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私たちは繭の中  作者: hayase
藤乃
40/45

手に入れた鍵-2-

シューヤは理科室を出ると、すぐそばにある階段を昇った。


理科室は、校舎の一番端にあるから階段が近い。


ヒロたちの通う中学校の校舎は4階建てで、理科室は3階にあるから一つ階を上がれば4階になる。

4階にクラス教室はないため、普段生徒が歩いていることはほとんどない。


4階に着くと、シューヤは廊下には出ず、そのまままた階段を上がった。

それは数段ほどで終わってしまう階段で、その先には鉄の格子がある。


まさか、とヒロとコテツは顔を見合わせた。

シューヤは鉄格子に掛けられた南京錠を手に取り、取り出した鍵でそこを開けた。


「まじか……!」


コテツはワクワクを抑えきれない様子で、鉄格子を開けて中へと進んだシューヤに向かってダッとかけた。

シューヤは鉄格子の先にあった鉄の扉にも鍵を差し込み、グッとその扉を押し開けた。


ギぃ、という鈍い音を立てながら扉が開いて、シューヤが振り向く。


「ヒロ、鉄格子閉めてこっち来いよ」

「うん!」


なるべく音を立てないよう静かに鉄格子を閉じて、シューヤが開けていてくれた扉をくぐれば、パッと眩しさが目をついた。


「すげー!」


ケラケラとコテツは楽し気に笑って、シューヤに抱きついた。


「すげー、すげーよ‼屋上なんて漫画の世界だけかと思ってたぜ!」

「わかったから離れろ。すぐに離れろ。男と抱き合う趣味はない」


パッとシューヤから離れたコテツは、きょろきょろとあたりを見渡して言った。


「ちょっと探検してきてもいいか?」

「気をつけろよ。長い間手入れされていないだろうし、ここは4階以上の高さがある。落ちたら死ぬぞ」

「おっけー!」


さっそく探検に行ったコテツの姿が遠くになるのを見送って、ヒロはゆっくりと周囲を見渡した。


屋上は、とても綺麗とは言えるようなものではなかった。

あちこちに経年劣化の跡が目立ち、下は黒く汚れた個所も多くあって、とても座ってゆっくりしようなんて思えない。


けれど、頬を撫でる風が新鮮だった。


頭上の太陽の日差しが暑いくらいで、春の陽気が心地よかった。

握った拳を真上にあげて、ヒロはめいいっぱい背伸びをした。


「ここの鍵、どーしたの?」


背伸びしたまま逆さに見えるシューヤに聞けば、シューヤは悪い顔して笑って答えた。


「そんなの、色々バレるとヤバいことしたに決まってんじゃん」

「あははっ!」


ヒロは、シューヤのそういうところがたまらなく好きだった。


「バレなきゃいーじゃん」


肯定するようにそうヒロが言えば、シューヤは「そうだよ」と、パチリとウインクを返した。


ふと、ヒロはひとつの人影に気づいた。


人影は屋上の淵ギリギリに立っているように見えて、ヒロは思わず駆け寄った。

コテツかと思って、焦ったのだ。


「あんましそんなとこ行くなよ。危ないだろ」


声をかけてから気づく。


人影は、コテツよりも背が高かった。

髪も長くて、制服も着ていなかった。髪の色と同じ、帯まで真っ黒な着物を着ていたのだ。

ふり向いた女の唇に乗った真っ赤な紅がそっと動く。


「見つけた」


ヒロは動けなかった。


金縛りにあったみたいにピタリと全身が止まって、ただ眼だけを大きく見開いた。


真っ黒な女の瞳と目が合って、「見つかった」とヒロは思った。


女は魔だ。

直感的にそう感じた。


―魔と目を合わせちゃった場合はどうしたらいいんだ……。


ゆっくりと近づいてきた女は、ヒロの耳元まで顔を近づけた。

さらりと女の長い黒髪がヒロの肩に触れ、女は口を開いた。


「そう、おまえだ。この気配、間違いない」


そのまま女はスッと顔を傾けて、ヒロと目を合わせた。


「魔法使い、道具を貸せ。対価は払う」

「な、なんの話ですか」


ヒロはゴクリと唾をのんだ。

道具なんてものは知らないし、対価と言うのは魔女の願いのことではないのか。

女は目を細めるとヒロの顎をぐいと掴み、コテツの方へと向かせた。


「あの鈍感アホそうな人間をここから突き落とす」


あまりの横暴に、ヒロはうろたえた。


「いやいやいやいや。何か願いがあるんですねっ!叶えますから!協力しますからそういう物騒なのはなしでっ!」

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