手に入れた鍵-2-
シューヤは理科室を出ると、すぐそばにある階段を昇った。
理科室は、校舎の一番端にあるから階段が近い。
ヒロたちの通う中学校の校舎は4階建てで、理科室は3階にあるから一つ階を上がれば4階になる。
4階にクラス教室はないため、普段生徒が歩いていることはほとんどない。
4階に着くと、シューヤは廊下には出ず、そのまままた階段を上がった。
それは数段ほどで終わってしまう階段で、その先には鉄の格子がある。
まさか、とヒロとコテツは顔を見合わせた。
シューヤは鉄格子に掛けられた南京錠を手に取り、取り出した鍵でそこを開けた。
「まじか……!」
コテツはワクワクを抑えきれない様子で、鉄格子を開けて中へと進んだシューヤに向かってダッとかけた。
シューヤは鉄格子の先にあった鉄の扉にも鍵を差し込み、グッとその扉を押し開けた。
ギぃ、という鈍い音を立てながら扉が開いて、シューヤが振り向く。
「ヒロ、鉄格子閉めてこっち来いよ」
「うん!」
なるべく音を立てないよう静かに鉄格子を閉じて、シューヤが開けていてくれた扉をくぐれば、パッと眩しさが目をついた。
「すげー!」
ケラケラとコテツは楽し気に笑って、シューヤに抱きついた。
「すげー、すげーよ‼屋上なんて漫画の世界だけかと思ってたぜ!」
「わかったから離れろ。すぐに離れろ。男と抱き合う趣味はない」
パッとシューヤから離れたコテツは、きょろきょろとあたりを見渡して言った。
「ちょっと探検してきてもいいか?」
「気をつけろよ。長い間手入れされていないだろうし、ここは4階以上の高さがある。落ちたら死ぬぞ」
「おっけー!」
さっそく探検に行ったコテツの姿が遠くになるのを見送って、ヒロはゆっくりと周囲を見渡した。
屋上は、とても綺麗とは言えるようなものではなかった。
あちこちに経年劣化の跡が目立ち、下は黒く汚れた個所も多くあって、とても座ってゆっくりしようなんて思えない。
けれど、頬を撫でる風が新鮮だった。
頭上の太陽の日差しが暑いくらいで、春の陽気が心地よかった。
握った拳を真上にあげて、ヒロはめいいっぱい背伸びをした。
「ここの鍵、どーしたの?」
背伸びしたまま逆さに見えるシューヤに聞けば、シューヤは悪い顔して笑って答えた。
「そんなの、色々バレるとヤバいことしたに決まってんじゃん」
「あははっ!」
ヒロは、シューヤのそういうところがたまらなく好きだった。
「バレなきゃいーじゃん」
肯定するようにそうヒロが言えば、シューヤは「そうだよ」と、パチリとウインクを返した。
ふと、ヒロはひとつの人影に気づいた。
人影は屋上の淵ギリギリに立っているように見えて、ヒロは思わず駆け寄った。
コテツかと思って、焦ったのだ。
「あんましそんなとこ行くなよ。危ないだろ」
声をかけてから気づく。
人影は、コテツよりも背が高かった。
髪も長くて、制服も着ていなかった。髪の色と同じ、帯まで真っ黒な着物を着ていたのだ。
ふり向いた女の唇に乗った真っ赤な紅がそっと動く。
「見つけた」
ヒロは動けなかった。
金縛りにあったみたいにピタリと全身が止まって、ただ眼だけを大きく見開いた。
真っ黒な女の瞳と目が合って、「見つかった」とヒロは思った。
女は魔だ。
直感的にそう感じた。
―魔と目を合わせちゃった場合はどうしたらいいんだ……。
ゆっくりと近づいてきた女は、ヒロの耳元まで顔を近づけた。
さらりと女の長い黒髪がヒロの肩に触れ、女は口を開いた。
「そう、おまえだ。この気配、間違いない」
そのまま女はスッと顔を傾けて、ヒロと目を合わせた。
「魔法使い、道具を貸せ。対価は払う」
「な、なんの話ですか」
ヒロはゴクリと唾をのんだ。
道具なんてものは知らないし、対価と言うのは魔女の願いのことではないのか。
女は目を細めるとヒロの顎をぐいと掴み、コテツの方へと向かせた。
「あの鈍感そうな人間をここから突き落とす」
あまりの横暴に、ヒロはうろたえた。
「いやいやいやいや。何か願いがあるんですねっ!叶えますから!協力しますからそういう物騒なのはなしでっ!」




