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私たちは繭の中  作者: hayase
藤乃
44/45

魔女と東條家


藤乃の案内で術士との鉢合わせを避けその場を離れたカオルとヒロは、走ったせいで荒れた息を整えていた。


「感謝する、人間」


息一つ荒らさず、涼やかなままの藤乃が言った。


「ところで、魔法使い。ナルとは親しい関係なのか?」


ヒロはびくっと肩を震わせ、勢いよく首を振った。


「いやいやいやいや。ないですないです。ぼく、新入りなんで、都合よく扱われているだけですよ。でも、なんでその名前……」

「おや。屋敷にいたわたしを追い出しにかかったのはおまえたち二人だろう」


「え……、あ。え⁉」


ヒロの頭の中で、ナルに囮みたいに使われた日のことが蘇る。


「あの、屋敷にいた大きな蜘蛛は……」

「わたしだ。周囲の術士を警戒したのか、随分と派手に術を使っていたな」


ザッとヒロは血の気が引くような音がした。


「いや、あの……。ぼくはあなたがいらっしゃると知らなくて、バイトだと駆り出されただけでして……」


だんだんと語尾が小さくなりながら、必死に言葉を連ねるヒロの様子に藤乃は首を傾げ、不思議そうに言う。


「何をそんなに緊張している。構わない。西條家はそういう家だ。それに、他の術士なら殺していた」


さらりと恐ろしいことを口にする藤乃に、ヒロは内心震えあがった。


「あの者は、ナルを気にしていた。だからわたしはナルを殺さない。ナルと一緒にいた、魔法使いも殺さない」


藤乃は遠い目をして言った。


「よくないものが動いている。人にも魔にも、よくないもの。西條といえど、今の弱体化した術士たちでは力不足だ。ナルに才はあるが、今のままでは到底敵わない。手を引くようにと伝えてほしい」


カオルはハッとして藤乃に尋ねた。


「それは、二山のヌシと関わりのあること?」

「片目を奪われた間抜けのことか」


藤乃は笑って、どうだろうなと答えた。


「わたしが先ほどそなたらの助力を経て消失させたのは、とある魔の眼球だ。ヌシが奪われたのも片目とな。はてさて、これらは無関係かの」


藤乃が去ったあと、カオルは「気になることがあるんだけど」と言った。


「バイトってどういうこと?それにナルとこそこそ何してたの」


ヒロは顔を青くさせたり白くさせたりしながら、ナルから持ち掛けられたバイトについて洗いざらい話してしまった。

ただ一つ、交わした取引のことは口にしなかった。

ナルから聞いた名持ちのこと、この場でカオルに話してしまうのはなんだか違うような気がしたから。





それからヒロとカオルは、レディのもとへ事の経緯を報告に行った。


「ヒロがナルにぱしられていました」


最後にそう締めくくったカオルから、事のあらましを聞いたレディは肩を震わせ笑った。


「西條の後継に目をつけられるなんて、よかったじゃない。西條は拠点をあちこちに持っているからね。困った時に使わせてもらうといいよ」


いつもと同じように赤いドレスを身にまとい、カウチにゆったりと身を預けたまま、レディは右手をくるりくるりと動かしている。何かを思い出す時のレディの仕草だ。


「片目、片目……。魔の眼球。それほど力のある魔であれば、情報が共有されているはずだから、見たことあるはずよね。うーん、ああっ!ダメっ!出てこない!」


レディは思い出すことを諦めた。


「西條の後継に聞いておいで。知らなくても、彼なら過去の記録を調べられる。藤乃という魔が滅した片目の持ち主のこと、わかるはずよ」


カオルは眉をひそめ、しかめっ面をした。


「西條は魔を祓ってしまいます」

「ナルは優しいよ」


レディが「ナル」と言ったことに、カオルは驚いた。これまでずっと「西條の後継」だったのに、まるでよく知る親しい者のように、「ナル」と自然に口にした。


「ナルと、親しいのですか?」


あら、とレディは口元に手を当てる。


「言ってなかったかしら。わたくし、西條の家とは交流があってよ。でも、西條本家の考え方は合わなくて、利害のある時だけ互いに協力し合う関係ね」


―魔女は東條家。


ナルから聞いたことをヒロは思い出した。そして、ここで「東條家」の名前が出なかったことで、レディはそのことをカオルに伝える気がないのだと思った。


「ちょうど良い依頼が来てるのよ」


いつものように、どこからか取り出した巻物をうしろに控えているKに手渡すとレディは依頼の説明を始めた。


「誰もいないのに、人の言葉が聞こえてくるんだって。それの正体の調査と、原因の排除が今回の依頼内容よ」


Kは、レディから受け取った巻物をカオルに差し出す。


「場所はこちらに」

「西條の後継、ナルを連れて行きなさい。危険があれば、そのままナルに祓ってもらっても構わないよ」

「すでに被害が出ているのですか?」

カオルの問いに、レディは答えた。

「けが人が数名。死人はなし。殺傷能力のある魔ではないはずよ。けれど、危なくなったら逃げなさい」

お久しぶりです!

ストックがなくなってしまいました。

更新頻度がゆっくりになります。

週一を目指しますが、守れる自信はあんまりないです……。

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