魔法使いのシショー
ヒロには秘密がある。
大切な幼馴染にも、親にだって言えない秘密が、ある。
その人は、自身を「魔法使い」と名乗っていた。
魔法使いと出会ったのは、夏の暑い日。
じりじりとした日差しがコンクリートを焼いていて、暑すぎるせいかセミの声だって聞こえない。
そんな日だった。
野球部のコテツや写真部のシュウヤと違い、無所属で部活動のないヒロはまっすぐ家へと帰っていた。
中学一年の7月中旬。
―夏休み、何する予定―?
なんて会話を、昼休みの時間にシュウヤやコテツと話した日だったと思う。
あんまり日差しが強いもんだから、日陰を通りたいってふと思った。
それで、いつもは通らない細い路地裏を建物の影を求めて使ってみた。
路地へと足を踏み入れた瞬間、ぐにゃりと一瞬視界が歪んだような気がして立ち止まる。
「やぁ」
その人は、静かに立っていた。
真夏に不似合いなロングコートを身にまとって、暑さなど感じさせない涼し気な笑みを浮かべ、立っていた。
すらりと伸びた背は高く、路地へと差し込む西日がその人の影を長く伸ばす。
数歩足を進め、ヒロとの距離を縮めたその人は少しかがんで、ヒロの顔を覗き込んだ。
恐ろしく美しい人だった。
すっと通った鼻に、切れ長の瞳。
薄い唇にシャープなあご。
よく見ると長いまつ毛に縁どられた瞳の色は薄く青みがかっていて、病的なほどに白い肌と相まってどこか神秘的である。
腰のあたりまで伸びた黒髪はその人をより中性的に見せて、ヒロはその人が彼なのか彼女なのか判断に迷う。
「魔法使いを信じるかい?」
外見の優美さに似合った、落ち着いた低い声。
「ま、まほーつかい?」
ヒロは肩にかかった学校指定のカバンの紐を強く握りしめる。
その時脳裏によぎったのは、オカルト好きな幼馴染、シュウヤの顔だった。
「超常的な存在に、興味はあります」
「ふぅん」
その人はヒロと少し距離を取ると、腕を組んで右手の親指と人差し指で自身の顎に触れる。
仕草のひとつひとつが絵になる人だと、ヒロはその一連の仕草にぼうっと見とれた。
「……そうか」
その人はふっと息を吐き、薄く微笑を浮かべる。
「うん、決めた。君、今日から私の弟子だよ。つまりはこうだ。『魔法使いの弟子』。いい響きだろう」
「は?」
わけのわからない展開に、頭が思考停止を起こしかける。
「私は人嫌いの魔法使い。よろしく頼むよ、新弟子くん。そうだな……。私のことはシショーとでも呼んでくれ」




