手に入れた鍵-1-
―月曜日。
「やべー、やべーぞヒロっ!」
昼休み、ヒロがお弁当を持って理科室に行くと、興奮したコテツに出迎えられた。
理科室の扉と鍵をしっかり閉めてから、冷静にぐるりと理科室内を見渡す。
いかにも怪しげな物は見当たらず、なら犯人は……とコテツのすぐ近くに座っていたシューヤを見ると、ニヤッと楽し気に口角をあげたシューヤと目が合った。
「喜べ。ついに憧れの場所に忍び込めるぞ」
そう言ったシューヤは、何かをふわりと宙に放り投げてキャッチする。
チャリ、と聞こえた金属音にヒロは目を丸くした。
「鍵?」
「そうなんだよ!昼飯食べたら連れてってくれるってさ!」
ニカッと笑うコテツに、どこかとヒロが聞けば、知らないっ!と勢いよく返事が返ってきた。
シューヤに視線で問いかけても、ニヤニヤとした笑みで無言を貫くばかり。
その顔、シューヤファンの女子が視たら喜ぶだろなー、と思いながら、ヒロは座ってお弁当をさっさと食べることにした。
視界の端で、うようよとうごめく影のようなものを捉えて、ヒロはそれらをなるべく視ないようにと視線をお弁当へ目線を一点集中させる。
カオルやレディと会ってから、ヒロは今まで見たこともなかったようなものを視るようになった。
多くははっきりとした形のない、影のようなもので、ただそこにいるだけでそれほど危険は感じない。
街中を歩いていても、それらがヒロに気づいて襲ってくるようなこともない。
魔と教わった彼らのことを、ナルはカオルに言われた通り、いないものとして扱った。
なるべく視界に入れないようにして、気にしない、気にしない、気にしすぎない。
彼らが視えるようになってから、ヒロは学校が怖くなった。
学校の彼らは、街中で見かける彼らと違う。
その違いは小さなもので、黒っぽい色が少し濃いとか、集まってる数が多いとか、そういう違いだ。
けれど、なんとなく。
嫌な感じというのがするのだ。
街を普段歩いている時には感じない、嫌な感じ。
「ヒロ」
シューヤの声に、ハッとする。
慌てて顔を上げれば、シューヤが心配そうにヒロの顔の前でひらひらと手を振っていた。
「今週土曜日、空いてるかって話してたんだけど、聞こえてたか?」
コテツの問いかけに、そうだったっけ?とヒロは首を傾げた。
「ごめん、ちょっとぼーっとしちゃってた。土曜日か……」
ひろの頭の中に、カオルの姿が思い浮かんだ。
何か依頼の約束があったわけじゃないけど、ぼんやりとその日は空けておきたいと思った。
「読みたい本があってさ、土曜はごめん」
「あぁ、うん。それは別にいいんだけどよ。本読みすぎて夜更かしとかしてんのか?ヒロ、最近調子悪そうだぞ」
コテツにそう言われて、ヒロはえっ、と声をあげた。それから勢いよく首を横に振った。
「いやいや、親に塾のことか言われてさ。受験だろーとかなんとかかんとか」
とっさに、誤魔化すために受験のことを引き合いに出したけど、それはほんとの話だった。
中学三年生のヒロたち三人は受験生で、行きたい高校とか決めなきゃいけないらしい。
家のポストに入ってた塾のチラシを見たヒロの母親は、「塾とかどうするの?」とヒロに聞いてきた。
正直、そんなの聞かれても困る。
コテツはゲッと顔をしかめて、「それは調子悪くなるわ」と同意した。
「シューヤなんかは頭いいから、大丈夫だろうけどさ。赤点常連のオレはもうどうすりゃいいのか……。親にはさっさと部活やめて塾増やすかって聞かれるし」
オレ、べんきょー無理、とコテツはぐでーんと身体を机の上いっぱいに伸ばした。
「え、コテツはスポーツ推薦狙いなのかと思ってた」
シューヤの言葉に、コテツは「んぁ」とそのだらしない姿勢のまま視線だけを投げた。
「スポーツめっちゃできる奴は、勉強が苦手でも高校入れる制度があるんだよ」
「うおおおっ!まじかっ‼」
大喜びで跳ね起きたコテツに、シューヤは「ヨカッタネ」と片言で言って、チャリ、と手の中でカギを鳴らした。
「で、どうする。今日はやめとく?」
「行くに決まってんだろ!」
「ヒロは?」
シューヤに聞かれて、ヒロも大きく頷いた。
「ぼくも行きたい」




