま。よくお眠りだったね」
声に振り向くと、菖蒲がにやにやと意地悪い笑みを浮かべて紅子を見ていた。
「紫、紫ってうなされちゃって。そんなに心配かい?」
「――紫を巻き込むな。目的は私だろう」
挑発には乗るまいと、紅子は表情を殺して菖蒲を一瞥する。だがそれが面白かったのか、女は声を立てて笑う。
「冷静ぶっても駄目だよ。紫ちゃんが心配じゃなかったら、お尋ね者のくせにわざわざ人里になんて降りてこないだろう?」
紅子はいよいよ不愉快を露に、菖蒲を睨め付けた。
「御託はいい。あらかた察しはついている。――生き人形と人形師、そしてそれにまつわる秘密を知る者の仕業だろう。だからこそ生身の人間である紫を人質にとったのだな」
「さっすが我らがお姫さま、ご名答」
菖蒲はぽんと手を叩いて喜んだ。その様子に紅子は苛立ちを禁じ得なかった。
「どうして私たちの事情をここまで仔細に知っている? 黒幕は誰だ? 目的は何だ?」
これ以上この女を付け上がらせまいと、彼女は本題を切り出す。すると菖蒲は手を叩いて満面の笑みで言った。
「そうそう、用があるのはあんたのご主人さまにさ。その稔さまにあんたから頼んで欲しいことがあるんだよ」
「――頼みごとだと?」
そうそう、と再び手を叩きながらくるっと回ってみせて、菖蒲は後ろに置いてあった黒く漆を掃いた箱から何かを取り出した。それを見た紅子は思わず口許を押さえる。
それは恐らく成人した男のものであろう、頭蓋骨だった。
「これは頭領のお骨さ。――あんたが殺した、あんたのお父さまのね」
紅子は目を瞠った。みるみると血の気が引いていくのを感じる。
その様子を、菖蒲はこの上なく面白いものでも見るように邪悪な笑みを湛えて眺めていた。そして硬直する紅子の手に遺骨を持たせて囁く。
「――紫を殺されたくなかったら、稔に頭領を蘇生させろ」
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