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私たちは繭の中  作者: hayase
退魔師の後継『ナル』
34/45

ナルと叔父さん-1-

「奈留、彼はおまえの母の親戚だ」


祖母に連れられた屋敷で、その人とは初めて会った。


40代頃に見えたその人は、自身を叔父のようなものだと思ってくれたらいいと言った。

だからナルは、その人のことを「叔父さん」と呼んだ。


おぼろげに残る記憶の中の母と、叔父さんはあまり似ていなかった。


叔父さんは背が高く、細身の体型をしていた。

祖母の屋敷でよく見かける、険しい顔をした術士たちとは違い、目尻を下げた優しい表情をよくする人だった。


「魔は、好きかね」


叔父さんの屋敷の庭で、こっそりと小さい魔たちと遊んでいるのを見つかった時、ナルは咄嗟に彼らを背に庇った。

そして、かけられた問いに首を横に振った。

けれど、彼らを否定するような言葉は言えなくて、ただ黙り込んでしまったナルに、叔父さんは何かを察したようだった。


「そうか。では美代子さんのところは辛いだろう」

「どうして」


わからず、そう答えたナルに、叔父さんは困ったような顔をした。


祖母の屋敷が辛いかどうかなど、ナルは考えたことがない。

今のナルにとってはソコが家だし、帰る場所だ。

叔父さんの問いかけの内容よりも、ナルには気になることがあった。

それは、叔父さんが祖母の名を口にしたことだ。


ナルはそれにとても驚いた。

なぜなら祖母の屋敷を出入りする術士たちは、祖母のことを「当主様」と呼ぶ。

祖母の名を口に出すことなど、決してしない。




西條は、魔を祓う家系だ。

魔を排除し、人を守る「術士」の家系として、何百年も続いているという。


ナルは、そんな西條の生まれであったが、魔を嫌うことができなかった。

むしろ、人とは違う彼らに強く興味を惹かれていた。


叔父さんは力の強い術士だそうで、祖母が長く不在になる時、ナルは彼の屋敷によく預けられた。

叔父さんの屋敷は西條の屋敷とは違い、屋敷のあちこちで小さな魔を見かけることが多くあった。

ナルが魔への好奇心が抑えきれずに彼らを目で追いかけていると、叔父さんは「彼らと話してもいいんだよ」とナルに言った。


「え、」


驚いたナルが叔父さんを見上げると、ほら、と叔父さんは手を伸ばして壁に張りついていた小さな魔をすくい取り、ナルの方へと差し出した。


「人に悪さをする魔は入れてないから、触れても問題ない」


差し出された手の中にいたのは、ふさふさとした黒い毛の生えた、四つ足の魔だった。

まん丸い黒い瞳が三つ、ナルのことをじっと見ていた。

恐る恐る手を出して、その魔の頭をなでてみれば、魔はその大きな瞳を細めてギぃ、ギぃ、と小さく鳴いた。



西條は古くから長く続く術士という家柄ゆえ、魔からの恨みを多く買っている。

そのため、祖母はナルに対して過剰に思えるような護衛をつけることが常であり、一人で外を出歩くことは決して許されず、厳重な結界の張られた西條の屋敷で過ごすことが多かった。

そんなナルにとって、魔を知識として知ってはいても、実際に視たり触ったりしたことはほとんどなかった。


一番近しい魔は、屋敷を出入りする術士たちが式にしている魔であったが、それらの魔はどこか歪な感じがして、あまり近づきたいとは思えなかった。

それが、叔父さんの屋敷にいる魔はどうだ。まるで犬や猫のように、ころころと屋敷の中でくつろいでいる。


「この魔たちは、叔父さんのペットなの?」


叔父さんは一瞬きょとんとして、次いで大きな声で笑った。


「あっはははは」


それからナルの頭をわしゃわしゃと搔きまわして言った。


「この屋敷に転がっている魔の多くは、自分の住処を失った者たちだよ。どこからか私の屋敷の噂を聞いて、やってきて。気づいたらこんなあり様さ」

「契約していない魔が屋敷にいるってこと?」

「そういうことだな。弱い魔ばかりだし、下手に私が使役をすれば彼らは死んでしまうよ」

「契約で魔が、死ぬの?」

「力の差がありすぎればな、そんなこともある。器用な奴なら、死なせず契約することもできるが、私はそういったことは苦手でね」


叔父さんの魔への接し方は、ナルの知る術士たちのそれとは違った。だから、思いきって聞いてみた。


「魔は、嫌わなくてもいいの?」

「うーん、」


叔父さんは唸って、それから廊下を歩きだした。

ついていくと、叔父さんが立ち止まったのは庭のよく見える縁側だった。


「座ろうか」


そう言った叔父さんの隣に、ナルも座った。


「そこに、木があるだろう」


叔父さんは庭で一番大きく立派な木を指さした。


「私は子どもの頃からこの屋敷に住んでてね。あの木があそこにあるのは当然だと思って育った。幼少期にこの庭で遊んだ時も、庭の手入れをする時も、私はあの木が邪魔だとか、嫌いだとか思ったことはない。私にとっては、彼らも一緒さ」


そう言った叔父さんの視線の先には、庭で遊んでいるいくつかの魔がいた。


「ナルは、木や石を特別嫌いになったことはあるかな?」

「ううん」

「では、その木や石をわざわざ嫌いになる必要を感じたことは?」

「あるわけないじゃん」

「では、木や石のように、私たちの視界に自然と入る彼らのことを、敢えて嫌う必要もないだろうよ」

「そっか」


ナルはぽそりと、言葉を落とした。

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