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私たちは繭の中  作者: hayase
不死鳥
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階段を昇りきったところで、ナルは捕まえた魔を地へ放り投げた。


「これが噂の正体ですか?」


緑の札にぐるりと巻かれ、玉砂利の上に転がされた小さな魔をそこらで拾った小枝でつつきながら、ヒロは尋ねた。

彼らは手のひらよりもほんの少し大きなサイズで、この前大量発生していたオワタリ様よりは大きい。

人の姿に近い形で、身体の色はくすんだ赤褐色。

ざんばら頭はこげ茶色で、髪の長さが個体によって違うようだ。


大きなまあるい目がかわいいなと、ヒロは思った。

もぞもぞとしている小さな魔たちは反抗的にこちらを見上げ、何やら威勢よく言い返している。


―人のくせに生意気なっ!

―我らをこんな目に合わせて、ただで済むと思っているのか!

―いるのか!

―こんな札、すぐにはがして……はがして……。ぐぬぬっ

―おい、もしかしてこれ緑札じゃないのか

―緑札?それって西條の……


小さな魔たちはサァーっと顔を青ざめさせて、ピタリと口を閉じた。


「で。君ら、なんなの?」


ナルにそう問われた魔たちは、ガクガクと震えながら答えた。


―わ、我らは人が近寄らぬようにしているだけだ。

―そちらの方からこちらの領域に近づいたのだ。


「ナル、一体足りない。三体いたはず」

「あぁ、」


ナルは素早く緑札を草陰の方へと投げつけた。


―ひぎゃっ!


新たに捕まった小さな魔も玉砂利の上にころりと転がして、「全部だよ」とナルは言った。


「まぁ、予想はついてんだけどね。お前たちが派手に動くから、魔が噂をしている」


ナルは小さな魔を足先でちょいちょいと小突きながら言う。


「ほら、隠してるもんさっさと出しな」


―わ、我らが守るのだ!

―お前のような悪逆非道の輩から守るのが、我らの役目!

―そうだそうだ!


「ふーん」


冷めた温度のナルの目が、冷たく小さな魔たちを見下ろしている。


「本当の悪逆非道はね、」


カオルは魔の一体の首元に拾った枝の先を突き出して言った。


「言葉を交わしたりなんてしないのよ。躊躇なくお前たちの誰かを殺して、同じになりたくなければ言えと脅すの。それでも言わなければ、また殺して。最後の奴は、手足や指を一つずつ削って。そういう脅しの仕方をするのよ」


―あわわわわっ!


「わたしは魔女の弟子。魔女の依頼の代行者。お前たちが人に怪我をさせたから、魔女のもとに依頼がきたの」


―我らを、祓うのか……?


カオルは首を振った。


「いいえ。お前たちが守っているもの、手伝ってあげると言っている」


小さな魔たちは顔を見合わせ、やがてこくりと頷いた。


―わかった。案内しよう。





小さな魔たちは緑札を身体に張りつけられたまま、二体はナルが子猫の背を掴むような状態で両手に持ち、残りの一体が自由になった足でトテトテと先導するように歩いた。

神社の脇道を歩いてゆき、奥まった裏手のあたりにある小さなお堂の前で魔は立ち止まった。


―ここだ。堂の中ではない。屋根の裏、ほれ、上のあたりだ。


ナルはそれを聞くと両手に持っていた魔たちを放り投げ、真っ先にお堂の屋根を覗き込んだ。


「いた」


それを確認したナルはお堂と距離を取り、場所を空けた。


「危険はないよ。珍しいものだ」


次にお堂を覗き込んだカオルは、「わぁ!」と声を上げた。


―かわいかろう


小さな魔はそう言って、ナルを見た。


―ほら、お前さんも見るといい。人の短い命の中で見れる機会など、そうあるものではないからな。


ヒロは恐る恐る屋根を見上げた。

見上げて、小さなそれと目が合った。


それは鳥だった。

柔らかそうなふわふわとした灰色の毛が生えていて、大きな黒い目がこちらを見降ろしている。


「視えたか、ちび」

「ちびじゃありません!これから成長期なんです!」


ナルの心ない一言に、ヒロはクワッと言い返す。


「これは、なんなの?」


カオルが小さな魔たちに聞けば、彼らはとてもありがたいものだと胸を張った。


―尊きお方だ

―気やすく目にして良いお方ではないぞ

―ないぞ!


