不死鳥
小さな魔たちは、怯えた様子で団子のようにくっつきあって、震えていた。
「怖いんだよ、本能的に。絶対に勝てない強者の気配に、こいつらみたいな弱い魔は身体が勝手に震えちゃうんだ」
不思議そうに小さな魔たちを見ていたヒロに、ナルがそう教えてくれた。
「そんなに強いんですか、悪魔憑きというのは」
「強いよ。ヤマネは気配を全く隠させていないから、彼らは余計に怖いだろうね。ヒロは怖くない?」
ヒロはヤマネの方を視た。
そこにはヤマネの姿があるだけで、周りの言う「悪魔」らしきものは確認できない。
「ぼくには……。よく、わかりません」
俯きがちに答えたヒロに、ナルは笑いながら言った。
「君、大物だね」
「で、このかわいい鳥を食べてほしいの?」
お堂から距離を取ったヤマネの問いに、「何かわかった?」とナルが聞いた。
「わかるわけないじゃん。害があるかないか。魔に対してはそれだけわかればいいでしょ。正体知ってるならさっさと教えなさいよ。そういうもったいぶるのが術士のやり方なの?」
「はは、手厳しいね。あれは不死鳥の雛だよ。不老不死をもたらすという、伝説の存在さ」
「不死鳥⁉」
ヒロは驚いて声をあげてしまった。
「なにそれ。食べたら不老不死になるの?」
ヤマネは興味なさそうに言った。
「死んでも蘇るから、不死鳥なんだって。食べたら不老不死になるかはわかんないな。そういった記録がないから。でも、知った者はほしがるだろうね。人も魔も」
「ナルはほしいわけ?その不老不死ってのを」
「まさか。俺はそんなものに興味はないよ。人として生きて、死にたいからね。そこの不死鳥、誰かに結界をかけられている。それを壊して、不死鳥を名持ちで保護しようって思ったんだけど」
「誰が守るの」
それまで静かだったカオルが言った。
「わたしはできない。不老不死を求める人や魔からその鳥を守るなんて、できない。ヤマネもヒロもダメよ。そんな危ないこと、わざわざする必要はない」
「俺は西條にこの雛を渡したくない。西條の古い文献に、不死鳥らしきものをこの辺りに封じたというような記述が残ってた。そこにこの噂だ。勘のいい上層部は気づいているだろうね」
「だから、なに」
「魔女に不死鳥を預けたい」
「なっ!」
「レディは然るべき家の生まれだ。素人とは違う。役目を理解している力ある者だ」
「その鳥を狙う人も魔も、レディの元へ向かってしまうわ!」
「誰も、見つけられやしないよ」
「一体、何の根拠があってそんなことを……」
「ここ数年。西條や術士の人間は、彼女を見つけられないでいる。魔女と直接会えているのは、カオルちゃん。君だけなんだよ」
ナルはそれからヒロをちらりと見て言った。
「それと今は、そこの魔法使いもかな」
ヤマネはカオルの前に立って、ナルを睨みつけた。
「結界を壊せばいいんでしょ。それから鳥を、西條に渡したくない。それならわたしがヒシイに持っていく。それでいいでしょ!」
ナルはゆったりと口角を上げて答えた。
「いいよ、それでも」
ずんずんとお堂の方へ歩いていくヤマネに、ナルは声をかけた。
「結界だけを壊すんだよ。お堂や建物はそのままで。雛は無傷で頼むよ」
「そんな器用なことできると思ってるの?壊してもナルなら丸く収めるでしょ。鳥は知らない。不死鳥だったら蘇るでしょ」
バッサリと答えたヤマネは、カオルを見上げてにっこりと笑った。
深く被られたキャップ帽の影に隠れて、カオルの表情はヒロにはわからない。
「カオルおねえちゃん、大丈夫だよ。わたし強いし、ヒシイはもっと強いもん」
ヤマネはお堂を指さした。
「そこの結界を壊して。中も外も、傷つけないで」
風が吹き抜けた。
瞬間、ヒロは視た。
大きな黒い影を。
街や学校で見かける靄のような魔とは全く違う。黒く、濃く、圧迫感のある存在。
「あれが、ヤマネの『悪魔』ですか」
小さくこぼれた言葉はカオルの耳に届いたようで、答えがあった。
「そう。形の定まらない、黒い影。それがヤマネの『悪魔』だよ」
バリンと、何かが壊れた音がした。
ヤマネは巣ごと鳥を抱えてナルを見た。
「これでいいんでしょ」
「上出来さ。日が暮れる前にさっさと帰りな。俺は他の術の気配がないか確かめてから帰るよ」
「小物は?」
そう言って団子のようにくっつきあっている小さな魔をヤマネは見た。
「カオルちゃんに任せるよ。魔女の依頼の原因だしね」
カオルはしゃがんで、なるだけ小さな魔たちに目線を合わせて話をした。
「お前たちの大事な雛は、魔女の代理として私が預かろう」
小さな魔たちは目を丸くして、カオルを見上げた。
―悪魔憑きのエサにするのではないか。
―魔女が守ってくれるのか。
「魔女の判断はわからない。でも悪いようにはしないでしょうよ。そしてお前たちが今後人に悪さをしないと約束できるなら、その緑札から解放する」
―我らは弱き存在だ。人から隠れて生きてきた。
―尊きお方が無事ならば、我らが出しゃばることもない。
―しない!しない!
カオルがナルを見れば、ナルは「はぁー」と息を吐いて、小さな魔たちの緑札を剥がした。
「カオルおねえちゃん」
もの言いたげなヤマネに、カヲルは淡く微笑んでヤマネの両腕に抱えられた巣に手を添えた。
「わたしがレディのところに持っていくよ」
レディのもとに、狙われるという存在を持ち込むことは怖い。
けれど、カオルの知るレディは強い。
「ナル」
ふと、美しい女の魔を思い出した。
「藤乃からの伝言。『手を引くように』って」
ナルはへらりと笑って、「バレてた?」と軽い調子で言った。




