ナルのバイト-1-
―日曜日、約束したバイトの日がやってきた。
昨日の夜、ナルから指定された場所に言われた時間より少し早く着いたヒロは物珍しく周囲を見渡していた。郊外に立つ日本家屋の一軒家で、表札はない。
メッセージアプリで到着を知らせるとすぐに既読がつき、家の中からナルが出てきた。
「早いじゃん」
入るように促され、ヒロは怖々と足を踏み入れる。
「おじゃまします……」
「人は俺とヒロしかいないから、気楽に上がって」
―人はって、それ以外はいるってことなのか……?
そう思って、あぁ、とヒロはナルから言われたことを思い出す。
―それもそうか。魔を祓うバイトって言ってたもんな。
うっかり怖いものを視たくなくて、先を歩くナルの背中だけをヒロはまっすぐに追いかける。
「ここ、西條の持ち家。もとは分家が住んでいたんだけど、途絶えちゃってそれから10年くらい誰も住んでない。別の分家にこの家渡すってなって、この家綺麗にするのが俺らのバイトね」
先に着いていたナルが軽く掃除をしたのか、襖や窓は全て開け放たれていて閉塞感はなく、ほこりっぽさも感じない。
「随分綺麗な屋敷ですね。人が住まなくなった家は朽ちるのが早いと聞いたことがあるんですが」
「人はいない。だけど、魔が住んでる」
ひぇっとヒロは情けない声をあげて、少し開いていた前を歩くナルとの距離を縮めた。
「結構広いようですけど、一日で終わりますか……」
汚れてもいい服装で来てよかったと思いながらヒロは尋ねる。
「あぁ。下準備はもう全部してるから。ヒロはそこの六芒星の上に立っててくれたらいいよ」
そう言ってナルが指さしたのは、部屋の床面に大きく書かれた星に似た図形の中央。
「え、あの……。綺麗にって、掃除じゃないんですか?」
「俺がするバイトって言ったら、化け物退治に決まってるでしょー」
けらけらと笑うナルに、サーっとヒロは血の気が引いていく。
魔を祓うバイトとは言え、なんの力もない自分がするのは雑用とばかり思っていたのだ。
「こ、怖いのはぼくちょっと……」
「はいはーい。この中に立ってねー」
有無を言わさずナルに図形の中央あたりに連れていかれてしまい、ヒロはちょっと泣きそうになる。
「そこにいる限りは大丈夫だけど、そこから出たら喰われるから」
喰われるってなに!?と思いながら、ヒロは自分自身を抱きしめた。
「じゃ、しばらくそこ立ってて」
ナルは緑札を取り出して自身の額にそれを張ると、部屋の隅の壁に身体をピタリと沿わせて息を殺した。
―これって、おとりってやつじゃ……。
ヒロは釣り針に刺さったミミズってこんな気持ちかと、嫌な汗を額に浮かべながら想像した。