要領を得ない魔たちの後に、ナルが口を開いた。


「雛だ。その存在を知る者からすれば、喉から手が出るほど欲しいと渇望する。だが、」


ナルは言葉を切って、小さな魔たちを見下ろした。


「お前たち、これをどうするつもりだったんだ」


―わ、悪いものから守るのだ


「お前たちがか?」


ナルは鼻で笑った。


「張られた結界も破れないお前たちが、どうやって守るというのだ」


小さな魔たちはグッと言葉に詰まってしまった。


「結界ですか?」


ヒロはもう一度、お堂の屋根裏を覗き込んだ。

だが可愛らしい雛の黒い瞳と目が合うばかりで、ナルの言った結界のことはわからない。


「古く強固な陣だ。恐らくその雛を守るためのものだろうが、このまま放置と言うわけにもいかない。雛が大きくなれば自力で破ることもできるだろうが、それまで西條が待ってくれるか……」

「ナルがやっちゃえば?」


カオルの言葉に、「できないね」とナルは答えた。


「解き方もわからないし、力で破壊するには馬力が足りない」

「誰か呼ぼうか」

「いや……」


ナルとカオルの様子を見ていたヒロは、ふと、ヤマネの言葉を思い出した。


―純粋な強さだけならわたしたち悪魔憑きだけど


「悪魔憑きのヤマネはどうですか?」

「ヤマネか……」


ナルは迷うようなそぶりを見せた。


「馬力、つまり強さがいるんですよね。僕、詳しくは知らないんですが、悪魔憑きって強いんでしょう?」

「ナル、これは危険なの?」


カオルが問うた。


「雛は危なくないよ。結界も攻撃的なものじゃない。雛を狙う者が危険なだけだ」

「それならヤマネにお願いしましょう。魔女の依頼に関するものならいいって、ヒシイさんから赦しは得てる」

「今から呼べる?」


ナルの言葉に、カオルは頷いた。


「夕暮れ前だから大丈夫」


そう言ってカオルは、ヤマネを呼びに「道」を使って行ってしまった。


「便利だよねー。いいなぁ。俺もあんな術ほしい」


そう言ったナルに、小さな魔が話しかけた。


―お前、西條の


ナルは答えないままだったが、構わず魔は続けた。


―西條は恐ろしい話ばかりを聞く

―我らのような力なき者にとっては、災いのような存在だ

―だがお前は、我らを緑札で縛るだけ


視線を動かすことのないまま、ナルは口を開いた。


「俺は魔女の依頼の手伝いで来ている。西條への依頼なら、お前たちの言葉をきくことなどないよ」


―魔女か

―魔女とな

―東の人間

―そういえば、悪魔憑きとも言ってなかったか

―悪魔憑き!

―恐ろしや、恐ろしや


「こんな小物が魔女の依頼の原因なの」


強気な言葉と共に姿を現したのは、小柄な少女、ヤマネだった。


「やぁ、久しぶり」


ナルはにこやかにヤマネに手を振った。


「ナルまでいるの?」


顔をしかめたヤマネの背にそっと手を置いて、カオルはお堂を指さした。


「とても珍しいんだって。見てみてほしいの」


お堂の下でカオルはヤマネを抱き上げた。

背が足りないと思ったのだろう。


「見えた?」


カオルの問いに、ヤマネはこくんと頷いた。


「うん、見えた。かわいい鳥さん」


ふと気になって、ヒロは足元の小さな魔たちの様子を伺った。

先ほどまであれだけぺらぺらお喋りしていたのに、ヤマネが現れた途端彼らが妙に静かなのだ。

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